緩急か、高速化か。変化球の理想の速球との球速比とは。
投球において緩急は重要な要素と言います。一方で近頃は変化球の高速化をすべきという意見も見られます。緩急か、高速化か。どちらが良いのでしょうか。
前提
試合の目的は勝利です。勝利を増やすにはチームの得失点を増やすことが重要です。つまり投球において重要なのは失点を減らすことです。ここでは優れているかどうかの基準は失点を防げるかどうかに重きをおきます。
検証
各選手の各球種で各選手の速球(フォーシーム、ツーシーム、シンカー)との平均球速の比をとります。
例えば平均球速150キロの選手が135キロのスライダーを投げた場合、そのスライダーの速球との平均球速の比は0.90となります。
このように各球種ごとに平均球速の比をとり0.02ごとにグループ化しグループごとのxPVの平均をとりxPV/100を算出します。(xPV/100とはその球種100球あたりで何点失点を防いだかを表す指標です。)
グループとxPV/100についての折れ線グラフを見ることで各球種の速球との球速比と失点のしにくさの傾向を探ります。集計対象は2000投球以上です。
なお球種の定義は以下の通りになります。
カーブ
カーブの球速比と失点の関係を見ると0.74~0.76のグループ(平均球速150km/hなら111~114km/h)を過ぎたあたりから価値が低下し0.80~0.82(120~123km/h)を過ぎたあたりからは球速が上がるごとに徐々に価値が上昇していきます。価値のピークは0.94~0.96(141~144km/h)です。基本的にカーブ(自由落下より沈む球)は球速が速ければ速いほど価値が高くなるようです。
横スライダー
横スライダーは0.88~0.90(平均球速150km/hなら132~135km/h)でピークを迎えそれ以前と以後でも価値が下がります。この辺りがちょうどよい球速比のようです。
縦スライダー
縦スライダーは0.90~0.92(平均球速150km/hなら135~138km/h)でピークを迎えそれ以前と以後でも価値が下がっていきます。
浮くチェンジアップ
浮くチェンジアップは0.86~0.88(平均球速150km/hなら129~132km/h)をピークにそれ以上球速が上がるとどんどん価値が低下します。浮くチェンジアップは遅い方が失点を防ぐ効果がありそうです。
沈むチェンジアップ
沈むチェンジアップは浮くチェンジアップと対照的に球速比が高ければ高いほど価値が高まります。チェンジアップと一言で言っても浮くか沈むかで理想の球速比は大きく異なるようです。
まとめ
・カーブは基本的に球速比が高ければ高いほど失点を防ぎやすい。
・横スライダーは速球と比較して0.88~0.90倍の速度が1番失点を防ぎやすい。
・縦スライダーは速球と比較して0.90~0.92倍の速度が1番失点を防ぎやすい。
・浮くチェンジアップは球速が速くなればなるほど失点しやすくなる。
・沈むチェンジアップは球速が速くなればなるほど失点を防ぎやすくなる。
緩急の効果は緩急をつけたその球種自体で失点を防ぐことだけでなく速球を活かす、遅い球種があることで打者に打ちにくさを与える、など色々ありますが今回は緩急をつけたその球種自体の効果に絞って検証しました。上記のように緩急をつける目的はその球種で失点を防ぐことだけではないのですが今回の検証で緩急について考えるうえで一つの参考になったのならば幸いです。
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