科博特別展「鳥」に行って思ったこと
鳥が高山病にならない謎
鳥類が酸素濃度の薄い5000~8000mを飛んでも高山病にならない理由が2つ知られている。
1つは、鳥で独自に進化した気嚢を用いた呼吸システムが高効率であるためである。鳥類の胚の前後には袋状に突出する気嚢が存在し、呼吸のサイクルに合わせて交互に空気が出入りすることで胚の中を常に一方向に酸素に富む空気が流れることを可能にしている。これは、酸素濃度の低い呼気と酸素濃度の高い吸気が同一の気管を往復して混ざり合うために、肺で血液に受け渡す空気の酸素濃度が吸気よりも低くなってしまう哺乳類の呼吸システムとは対照的である。
2つ目は、血液中のヘモグロビンタンパク質のアミノ酸配列の一部に変異が入り、より低濃度の酸素との親和性が高まっているためである。
これらの気嚢システムとヘモグロビンタンパク質の変化は、どちらも低酸素濃度の環境に適応した進化であるといえるが、前者が器官レベルの形態の進化で鳥類独自に起きたものであるのに対し、後者は高山に住む哺乳類で似たような進化が生じていることが知られており、より起こりやすい(進化史上で繰り返された)進化であると考えられる。
鳥の脳の収斂進化
鳥類に特殊な器官は羽や呼吸器官だけではない。鳥類の脳は哺乳類と異なる進化を遂げていることが知られている。哺乳類では大脳新皮質が6層構造をなしており保存されているが、鳥類で該当する器官では層構造が存在しない。しかし、神経回路として視床からの入力が皮質に相当する器官で情報処理されたのち運動器官へと出力されるという神経回路の機能は保存されているという仮説が提唱されており(Equivalent circuit hypothesis)、これは異なる進化的起源を持つ回路が同様の機能を果たすように進化した収斂進化の例といえる。
鳥の適応放散
鳥の進化に関してもう1つ言及すべき点は、世界中の鳥の多様性を可能にした適応放散の過程だろう。適応放散とは、生物が新しい環境に適応する過程で多様な形態や行動を持つ複数の種に分化していく過程である。特にガラパゴス諸島に住むダーウィンフィンチ類が島に生育する餌に応じてくちばしの形態・大きさを進化させたことを『種の起源』を出版したダーウィンが記述している有名である。より最近の研究では、くちばしの形態を決定する遺伝子の進化がくちばしの表現型の変化にどのように結びついているかが研究されており、進化の機構の理解を助ける好研究材料であり続けている。