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「英国王室御用達」を考える

「◯◯王室御用達」

…なんだか歴史がありそう/美味しそう/高級そうなイメージ。
「ベルギー王室御用達」って書かれたチョコレートは美味しそうに思えるし、「英国王室御用達」の万年筆はプレゼントに良さそう。
今日はそんな王室御用達、特に「英国王室御用達」について、どうやって決められるの?どんなぐらい凄いの?ウイスキーにも王室御用達あるよね?ふわふわとした知識から一歩だけ進んでなんとなくこんな感じなんだ〜と納得できるぐらいまで解いていこうと思います。それでは早速。

「王室御用達」のブランド

イギリス、スペイン、スウェーデン、オランダ、デンマーク、ベルギー、ノルウェー、タイ、サウジアラビア、、、王室がある国にはほとんど「王室御用達」が存在します。制度の詳細は国によって異なりますが、大体王室に許可を得て紋章をつける、という流れは同じです。

で、結局王室御用達のブランドってどれ?ということで少しご紹介。

GODIVA(ゴディバ) 

🇧🇪ベルギー
1926年、ベルギー・ブリュッセルに誕生した家族経営のショコラトリーに起源を持つ「GODIVA(ゴディバ)」。1968年にベルギー王室御用達として認定を受けています。誰もが知っているベルギーチョコレートです。

ちなみにベルギー王室御用達のチョコレートブランドは現在8つ。
‎・Galler(ガレー)
・GODIVA(ゴディバ)
・Neuhaus(ノイハウス)
・WITTAMER(ヴィタメール)
・Pierre Marcolini)(ピエール・マルコリーニ
・VAN DENDER(ヴァンデンダー)
・Leonidas(レオニダス)
・Madame Delluc(マダム ドリュック)

流石チョコレート王国ベルギー、日本のバレンタインフェアには必ず登場するブランドがずらりと並んでいますね。チョコレートの話になると長くなるのでこの辺でやめときます。糖は正義!

LOEWE(ロエベ) 

🇪🇸スペイン
140年もの長い歴史を持ち、スペイン王室の御用達としても知られる由緒正しきブランドです。かつてはスペインのヴィクトリア王妃が足繁く通い、最近ではヨルダンのラーニア王妃が愛好家として知られるなど国内外のロイヤルファミリーに愛され、今もスペイン王室御用達としての名声を得ています。

ロエベって最初読めないですよね?私は今でも心の中では「ろうぇうぇ」って呼んでます。(最近ろうぇうぇの鞄持ってる子多いな〜)みたいな。ありますよねそういうの。

Royal Copenhagen(ロイヤルコペンハーゲン) 

🇩🇰デンマーク
デンマークの陶磁器といえばロイヤル・コペンハーゲン!1755年にデンマーク王室の保護のもと開窯されてから現在に至るまで、王室御用達陶磁器を造り続けて来た由緒正しい陶磁器会社です。

イヤープレートが有名ですね。私の実家にも家族の生まれ年のイヤープレートが飾ってありました、懐かし〜。

「王室御用達」が与える影響力

王室がなくなってしまったフランス、イタリア、オーストリア=ハンガリー、ロシア、ルーマニア、ポルトガルなどでも、『「王室御用達」であったこと』をうたう業者や製品が今なお存在するそうです。「王室御用達」というワードがそれだけで宣伝効果を持ち、品質を保証し、ブランド力を底上げする力を持っていることが窺えます。

さてまだ出てきていませんが世界の王室御用達達(おうしつごようたしたち)(噛みそう)の中でもさらに知名度の高い国がありますね。さてどこでしょう?
ヒントは….「ウイスキー」!すぐ分かっちゃいますね。

そう、

「英国王室御用達」

です。一番耳馴染みのある御用達ではないでしょうか。「英国王室御用達」、これが今回の記事のメインです。

「英国王室御用達」って何?

英国王室御用達は英国王室のメンバーやその家族が、商品やサービスを提供する個人や企業に対して直接付与するものです。
知的財産(※)の一形態ではない為、英国知的財産庁の規制を受けません。

※知的財産(IP)…人の精神的な創造行動から生まれた創作物や、営業上の信用を表した標識など、経済的な価値を有したモノの総称。これらを守る法制度上の権利としては著作権、特許権、意匠権、商標権などがある。

当初は王室憲章の形で認められており、最も初期のものは1155年にヘンリー2世によってウィーバーズカンパニーに付与されました。「王室御用達」としての歴史も少なくとも15世紀にさかのぼり、1476年に印刷工のウィリアム・キャクストンが最初の御用達を受けたのが始まりです。それ以来、ロイヤルワラントの付与、表示、更新の手続きは、何世紀にもわたり次第に確立されてきました。

