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夢の中の母

たまに、夢に母が出てくる。
すでに数年前に亡くなった母が。

今朝の夢はこうだ。

いつも通り会社へ行こうと電車に乗ると、何故か離れた所にぽつんと母が居た。

慣れない満員電車で窮屈そうにしている母に
「どうしたの」
と声をかけても、何も言わない。

すこし考えたあと
「今日は会社サボるからふたりでどこか行こうか」
そう告げると、ぱあぁっと表情が明るくなった。

ふたりで電車を乗り換え、浅草に行った。
するとどうしてか、そこらじゅうが焼け野原になっていて、煙がくすぶっている。

半焼けになったお店でお菓子を買った。
お釣りに二十銭札を渡された。
へぇ、こんなの初めて見た、とふたりで笑った。

母が行きたいとこがあるからと、ある建物の階段をずっと登り、最上階まで来て母が言う。

”ここで欲しかった化粧品を無料で試せるのだけど、こんなおばあちゃんが来たら迷惑かしら”

そうモジモジしている母を見て、可愛いなと思ったところで目が覚めた。

微妙にリアルな夢から覚めると、現実か夢か分からずに脳が混乱する。
朝日がまっすぐ差し込んだ部屋で、ベッドのうえで、横たわったまましばし途方に暮れた。

分かってる、これはただの私の夢だ。
母がそう望んでいたのかどうかなんて、いまとなっては分からない。

私が母の死後に 
”もっとあちこちに連れて行ってやれば良かった” 
そう思っていた、後ろめたさが見せる幻影だ。

やろうと思っていたことをやれなかった
それを悔やむのはとうにやめた。
結局やらなかったのなら、何度生まれ変わってもやらなかっただろう。

分かっていても、心がしんとする。
今日は天気が良くて、朝日がきらきらまぶしいのに、それがかえって心の影を浮き立たせる。

大丈夫、大丈夫。
こんなことはたまにある。

ゆっくり時間をかけ、美味しい朝ごはんを食べておなか一杯にして、食後に軽くお散歩でもしてこようか。




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