速球の球速がスライダーに与える影響

 「打者は投手の1番速い球をまずケアして、そこから変化球に対応する」という話を過去に聞いたことがある。事実なら対戦する投手の速球が速いほど打者は速球を意識して打席に立つ必要がありそうだ。そして、打者は速球に意識を傾ければ傾けるほど、変化球への対応が疎かになるのではないか。スライダーで検証する。

検証方法

 まず、2017-2021のMLBで速球(フォーシーム、ツーシーム、シンカー)を各年度100球以上投げた投手について平均球速をとる。そしてその平均球速を145-150、150-155、155-160にグループ分けする。そのグループ分けした中で変化量を縦横7.5cmずつグループ分けし各種指標をクロス集計して計算する。集計するスライダーの球速帯は135-140km/hとする。理由は2017-2021のMLBで最も投じられたスライダーの球速帯だからだ。

RV/100

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 まずはRV/100(100球あたりの得点価値)だ。この指標は100球投げるごとに得点をどれだけ増減させたかを表す指標だ。投手にとっては低ければ低いほど失点を抑止できていることを意味する。値はカラースケールされており青色が濃いほど値が低いことを意味する。

 表を見ると速球の平均球速が高まれば高まるほど青さが濃くなり、青い部分の面積が増えている。同じ球速・変化量のスライダーでも投げている投手の速球の球速が速いほどより効果的になるようだ。

Strike%

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 ここからは速球が速いほど同じスライダーでもRV/100の値が低くなる理由について考察する。まずはStrike%について見ていく。Strike%とは投球がストライク(見逃し、ファウルチップ、空振り)になった割合を表す指標だ。高いほどストライクを獲得できていることを意味する。135~140km/hのスライダーのStrike%の平均値である約32を中間値として値が高くなるほど赤くなるようカラースケールを行っている。

 表を見ると、速球の球速が遅い投手は同じスライダーを投げてもStrike%が低いことがわかる。一方で、速球の球速が速い場合は全体的にStrike%が高い。Strikeを多く獲得できることがRV値の良化につながったと思われる。

SwStr%

 Strike%は何によって高まっているかを検証する。まずはStrike%を構成する要素の1つであるSwStr%(空振り/投球)を見ていく。135-140km/hのスライダーの平均値である約18を中間値として値が高くなるほど赤くなるようにカラースケールをしている。

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 SwStr%はそれほど目立った傾向はないようだ。

CStr%

 Strike%を構成するもう1つの要素であるCStr%(見逃しストライク/投球)を見ていく。135-140km/hのスライダーの平均値である約14を中間値として値が高くなるほど赤くなるようにカラースケールをしている。

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 同じスライダーでも速球の平均球速が高ければ高いほど見逃しストライクを量産できるようだ。特に平均球速が155km/hを超えればどの変化量でも平均のCStr%を超える。

速球が速い投手のスライダーは制球が重要

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 Swing%(スイング/投球)を見ていく。(平均値である48.6を中間値としてカラースケールしている)速い速球を投げる投手のスライダーは同じ球速・変化量でも相手打者にスイングをされにくい。相手打者がスイングをシてこないということはゾーン内への投球さえできれば高い確率で見逃しストライクを期待できる。一方で制球に問題がある投手の場合は、相手打者にスイングしてもらえずみすみすボールカウントを増やしてしまう可能性もある。速球が速い投手のスライダーは制球力が重要だ。

まとめ

同じ球速・変化量のスライダーでも

・速球の球速が速いほどRV/100(100球あたりの得点価値、失点のリスク)は低くなる。

・要因としてはStrike%の上昇。

・Strike%上昇の要因としてはCStr%(見逃しストライク率)の上昇が大きい。

 投手が速球の球速を上げることは主に速球の威力を高めるためと解釈されることが多い。しかし、実際には速球の球速を上げることは変化球の威力を高めることにもつながるようだ。速球を武器にする投手にとっても変化球を武器にする投手にとっても速球の球速は重要なようだ。

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