セイバーメトリクスの視点による失点しにくい(打たれにくい)速球

速球と一言に言ってもホップするものから沈む速球、シュートの量等様々なものがある。「伸びのあるシュートしない速球が理想」「球速ではなくキレが大事」「沈む軌道だとしても平均から逸脱する速球は打ちにくい」「シュート回転も武器になる」言説も多種多様だが実際に定量的に評価していくとどうなるだろうか。

Whiff%

まずはWhiff%を見ていく。Whiff%とは打者がスイングを試みたときにどれだけ空振りをとったかを表す指標だ。(空振り/スイング)空振りを多く取れていればリスクである打球そのものを発生させずかつストライクを稼ぐことで失点のリスクを減らすことができる。

球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のWhiff%を算出した。2015-2020年のMLBの速球(フォーシーム、ツーシーム、シンカー)のWhiff%の平均値である18.2%を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(空振りを取れていない)ほど青色が濃く値が高い(空振りを取れている)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

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空振りを奪いやすい変化量は縦変化が大きいホップする速球だ。ノビ・キレのある速球は空振りを奪いやすいという言説通りの結果になった。

続いて目を引くのは球速だ。基本的に球速が速くなれば速くなるほど平均以上に空振りを奪える変化量の領域が広がりまた質も高くなっている。球速が速い方が空振りを奪いやすいというのはイメージしやすいと思うがそのイメージを裏付ける結果となった。

xwOBAcon

続いては打球の失点リスクについて見ていく。ここで使うのはxwOBAconという指標だ。打球の角度と速度から打球の得点価値を推定しどれだけ価値のある打球を打たれていたかを表す指標で投手にとっては低ければ低いほど失点のリスクが低いことを意味する。

先程と同じく球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のxwOBAconを算出した。2015-2020年のMLBの速球のxwOBAconの平均値である.386を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

速球 打球

速球のxwOBAconが平均を下回りやすいのは縦の変化量が22.5cmを下回る沈む速球だ。変化量的にはノビのないフォーシームと言うよりは沈みの大きいツーシーム・シンカーをイメージしてもらったほうがいいかもしれない。

またシュート変化の小さなストレートもxwOBAconが低くなりやすい。速球で打球の失点リスクを下げたいならば大きく沈ませるツーシームかシュート変化の少ないフォーシームを投げると良いようだ。

xwOBA

最後にxwOBAを見ていく。xwOBAとは三振や四死球と言った非打球結果については実際のイベントの得点価値を打球については打球の速度と角度から推定した得点価値を基に加重した指標で各イベントに得点に基づいた加重を行う精度の高い出塁率(OPSと考えても良い)のようなものだ。投手にとっては低ければ低いほど失点のリスクが低いことを意味する。

球速は5km/h、変化量は縦横7.5cm(約ボール1個分)で区切りそれぞれの球速・変化量のxwOBAを算出した。2015-2020年のMLBの速球のxwOBAの平均値である.354を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

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速球のxwOBAが低くなりやすいのは球速にもよるが縦変化量が15cm未満の速球、ホップ量が45cmを超える速球のようだ。大きく沈むツーシームかホップするストレートが失点を防ぎやすいという結果になった。

また外せない要素として球速がある。球速が速ければ速いほど失点リスクは低くなる傾向にあり球速が155km/hを超えるとどんな変化量でも平均を下回る失点リスクになる。一方で140~145km/h程度ではどんな変化量でも失点しやすくまた150km/hを超えないと前述の変化量の恩恵を受けにくい。

Run Value/100

(3/18 追記)

追加でRun Value/100を見ていく。ここでのRun Valueとはカウント・走者状況を基にした得点期待値が1球単位でどれだけ変動したかを得点価値としたものだ。そのRun Valueを100球当たりのスケールにしたものがRun Value/100である。Run Valueがマイナスであればその分失点を抑止したという意味になり例えばストライクやアウトを取ればマイナス、ボールや走者を出せばプラスとなる。2015-2020年のMLBの速球のRun Value/100の平均値である0.05を中間値としてカラースケールを行っている。値が低い(失点リスクが低い)ほど青色が濃く値が高い(失点リスクが高い)ほど赤色が濃くなるよう調整している。

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Run Value / 100は球速が速いほどまた縦変化量が45cm以上ホップする球や15cm未満の沈む球が失点リスクが低くなる。また中途半端にシュート変化すると失点リスクが高くなるようだ。

まとめ

・速球は球速が速いほど縦の変化量が大きい(ホップする)ほど空振りを取りやすくなる。

・速球の打球による失点リスクは縦の変化量が22.5cm未満、もしくはシュート変化の量が少なくなると低くなる。

・速球の失点リスクを低下させるには球速は速いほど良い。

・ホップ量が45cmを超えるホップする速球か15cm未満の沈む速球が失点しにくい。

・150km/hを超えないと変化量の恩恵を受けにくい。

(3/17 追記)

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ホップ量が45cmを超えるホップする速球か15cm未満の沈む速球が失点しにくいが各速球の平均変化と標準偏差を見ていくと平均~平均-2標準偏差のフォーシームや平均-1標準偏差未満にならないツーシーム・シンカーは基準を満たさないことがわかる。言い換えれば伸びないフォーシームや沈みの少ないツーシームは打たれやすいということだ。フォーシームが伸びないと「ノビないフォーシームも武器になる」と言われることがあるが一般的なノビないフォーシーム(24.5~42.9cm)では失点リスクの少ない小さな縦変化量(15cm未満)には届かない。つまりノビないフォーシームは基本的に失点しやすくノビのない球質自体は武器にならない。もちろんノビないフォーシームでも失点リスクを抑えることのできる投手もいるだろうがその場合はノビない球質によって抑えているのではなくコントロールなど他の要素で補っていると考えるのが自然だろう。

今回の分析にはBaseball Savantから入手した2015-2020年のstatcastのデータを使用している。

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