スライダーの失点抑止の要因を考察する

 私はこれまでスライダーの失点抑止について、単純にスライダー自体の球速・変化量から考察していました。

 ただ速球の球速とスライダーのWhiff%に相関があるという記事を読み、認識を改めました。スライダーの失点抑止に速球の球速というスライダー以外の要素が関係してくる可能性があるのではないか。これは自分にはなかった発想です。

 実際に2021年のMLBで速球(FFもしくはSI)とスライダーをそれぞれ300球以上投げた投手、156人について速球の球速とスライダーのWhiff%で相関をとってみました。

 決定係数は0.1692とある程度の相関が認められました。ただ、この結果は速球の球速が影響してるのではない可能性もあります。例えば、実際に相関があるのは速球の球速ではなくスライダーの球速の方の可能性です。その場合、スライダーの球速と速球の球速の間に相関があるために疑似相関となってしまっている可能性もあります。そこで、スライダーの球速とスライダーのWhiff%で単回帰分析を行いました。

 決定係数は0.0336、速球の球速より相関が弱くなりました。スライダーの球速は速球の球速ほど重要ではないようです。

 以上の結果から、速球の球速はスライダーのWhiff%(それが波及してRun Valueにも?)に影響を与えている可能性があります。

速球の球速・スライダーの球速・変化量を組み合わせて分析する

 ここからは速球の球速・スライダーの球速・スライダーの変化量を組み合わせて効果を分析します。

 まず2015-2021年のMLBで各年度で速球(FF、FT、SI)を100球以上投げた投手を対象に各投手の平均球速を算出します。算出した速球の平均球速を基に144~148km/h、148~152km/h、152~156km/hの3グループに分割します。(MLBの平均球速が150km/hであることを考えると、遅い、中間、速いという順で考えてください)そして、それぞれのグループでどのような速度・変化量のスライダーを投げたかでよってさらにグループを分割します。500球以上投じられた組み合わせについてRV/100(100球あたりの得点価値)とWhiff%(空振り/スイング)を算出します。

 まずは速球との球速差が20~15km/hのスライダーです。

 表はMLB2015-2021のMLBでのスライダーの各種指標の平均値を中間値としてカラースケールを行っており、投手にとって良い値を記録すると赤く、悪い値を記録すると青くなるようにしています。(RV/100は-0.42、Whiff%は35.3が平均値です。)

 これらのスライダーの特徴としてまず速球の球速が144-148km/hは有効な組み合わせがほぼありません。速球の球速が遅い上にスライダーの球速まで遅いとスライダーで得点を防ぐことは難しいようです。

 148-152km/hの場合は、スライダーを水平方向に15cm以上変化させることが重要になります。

 152-156km/hの場合は、スライダーの変化が小さくともRV/100の値が良くなります。ただし横に大きく曲げられるなら曲げた方が良さそうです。

 このようにRV/100で差がつくのはWhiff%の影響が大きそうです。速球の球速が速いと同じ速球との球速差・変化量のスライダーでもWhiff%が高くなる傾向にあります。特にMLB平均より速い(152~156km/h)グループは強力です。

 速球との球速差が10~15km/hの場合についても見ていきます。

 先程より水平方向の変化の効果が大きくなっているようです。速球との球速差を小さくしたうえで水平方向の変化を大きくすることがスライダーで良い投球をする上で重要なようです。

 そして速球の球速グループが152-156km/hの場合のスライダーはかなり強力です。水平方向への変化が大きければ大きいほど効果は大きいものの、変化がそれほど大きくなくても得点を抑止する効果が期待できます。Whiff%は全ての組み合わせで平均値を超えています。

次に速球との球速差が5~10km/hの場合について見ていきます。

 Whiff%で見ると特徴的なのは垂直方向の変化についてライズの量が多いと打者にコンタクトされやすくなるということです。速球との球速差が少ないスライダーを投げるのならばあまりライズさせない方が良さそうです。

 そしてここでも速球の球速が速いグループの方がより効果的なスライダーを投げられているようです。

球速差ではなくスライダーの球速を統一した場合

 ここまでは速球との球速差を基に分析しました。ただ速球の平均球速が速い方が同じ球速差のスライダーでもそもそもスライダーの球速が速くなるのでは?速いスライダーがただ有効なだけなのでは?という可能性もあります。そこで同じ球速のスライダーを投げた場合でも効果があるかを見ていきます。まずは3つのグループでサンプルがそれなりに揃っている135-140km/hのスライダーについてです。

 スライダーの球速について統一した場合でも依然として効果が高いのは速球の球速が速いグループです。そして水平方向の変化が大きければ大きいほど良い効果を期待できます。

続いて140-145km/hのスライダーについてです。サンプルサイズの関係上148-152km/h、152-156km/hのスライダーに限定します。

 140-145km/hのスライダーはどちらのグループでも良い効果を期待できます。ですが、特に有効なのは152-156km/hのグループで、Whiff%はどの変化グループでも平均以上を期待できます。152-156km/hの速球を投げられる投手はスライダー自体が非常に強力なボールとなります。

まとめ

・速球の球速が速いほどスライダーのWhiff%は上がる。
・速球の球速が速いほどスライダーのRV/100は小さくなりやすい。(得点を抑止しやすい)
・水平方向へ大きく変化すればスライダーのRV/100は小さくなりやすい。(得点を抑止しやすい)

 他の条件が同じであれば速球の球速はスライダーで得点を防ぐ上で重要な要素となりそうです。スライダーの価値を高めたい場合、スライダーの球速や変化量を調整することをまず考えるかと思います。実際、スライダーの水平方向の変化を大きくすることは失点を抑止するうえで重要です。ただ、速球の球速を上げることもスライダーの価値を高めるうえで有利に働きそうです。

今回の分析ではBaseball Savantから入手したStatcastのデータを使用した。

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