角度の付いた投球は打ちにくいのか。

「角度のついた球は打ちにくい」など投球の角度(高さ)については高い方が良いとする意見がある。その一方で「沈みこんだリリースから放たれた投球は打者がボールを浮くように感じ打ちにくい」という意見もある。実際にリリースの高さは失点リスクにどのような影響を与えるのだろうか。

検証


Baseball Savantから入手できるデータの中にはrelease_pos_zというデータがある。これはどれだけの高さからボールがリリースされたかを表すデータだ。このrelease_pos_z(以下、リリース位置)データを用いリリース位置が失点リスクに与える影響について検証する。

検証方法


失点リスクを測る指標としてはxwOBAを用いる。xwOBAとは非打球結果については実際の打席結果を、打球結果については実際の打席結果でなく打球の速度と角度を用いどれだけ価値のある打球を打たれるかを推定した値を出すことで打席当たりでどれだけ得点を生み出していたかを推定する指標だ。投手にとっては低ければ低いほど失点を抑止できることを表す指標といえる。

リリースの高さが失点に与える影響を測るためには単純にリリース位置をある一定の幅ごとに区切り各幅でxwOBAを算出するという方法がある。しかしこの方法ではある問題が生じる。リリース位置以外の影響を取り込んでしまう可能性があるからだ。

例えばリリースの高さが高くなる要因としては投手の身体の大きさがある。身体の大きな投手は身体の大きさゆえに球速が速くなりやすくなると考えられる。そのため単純にリリース位置を一定の幅ごとに区切る方法では高いリリース位置は平均的に球速が速く低いリリース位置では平均的に球速が遅いというように球速の要素を取り込んでしまうという可能性がある。

また、エクステンションも打者の体感速度を変動させると言った可能性がある。できればエクステンションの影響も取り除きたいところだ。

そこでMLBの平均的なストレート(球速、変化量)を平均的なエクステンションで投げたという条件でリリースの高さの幅だけを変えた場合にどれだけxwOBAが変化するかを算出した。

なお、MLBの平均的なストレートは球速148~152km/h、ボール横変化量-23 ~ -16cm、ボール縦変化量37~44cmとした。また平均的なエクステンションは175~205cmとした。

分析結果

リリース1

上記の表は各リリースの高さのxwOBAを算出したものだ。太枠はリーグ平均のリリースの高さだ。(2017-2020年MLBの平均リリースの高さは180.3cm) 意外なことに高いリリース位置から放たれた投球はxwOBAが高い。一方で低いリリース位置はわずかに平均よりxwOBAが低くなる。ボールの質やエクステンションなど他の条件が同じであればリリース位置は低い方がむしろ失点リスクを下げるようだ。

リリース2

打球の失点リスクを表すxwOBAconではどちらも平均より離れた値の方が失点のリスクは高い。xwOBAで両者が離れているのは非打球結果によるところが大きそうだ。

リリース3

非打球結果について調べた結果が上記の表だ。BB%にそれほど大きなばらつきはなく差をもらたしてるのはK%の方だろう。高いリリース位置からの投球は三振を奪いにくくそれがxwOBAの上昇に繋がったと見られる。

リリース Whiff

スイングされた時にどれだけ空振りをとったかを表すWhiff%を調べたのが上記の表だ。高いリリース位置からの投球は空振りを奪いにくいようだ。

なお、今回の分析は先述したようにストレートのボールの質、エクステンションについては同じになるように条件を揃えたうえで行っていることに注意が必要だ。リリース位置を高くすることによって速い球や質の良いストレートを投げやすくなる投手がいることやリリース位置を低くすることでトレードオフになる要素については一切考慮していない。投手によって、または他の要素でリリース位置を高くした方が失点しにくくなる可能性もあるので今回の結果だけでむやみにリリース位置は低くした方が良いと思うのは危険だ。(例えばリリース位置を低くするためにサイドスローにしてボールの回転軸が斜めになってストレートの質が低下する等が考えられる)

今回の分析は他の条件がだいたい同じであるときにはリリース位置が低い方が良い可能性があるという結果を示しているに過ぎない。

今回の分析データは2017-2020年のMLBのデータを使用した。データはBaseball Savantから入手した。

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