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パルプ小説集

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私の書いたパルプ小説作品をまとめて置くマガジンです。 ©Photo by Sofia Sforza on Unsplash
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記事一覧

妖魔開闢 -蜘蛛と殺し屋/竜の魔眼-

「先輩、なんか超でっかいダイヤがあるんですけど、さすがに偽物ですよね」  整理整頓が行き届いた書斎。  壁際のキャビネットに顔を突っ込みながら、ユズが呑気な声を上げた。  高校の制服のスカートが揺れる。 「換金目的じゃない。物取りの犯行に見せるためにやってるんだ。手当たり次第、鞄に詰め込めばいいんだよ」  俺は、マホガニーの机の抽斗を抜き、中身をぶちまけながら答える。 「捨てるんでしたっけ。勿体なくないですか?」 「盗品は高価なほど足が付く。教わらなかったか?」 「何も。

レイダウン・ユアハンド -Lay Down Your Hand-

「賭けをしよう」  俺の対面に座る初老の男が言った。  ジム・ラズロー。このカジノの主だ。 「賭け? いいね。大好きだ。特にポーカーには――」  俺の言葉を遮るように、ジムが指をさす。  カジノの入り口。 「次に、あの扉を開けて入ってくる客。そいつが、『男』か『女』か、賭けたまえ」  ジムが言った。 「当てたら、話を聞いてくれるのか?」 「まさか。――当てれば、君はこのカジノを無事に出ていける」 「外したら?」  尋ねた瞬間、俺の背後と両脇を囲む、ジムの五人の護衛が、銃を抜い

犬と狼の間 -Entre chien et loup-

 一閃。  歳三の放った斬撃は、夕暮れの光を反射し、文字通り一条の線となった。閃光は、相対する魔獣を両断する。  渾身の一撃。一瞬の後、魔獣は夥しい量の血を撒き散らしながら、どうと崩れ落ちた。絶命。  歳三は、血振りをしてから、滑らかな動作で刀を鞘へと納めた。  静かだった。  三条小橋は黄昏時。本来ならば、町人たちが道を行き交っていてもおかしくはない時間帯だ。しかし、今は人っ子一人姿を見せない。  足音がした。  歳三が、そちらを見る。路地裏から、ひとりの青年が姿を現し

死して屍拾う者無し -Witch of Funeral-

魔術を使う女を生かしておいてはならない -出エジプト記 22章 18節-  †  俺はひとつ息を吸ってから、自らの左腕に短刀を突き立ててみた。ぞぶり、という肉を切る感触。  痛みはない。血も流れない。それどころか、確かに深々と切り裂いたはずの傷が、たちどころに塞がった。  どうやら俺は完全に、化物の仲間入りをしてしまったらしい。 『霧の森』はその名の通り、常に乳白色の淡い霧で満たされている、鬱蒼とした森だ。  木立の陰から、一人の少女が姿を現した。 「理解した? 

ユグドライズ -YGGDLYZE-

「この場所は、どうだ」  二人が樹楷都市を出発してから、三日目の朝。  先を歩く〈防人〉のカムザが、そう言って歩みを止めた。 「そうね……」  後ろにいた〈巫女〉のエンジュが、周囲を見渡す。  森。周囲には、樹々が檻のように生えている。そのため、全体的に薄暗い。しかし、一角には、陽の光が地面を照らす場所があった。 「悪くないわ」エンジュが頷く。「光合成に充分な光量は確保できてるし、水場も近い。ここにしましょう」    エンジュは、灰白の巫女装束を脱ぎ始める。するりと、乙女

幻獣搏兎 -Toglietemi la vita ancor-

 「やめた方がいいよ」  隣を歩く少女は、そう言って顔を覗き込んできた。長い金髪が揺れる。  クリスマスの夜。大通りは、カップル達で溢れている。  行き交う人の中で、少女の姿は浮いていた。バニースーツを着ているのだ。どう考えても屋外で着る服ではないだろう。  だが、通行人達が彼女に目を向ける事はなかった。  何故なら、彼女は俺が脳内で作り出した幻覚だからだ。 「向いてないよ、蓮には、殺し屋とか」  幻聴。この言葉も、俺にしか聞こえない。  少し前から視える様になった、スト

死闘裁判 -Trial by Combat-

 法廷の中央で、検察官の須藤と対峙する。  距離二メートル。  裁判官の、被告人の、傍聴席の、検察席の、全ての視線が、俺と須藤の二人に集まっていた。  半年前、足立区で起きた、中学校教諭一家殺害事件。  被告人の沢木に対し、検察は死刑を求刑し、弁護人である俺は、沢木のアリバイや、不当な取り調べ、証拠の不明瞭な点を論拠に無罪を主張した。  死刑と、無罪。  互いの主張は真っ向から対立した。  従って、己の正しさは、拳を以て証明する事となる。 「構えて――」裁判長の声が響く。