打者はスイングを控えるべき?

 打者は打席でどのようにアプローチをするべきでしょうか。理想は三振を減らしたうえで四球を増やすことです。ただこれを実現するのは難しいと思われます。打者が積極的にスイングを試みればカウントが進みづらくなり三振は減りますが四球も減り、反対にスイングを控えれば四球は増えますが三振も増えると考えられます。


早いカウントで積極的にいくのもあり?(2023/7/17追記)


このnoteの結論ではスイングを控えた方が良いかもしれないとしましたが、コーリー・シーガーのように早いカウントではゾーン内の球に対しては積極的にスイングを仕掛け、浅いカウントでは平均的なスイング率に戻すという特徴的なアプローチで結果を残している例もあるようです。

面白い記事なので以下にリンクを載せます。


スイングを減らしても三振は増えない?

 しかし、実際はどうでしょうか?2019-2021年で連続する年で200打席以上に立った打者についてスイング率の変動とK%の変動、BB%の変動を見ていきます。

 Swing%が増えても減ってもK%の変動とは相関がありません。

 一方でBB%の変動はSwing%の変動と相関があります。

 全体的な傾向で言えば打者はスイングを減らすと四球が増え、増やすと減ります。一方で三振はスイングを増やしても減らしても関係がありません。このことからすると打者はスイングをしなければ打席アプローチが改善しそうです。

得点価値と各スイング率

 得点価値的にはどうなるでしょうか。ここでは三振と四球のみで構成したK_BB_wOBAという指標を作成します。

K_BB_wOBA = (0.7*BB)/(K+BB)

 2019-2021年で連続する年で200打席以上に立った打者について各スイング率の変動とK_BB_wOBAの変動の相関を見ていきます。

 O-Swing%(ボール球スイング率)は低くなるほどK_BB_wOBAは上昇します。ボール球をスイングしなければボールとコールされる頻度が増えるので自然な結果と言えます。

 Z-Swing%(ゾーン内スイング率)についても上昇するほどK_BB_wOBAは低下する傾向にある。ゾーン内であってもスイングすると打席アプローチによるwOBAは低下してしまうようだ。

 Swing%(スイング/投球)はK_BB_wOBAと相関がある。基本的に打者はスイングを控えれば控えるほど打席アプローチが向上し、スイングが増えるほど悪化するようだ。

まとめ

・スイング率の増減と三振の増減に相関はない。
・スイング率の増減と四球の増減には相関がある。
・スイング率の増減と打席アプローチの得点価値には相関がある。

 これらの結果を踏まえるとスイング率を低下させることにデメリットは特にないのにメリットは大きいように思えます。

 とはいえ打者にただ「スイングをするな」と指示すればうまくいくのかは微妙な感じはしています。打者の打席アプローチが明らかに変わった場合は相手もそれを感じとり、堂々とストライクを取ってくることが考えられます。スイングを減らしたら打席アプローチが向上する傾向にあるとはいえ、その減らし方の過程が大事なのかもしれません。

 何でも振っていた打者が例えば狙い球を絞る、スイングしていいコースをHeart Zoneに限定する*1、ようになれば投手にとっては脅威かもしれません。今までボール球を振ってくれた打者相手にボールカウントを先行させてしまい四球やストライクを取るために甘いコースに投げ込む機会が増えることが考えられるからです。また、いかに打者が今までよりスイングをしないようになったと言えど、投手は堂々とHeart Zoneに常に投げ込めるかと言えばおそらく抵抗はあるかと思います。(この辺のせめぎあいを定量化することは難しいと思いますし、打者が意図的にスタイルを変えた場合の定量化は難しいですが)

 打席アプローチで苦しむ打者は試してみても面白いのではないかと思うところです。(特に打球の価値が高い選手はボールゾーンでの勝負が多そうですし効果は大きそうです)*2

注釈とか

*1
Heart ZoneはAttack Zoneと呼ばれるゾーン区分における1つの区分です。

 4つのゾーンのうち最も打者のストライクレートの高いゾーン中央のゾーンがHeartです。ほとんどの打者がスイングで結果を出すにはこのHeartにスイングを限定しなければなりません。一見、Shadow(ストライクレートが半々のゾーンの境目)でもスイングを試みたほうがよいようにも思えます。しかしShadowでスイングを仕掛けてもほとんどの打者は価値を生み出せません。

 2018年以降、Shadowゾーンでスイングを試みた打者のうち正の得点価値を生み出せた選手は14人に留まります。(他の選手はShadowでスイングするとマイナスの得点価値になります)

 セイバリストであるtangotiger曰く

彼らがピッチがそこに着地することを知っているならば、彼らは決してスイングするべきではありません。もちろん、それは現実がどのように機能するかではないので、存在しないもののモデルを持つことはできません。(Google翻訳)

https://twitter.com/tangotiger/status/1418728044374761473

 と、打者がピッチがどこに着地するかを予測するかはわからないため現実でどう機能するかはわからないとしながらも、Shadowでスイングを試みるべできではないとしています。

*2
 Zone%(ストライクゾーン投球率)とwOBAcon(打球の価値)には相関があります。

 基本的に打球の価値が高い打者はゾーン内で勝負されにくい傾向にあるようです。そのため、ゾーン外のボールをきっちり振らなければカウントを有利にできたり四球を獲得できることが考えられます。

データ出典:

1.02 Essence of Baseball
https://1point02.jp/op/index.aspx

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