意識の科学的解明は可能か?生命と意識へのアプローチ
意識のハードプロブレムとは、電気回路としての物質的な脳の神経回路網の振る舞いが、どのようにして赤を見る経験、痛みを感じる経験といった主観的な経験を生み出すのかを説明することの困難さについての概念である。
意識は神秘的であるように感じられ、脳を持たない現在のAIには意識はないと多くの人は同意するだろう。では、このハードプロブレムに存在するギャップは永遠に埋められないのだろうか?
生命とは何か?
生物が生きているという状態を定義するのは困難である。実際に、20世紀途中まで生物と無生物の違いはあまりに根源的であり、物理的・化学的な機構では説明できないというバイタリズムの思想を多くの科学者は持っていた。いまだに細胞の振る舞いには未知があふれているし、僕は勉強すればするほど生命は神秘的な存在だと思う。
しかし、分子生物学を代表とする生物学の進展により、生きている状態に超自然的な何かが必要という考えは科学者から支持されなくなった。つまり、生命の定義にダイレクトにアプローチするのではなく、生命システムの特性を物理的・化学的・情報学的に記述し、その予測と制御を試みるという実用的なアプローチをとることで、代謝、発生、行動、生殖、進化といった生命の個々の現象にせまることができた。
これにより、生命という概念が複雑化し、生命を0か1でとらえることができなくなったのである。生命といくつかの特徴を共有するウイルスに代表されるように生命はグレーゾーンを持ち、そこに非科学的要素が入り込む余地がないのだ。
意識の謎へのアプローチ
意識も生命と同様の過程を経てその科学的解明が進むかもしれないと、Anil Sethは述べる。意識的経験と無意識的過程の間にもグレーゾーンが存在し、意識的経験を記述し、予測し、制御する科学的な手法が発展するにつれて意識のハードプロブレムは過去の概念となるのかもしれない。遠回りに見えてもアプローチできる部分に客観的に切り込んでいくことで、いつの間にか神秘的な対象を科学の俎上にのせることができうるのである。