指名されたブランドは協会に加盟し紋章を掲げることができますが、5年ごとに品質やサービスなどを協会から厳しく審査されることになっています。

また、認定されるのは純粋に商業、あるいはそれに関わるサービスに限定され、銀行などの金融機関、政府機関やメディア、エンターテイメントやホテル等の商業施設は認定されることはありません。

Royal Arms(ロイヤルアームズ)

先述したRoyal Arms = 王室の紋章です。
現在見られるのは3種類。

左から

【THE QUEEN】
エリザベス2世の紋章。フランス語で「神と我が権利」と記されています。


【THE DUKE OF EDINBURGH】
エリザベス女王の夫(王配)である、エディンバラ公フィリップ殿下の紋章。
デンマーク王家の紋章、ギリシャ王家の紋章、バッテンベルク家の紋章、エジンバラ市の紋章を組み合わせたデザインとなっています。


【THE PRINCE OF WALES】
プリンス・オブ・ウェールズの紋章。
ドイツ語で「私は仕える(Ich dien)」と記されています。

補足説明:「プリンス・オブ・ウェールズ」って?

イギリスにおいて、王位の法定推定相続人たる王子に与えられる称号である。
つまり時期国王になる「皇太子」=プリンス・オブ・ウェールズです。
もとは字義の通りウェールズの君主を意味していましたが、14世紀にイングランドがウェールズを征服して以降、この称号をイングランド(のちイギリス)君主の男子の跡継ぎ(法定推定相続人)に与えるようになり、これが皇太子の意味を持つようになりました。
エリザベス女王の死後、2022年9月8日、プリンス・オブ・ウェールズだったチャールズ3世は、国王に即位すると、翌9日に長男ウィリアムにプリンス・オブ・ウェールズの称号を与えました。
つまり現在はウィリアム皇太子の持つ称号ということです。

Royal Warrant(ロイヤルワラント)

ロイヤルワラントは、企業が任命された取引能力で事業に関連して、王室の紋章(Royal Arms)を使用することを許可する文書、つまり王室令状のことです。
王室への商品やサービスの継続的な供給に対する認識の印として、一度に最大5年間付与されます。

ロイヤルワラントを授与する資格を持つ人はグランター(Grantors)と呼ばれ、君主によって決定されます。最近の付与者は、エリザベス2世女王、エディンバラ公フィリップ殿下、プリンス・オブ・ウェールズ(現国王チャールズ3世)です。2021年4月9日にフィリップ殿下が逝去し、2022年9月8日にエリザベス2世女王が逝去したことにより、現在は国王チャールズ3世のみとなりました。

付与者が死亡または退位した時は?

では付与者が死亡または退位した場合、その付与されていたブランドはどうなるのでしょう?もちろん即刻権利を剥奪!紋章はすぐに消してください!
、、、なんてことはありません。

「王室御用達の文書(Royal Warrant)は無効となるが、企業または個人は、当該企業内に大きな変化がない限り、最長2年間、事業に関連して王室紋章(Royal Arms)を使用し続けることができる。」

つまりフィリップ殿下が付与した紋章は2023年、エリザベス女王が付与した紋章は2024年までは使用することができるということになります。
しかしそれ以降はグランター、つまり国王チャールズ3世に再度付与してもらう必要があります。

あれ?ちょっと待てよ.…
【THE PRINCE OF WALES】
国王チャールズ3世が皇太子時代に認定したブランドはどうなるの!?
そのまま?それとも一度取り下げられる?

これに関しては国王がプリンス・オブ・ウェールズであった時代に王室御用達を受けた企業は引き続き国王の支援を受けることができます
ただ、国王チャールズ3世の息子、ウィリアム王子がプリンス・オブ・ウェールズとなっていて、区別化する為にプリンス・オブ・ウェールズ時代に付与したワラントは変更するのでは、と思います。(そのあたりについてはまだ公式には決まっていません。)

ワラントの付与者は君主によって決定されるので、過去2年間にエリザベス女王とその夫であるフィリップ殿下が亡くなったことから、新国王チャールズ3世は、ウィリアム王子やカミラ王妃を付与者として増やすかもしれませんね。

英国王室とウイスキー

英国王室が関心を持った最初のウイスキーはグレンリベットだと言われています。密造酒時代が終焉し、英国政府公認第1号蒸留所となった蒸留所です。

王室御用達ウイスキーとして初めて認定されたのはロイヤルブラックラです。英国王ウィリアム4世が1835年にワラントを発行しました。元はブラックラ蒸留所という名前でしたが、ロイヤルブラックラ蒸留所に改名しています。

次いで1843年にはヴィクトリア女王がシーバスブラザーズにワラントを発行し、シーバスリーガルという名称の使用を許可しました。同社は、その後1953年に女王エリザベス2世からロイヤルサルートも御用達の指定を受けています。

