セイバーメトリクスの視点による失点しにくい(打たれにくい)スライダー

多くの投手が持ち球にしているスライダーは現在のMLBでは最も多く投げられている変化球だ。スライダーと一口に言っても遅いスライダー、高速スライダー、横曲がりが大きいスライダー、縦のスライダー、カットボールのような変化の小さいスライダーなど様々だがそんな多種多様なスライダーで失点しにくいスライダーとは何かをセイバーメトリクスの視点から探る。

xwOBA

まずはxwOBAを見ていく。xwOBAとは三振や四死球と言った非打球結果については実際のイベントの得点価値を打球については打球の速度と角度から推定した得点価値を基に加重した指標で各イベントに得点に基づいた加重を行う精度の高い出塁率(OPSと考えても良い)のようなものだ。投手にとっては低ければ低いほど失点のリスクが低いことを意味する。

球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のxwOBAを算出した。2015-2020年のMLBのスライダーのxwOBAの平均値である.261を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

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xwOBAが低くなりやすい球速・変化量の組み合わせは以下の3つがあるようだ。

1.スライダー方向への変化が22.5cm以上変化するスライダー。

2.自由落下より沈み球速が135km/hを超えるスライダー。(定義的にはパワーカーブに近いかもしれない)

3.球速が140km/hを超えて縦の変化量が15cm未満(15cm以上ホップしない)

特に横変化については大きければ大きいほどxwOBAが低くなりやすいようだ。

xwOBAcon

ここからは各要素でなぜスライダーの失点リスクが低下していくのかを見ていくことにする。まずは打球の失点リスクについて見ていく。ここで使うのはxwOBAconという指標だ。さきほどのxwOBAを打球に限定したもので打球の速度と角度から打球の失点リスクを推定したものだ。

先程と同じく球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のxwOBAconを算出した。2015-2020年のMLBのスライダーのxwOBAconの平均値である.351を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

SL 打球

横曲がりが22.5cmを超える、もしくは球速が140km/hを超えると打球による失点リスクは下がりやすくなるようだ。

Whiff%

次に打球以外の要素、ここではWhiff%を見ていく。Whiff%とは打者がスイングを試みたときにどれだけ空振りをとったかを表す指標だ。(空振り/スイング)空振りを多く取れていればリスクである打球そのものを発生させずかつストライクを稼ぐことで失点のリスクを減らすことができる。

球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のWhiff%を算出した。2015-2020年のMLBのスライダーのWhiff%の平均値である35.2%を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(空振りを取れていない)ほど青色が濃く値が高い(空振りを取れている)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

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Whiff%が高くなりやすい組み合わせとしては

1.球速が130km/hを超えて横変化量が22.5cmを超えるスライダー

2.球速が135km/hを超えて縦変化量が0cm未満のスライダー

3.球速が140km/hを超えて縦変化量が15cm未満のスライダー

の3つが挙げられるようだ。

Count Up%

横変化量の大きなスライダーや自由落下より沈むスライダーのような変化の大きなスライダーは失点を防ぐうえで効果的なようだ。しかし大きな変化のボールはストライクを取りづらいと思われるかもしれない。そこでストライクを稼いだ割合を算出する。

まずはCount Up%を見ていく。Count Up%とは2ストライク未満の投球を分母にして種類を問わずストライクを稼いだ割合(ファウル含む)だ。スライダーのCount Up%の平均値である49.5%を中間値としてカラースケールをしている。

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基本的に横変化量が22.5㎝を超える横変化の大きいスライダーはカウントを稼ぎやすいようだ。また球速との組み合わせは125~135km/hが良さそうだ。意外にも球速の速い小さな変化のスライダーはそれほどカウントを稼げないようだ。

Put Away%

続いてはPutAway%を見ていく。Put Away%とは2ストライクからの投球で三振を取った割合だ。スライダーのPut Away%の平均値である22.8%を中間値としてカラースケールをしている。

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Put Away%は横変化量が22.5cmを超えると平均を上回りやすくなるようだ。また球速が140km/hを超えて縦変化量が15cm未満の高速の縦のスライダーも高いようだ。

Run Value / 100

(3/19 追記)

追加でRun Value/100を見ていく。ここでのRun Valueとはカウント・走者状況を基にした得点期待値が1球単位でどれだけ変動したかを得点価値としたものだ。そのRun Valueを100球当たりのスケールにしたものがRun Value/100である。Run Valueがマイナスであればその分失点を抑止したという意味になり例えばストライクやアウトを取ればマイナス、ボールや走者を出せばプラスとなる。2015-2020年のMLBのスライダーのRun Value/100の平均値である-0.50を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

スライダー RV100

30cm以上スライダー方向に曲がるスライダー、140km/h以上出て縦変化量が15cm未満のスライダーが失点を防ぐうえで特に効果的なようだ。

まとめ

基本的にスライダーは

1.スライダー方向への変化が30cm以上変化するスライダー。

2.自由落下より沈み球速が135km/hを超えるスライダー。

3.球速が140km/hを超えて縦の変化量が15cm未満のスライダー。

の3つのタイプのスライダーが失点を減らす上で効果的なようだ。特に横の変化量は大きければ大きいほど失点リスクを減らす上でもカウントを稼ぐうえでも空振りを取るうえでも役に立つなど万能だがそれぞれの投球フォームや速球の球速などにより投げやすいスライダーには差があると思われるため自分に合ったスライダーを習得するのが良いと思われる。

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