シミュレーションの2種類の目的
計算機のパワーが上がり、現代科学のどの分野でも仮説検証の手段としてシミュレーションが用いられるようになっている。
シミュレーションを用いた研究を理解し、また自分で用いるためには、シミュレーションに2種類の目的、タイプがあることを認識することが重要である。
2種類の目的
実験が難しい、またはコストがかかるので、パラメーターを増やして現実に可能な限り近づける。
→工学的現象のエッセンスを抽出し、なるべくパラメーターの数を減らす。
→理学的
基本的にモデルの複雑さと精度の間にはトレードオフの関係があり、複雑さが増すと理解可能性が下がる代わりに現象をより正確に記述できるようになることが多い。
モデルのパラメーター数を決める必要がある場合には、赤池情報量基準(AIC)、ベイズ情報量基準(BIC)などが使われるが、これはそもそもなるべくパラメーター数を減らして現象を記述したいという理学的な目的があるためと考えられる。
例
ホジキン・ハクスレイ方程式は少ない変数で神経細胞の発火や不応期をシミュレーションすることができ、神経細胞のイオンチャネルの開閉と膜電位の関係を明らかにしたという点で、理学的な現象の理解に大きく貢献したシミュレーションの代表例といえる。
ディープニューラルネットワークは多いものでは数憶のパラメーターを持ち、工学的な応用の代表例といえる。
最近のトランスフォーマーなどは変数が多すぎてとてもヒトには理解できず、黒魔術化している感があるが、ディープラーニングの獲得した表現をヒトが理解可能な形に抽出する手法もまた発展しており、これらの工学的・理学的な目的をつなげるような役割を果たしていくだろう。