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脳科学における因果関係とは何か?

生物学、特に遺伝学的・分子生物学的手法の発展した現代の生物学では、「ある現象と他の現象がともにみられる」という"相関"関係だけではなく、「ある現象の原因に、ある機構が存在する」という"因果"関係を明らかにすることが重要であるとされている。
これは脳科学においても例外ではないが、脳科学においては"Causality"(因果関係)という単語が2種類の使われ方をしているため、混乱のもととなっている。(同じような議論は哲学にもあるらしい。)

そのような脳科学における"Causality"(因果関係)についての、主にTwitter上での議論をまとめたpdfの内容を紹介する。

因果関係の2種類の定義

  1. Causal production (直接的因果関係)
    Causalityという単語はAがBを引き起こす直接の原因となっているときのみ(必要かつ十分の時のみ)使われる。

  2. Causal dependence (間接的因果関係)
    Causalityという単語はAの有無がBの確率的結果に影響する場合、間接的影響であっても使ってよい。

因果関係に関する議論

脳科学においてはどちらのCausalityの定義を使うべきなのか?

  1. Causal production派
    本当に興味がある(科学的に興味がる)のは直接的な影響のみのはずなので、こちらの定義に従うべき。Causal relationは有用でない無数の関係性を列挙することになりかねない。

  2. Causal relation派
    時には(医学的な治療法の開発などにおいて)、この定義が有用である。
    また、そもそも脳のような再帰的結合を多数含む複雑な対象にCausal productionを適用すること自体が困難である。

脳科学の研究を発展させる(生産性を上げる)ためにはどのようにすればよいか?

  1. 治療法の開発など、人類に貢献するような有用性を重視する。

  2. 必要・十分の両者になるべく言及し、相関関係を因果関係に見せないように努める。

  3. 計算機モデルを併用することで実験的に示唆された因果律を補う。

自分としてはCausal productionに対してCausalityを使うべきだと思っていたが、この文献を読んでからは双方の意見に説得力があると思った。
脳科学分野自体の発展のために、どちらの意味で使っているかを明確にしたうえで状況によって使い分けていくしかないのだろうなと感じた。

参考文献

NicolesSummaryB (upenn.edu)

脳科学における「CAUSAL PRODUCTION」と「 CAUSAL DEPENDENCE」の議論を紹介している。直接的な影響のみのはずなので、この定義に従うべきと主張する声も。また、計算機モデルを併用することで実験的に示唆された因果律を補うという

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成