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魔術を使う女を生かしておいてはならない -出エジプト記 22章 18節- † 俺はひとつ息を吸ってから、自らの左腕に短刀を突き立ててみた。ぞぶり、という肉を切る感触。 痛みはない。血も流れない。それどころか、確かに深々と切り裂いたはずの傷が、たちどころに塞がった。 どうやら俺は完全に、化物の仲間入りをしてしまったらしい。 『霧の森』はその名の通り、常に乳白色の淡い霧で満たされている、鬱蒼とした森だ。 木立の陰から、一人の少女が姿を現した。 「理解した?
「この場所は、どうだ」 二人が樹楷都市を出発してから、三日目の朝。 先を歩く〈防人〉のカムザが、そう言って歩みを止めた。 「そうね……」 後ろにいた〈巫女〉のエンジュが、周囲を見渡す。 森。周囲には、樹々が檻のように生えている。そのため、全体的に薄暗い。しかし、一角には、陽の光が地面を照らす場所があった。 「悪くないわ」エンジュが頷く。「光合成に充分な光量は確保できてるし、水場も近い。ここにしましょう」 エンジュは、灰白の巫女装束を脱ぎ始める。するりと、乙女