Regal(リーガル)もRoyal(ロイヤル)も「王室」を意味する言葉です。


英国王室御用達認定を受けているウイスキー

英国王室御用達のウイスキー(会社)は現在いくつあるでしょう?
答えは…6社
ではシングルモルトから見ていきます。

【シングルモルトウイスキー】

◆D. Johnston & Co (Laphroaig) Ltd

Laphroaig(ラフロイグ)
付与者:The Prince of Wales

ラベル上部にプリンス・オブ・ウェールズの紋章が印刷されています

夏に最高!ラフロイグソーダ!D Johnston & Co (Laphroaig) Ltdは、アイラ島でラフロイグ蒸留所を運営している会社です。同社のプリンス・オブ・ウェールズの王室御用達許可証は、皇太子時代にチャールズ国王から1994年に初めて付与されました。蒸溜所の建物の白い外壁にはダチョウの羽を3本あしらったプリンス・オブ・ウェールズの紋章が飾られています。皇太子時代にはチャールズ国王自ら買い付けに蒸溜所へいらっしゃったこともあり、年によってはボトルで1,000本もオーダーされたとも。

◆The Lochnagar Distillery Limited T/A Royal Lochnagar

Royal Lochnagar(ロイヤルロッホナガー)
付与者:The Queen

名前に「ロイヤル」を持つウイスキーといえば、の代表格。蒸留所は1845年にLochnagar蒸留所としてオープンし、3年後、ビクトリア女王とアルバート王子の訪問の後、”Royal” の称号を与えられ、Royal Lochnagar と名前を変更しました。

【ブレンデッドウイスキー】

◆John Walker & Sons Ltd

Johnnie Walker(ジョニーウォーカー)
付与者:The Queen

ボトル上部にRoyal Armsのシールが貼ってあります

世界中で愛されているブレンデッドスコッチウイスキー、ジョニーウォーカー。日本でも「ジョニ黒」「ジョニ赤」として親しまれています。1934年1月1日、ジョン・ウォーカー & サンズ社はジョージ5世から英国王室御用達の許可証を授かりました。現在も英国王室に納められています。


◆John Dewar & Sons Ltd
Dewars(デュワーズ)
付与者:The Queen

1846年にジョン・デュワーによって設立されたJohn Dewar & Sons Ltd。
ジョン・デュワーから家業を引き継いだ二人の息子、ジョン・アレクサンダー・デュワーとトミー・デュワーにより、その名声は不動のものとなりまりました。1893年にヴィクトリア女王より英国王室御用達の許可証を授かっています。ちなみに先述したロイヤルブラックラは現在John Dewar & Sons Ltdが所有しています。

◆Justerini & Brooks Ltd
J &B
付与者:The Queen

Justerini & Brooks Ltdは1749年にロンドンで創業したワイン商で、創業者はイタリア人、ジャコモ・ジャステリーニ氏。1760年代には国王ジョージ3世から王室御用達の証を授かりました。ワインだけではなく、Justerini & Brooks Ltdの頭文字をとってつけられたブレンデッドウイスキー、J &Bも有名です。

◆Matthew Gloag & Son Ltd

Famous Grouse(フェイマスグラウス)
付与者:The Queen

創業者のマシュー・グローグはローランドとハイランドの境にある町パースの食料雑貨商の娘と結婚し、その事業を継ぎウイスキーの販売を行っていました。彼の死後、同名の孫のマシュー・グローグが1896年に赤いライチョウ(=grouse、スコットランドの狩猟鳥、国鳥でもある)をモチーフに採用したウイスキー、“The Grouse Bland”(ザ・グラウス・ブランド)を販売しました。好調に売り上げが急増、有名になったライチョウのボトルは“Famous Grouse”として再ブランドされました。

さてここで何か気づくことはありませんか?
そうです、ラフロイグ以外の4社はエリザベス女王から認定されています。
つまり、エリザベス女王が付与した紋章は2024年までは使用することができますが、以降は再度付与される必要があります。

もしかしたら50年後ぐらいには「プリンスオブウェールズの羽がついてるからこのラフロイグは1994年〜2024年ぐらいのボトル、しかもこのラベルだったら〜…」なんてことが言われてるのかも。

今「オールド」と呼ばれるウイスキーも当時は現行だった訳で、今ある現行のウイスキーがまた時を経てオールドと呼ばれるようになるのでしょう。時代の変化、需要と供給の変化、味の変化…その中にはきっと変わらない作り手の思いとこだわりが宿っているはず。そういったものを飲んで感じて拾い上げながら無理なく楽しむ!文字通り「好」きなものを「嗜」む品物であるお酒の楽しみ方はこれに尽きる気がします。

それでは今日はこのへんで。

【参考】
https://www.bbc.com/news/magazine-23255710
https://www.royalwarrant.org/frequently-asked-questions

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