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CEBRA: 行動と神経活動を結び付ける

Introduction

システム神経科学は、神経活動記録、行動記録の両面で近年の技術的進歩がすさまじい。
神経活動記録については、Neuropixelといった電気生理学的手法や2光子顕微鏡といったカルシウムイメージングを用いた手法で記録できる細胞数が指数関数的に増加していることが示唆されている。

行動記録においては、DeepLabCutといった自由行動中の行動トラッキング手法が広く普及し、多くの論文で使われているのを目にするようになった。

これらの技術的発展は、行動と神経活動を結び付ける、つまり、神経活動が行動に対して何を表象しているかを明らかにするデータ解析手法がますます重要になっていることを示している。

このようなデータ解析手法の一つはエンコーディング、デコーディングモデルを作成することだろう。例えば、一般化線形モデルをそれぞれの神経活動に適用して各神経がどのような行動情報を保持しているかを明らかにしたり、線形モデルを用いてどのような行動情報が神経活動から予測できるかを明らかにしたりといったことが行われている。

他に、次元削減手法を用いて潜在空間上で神経活動と行動を対応付けるといったことも考えられる。例えば、正準相関分析(CCA)は複数の目的変数を複数の従属変数がどのように説明するかを明らかにする方法で、潜在空間で神経活動と行動を結び付ける際にも用いられてきたが、線形の変換しかできず、性能が限られていた。また、ラベル情報を用いたVAEといった生成モデルを用いた手法も非線形の手法として潜在空間を得るために用いられているが、再現性が取れない場合が多い。

本論文では神経活動と行動を仮説ドリブン(教師あり学習)、またはデータドリブン(自己教師あり学習)で潜在空間へとマップする新しい手法であるCEBRAを提案し、様々な実データに対してその再現性と性能が高いことを示した。本手法の結果の一貫性は条件間に意味のある違いがあるかを明らかにするために、得られた潜在空間でのダイナミクスは行動時の神経活動の表象を明らかにするために用いることができると主張している。

Schneider, S., Lee, J.H. & Mathis, M.W. Learnable latent embeddings for joint behavioural and neural analysis. Nature 617, 360–368 (2023).

Results

図1はCEBRAの手法の概要を示し、テストデータに対する性能比較を行っている。まず、取得したデータを行動ラベル(教師あり学習)、または時系列情報(自己教師あり学習)によって正例のペアと負例のペアに分ける。次に、正例は近く、負例は遠くなるようにロス関数を設計してニューラルネットワークを用いて学習させた。最後に、ニューラルネットワークの最終層の出力を潜在空間ダイナミクスとして可視化した(図1A)。性能比較のために、2次元の潜在空間上で行動と神経発火率が決まるように設計した人工的なデータを用いて次元削減手法の性能をテストした(図1B)。CEBRAの潜在空間を線形回帰で評価した再構成スコアは、既存の他次元削減手法よりも高くなった。

出典:論文図1

ラットが一次元のトラックを歩いている際の海馬(場所細胞)の神経活動を電気生理学的に記録した実データを用いて他手法と比較した際も、CEBRAが潜在空間上で行動に対応するダイナミクスをよく分離できており、ラット間の相関の高い、再現性のある結果を得られていることを示された(図1C-E)。

出典:論文図1

図2はCEBRAが仮説ドリブンにもデータドリブンな発見にも用いることができることを示している。仮説ドリブンでCEBRAを用いる際には例えば場所情報を与え、場所が近いデータは潜在空間上で近く、場所が遠いデータは遠くなるように学習する。一方で、データドリブンな発見にCEBRAを用いる場合は時間情報のみからこれを行う(図2A)。時間情報のみを用いた場合でも潜在空間上で場所を分けられるが、やはり場所などの情報を与えたほうが精度よく分離できるようだ(図2B)。

出典:論文図2


また、位相幾何学を用いて潜在空間の頑健性を評価している点が面白い。データ点の半径を大きくしていった際の、それぞれの次元での円が生成、消滅によって潜在空間の代数的構造が特徴づけられる(図2E、F)。ラットの場所細胞の活動でこの解析を行うと、Betti numbersとよばれる特徴量が次元を増やしても保存され、それはラットが1次元トラックを行ったり来たりして場所が周期的に変化していることと対応していることが示唆されている(図2G)。

出典:論文図2

これ以降は実際に様々なデータにCEBRAを応用している。図3ではサルの腕の動きの潜在空間でダイナミクスを得て、そのデコーディングに用いることができる点が、図4は、特にNeuropixelと2光子イメージングをともに用いてトレーニングした場合において、CEBRAの潜在空間ダイナミクスがそれぞれの神経活動で類似した一貫性のあるものになる点が、図5ではCEBRAの潜在空間ダイナミクスとkNNのデコーダーを組み合わせることで、マウスの視覚野から見ている映像のデコーディング(シーン分類)を行うことができる点が示されている。

Discussion

本論文は、新規の非線形次元削減手法であるCEBRAを提案し、提案手法が仮説ドリブンにもデータからの発見科学にも使用でき、既存手法と比較して再現性や正確性が高いことを主張している。本論文ではテストデータとして行動の意味が分かりやすいものが用いられているが、実際に自由行動のデータに適用した場合には、非線形手法であるがゆえに潜在空間のダイナミクスの解釈性が困難であるというLimitationは残るのではないかと思われる。責任著者のMackenzie Weygandt MathisはDeepLabCutの開発に携わったことで有名だが、システム神経科学の発展に何が必要かを考えて、行動解析の次の一手が示されているかのような研究だった。

近年の技術進歩によって、神経活動記録や行動トラッキングが大幅に進歩しており、神経活動と行動を結びつけるデータ解析が重要になっている。本研究では、新しい手法CEBRAを提案し、神経活動と行動をマッピングする際に高い性能を示した。CEBRAは、仮説ドリブンまたはデータドリブンで潜在空間にマップし、条件間に意味のある違いがあるかどうかを明らかにすることができる。

ChatGPTを用いて要約
サムネイル画像の出典:https://doi.org/10.1038/s41586-023-06031-6