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47才の男性がイメージコンサルを都合3回受けたお話。その1

をするのだが、そこに至る経緯も話すので、ちょっと長いです。

服選びって難しくないですか?
たぶん多くの人が難しいって思ってるだろうし、そんなことないって胸を張って言えるオシャレ強者も、色々試行錯誤してその境地に辿り着いたと思うんだがどうだろう。

僕には難しい。はい。とっても。

そもそも似合うって何よ? トレンドってなによ? って感じである。
街に出たら服屋はファストファッションからお手頃価格、それこそ中心部へ行けばハイブランドが並んでいて、その店先には色んなスタイルの服が並んでいる。
そのどれもが格好いいんだろうと思うし、オシャレだと言っている。
でも、自分が着たらどうなの? っていつも頭を抱えていた。

そもそも僕はオシャレに興味がなかった……いや、そういう事を避けていた。
小学校の頃は、まぁ親が買ってくる服を素直に着ていたし、中学に入った頃は、近くのジーンズショップで適当に買った物を着ていた。(とはいえその店の店主と親が懇意にしていたので、基本は小学校の延長と言っても良いだろう。たいてい親が付いてきて服を選んでいたし)
そして思春期。中2頃になると、そろそろクラスの中でオシャレに目覚めた奴が出て来て、一緒に遊んだりする場所が、近所の公園から、繁華街の服屋さん、と言っても地方都市だったのでビブレとか、今で言うイオンモールとかそういう所になってきた。
へぇ、こいつこういう服着るんだなぁ。
Tシャツって良い値段するモノがあるんだなー
なんて思ったが、自分から手を出そうとかは思わなかった。
そんな中、ちょっとした事件が起きた。
「お前が来たから顔のレベルが下がった」
とクラスのあるグループに言われたのだ。
奴らは運動部に所属してて、今で言えばスクールカースト上位の集まりだった。もちろん女の子にモテていた。
あー、自分って不細工なのか。そりゃ絶世の美男子ではないだろう事は分かっていたけど、平均以下で、自分がこのグループに入ると評価を下げてしまうのか。
はじめて僕の人を判断する材料に「容姿」というものが加味された瞬間だった。
それからはもうオシャレなんて二の次で、人間中身だ、教養だとますます身なりに気を使わなくなった。清潔にしてたら良いだろうとちゃん洗ってアイロンをかけた服を適当に着るだけだった。
気が付くと10代半ばからゆっくりと体重が増加し、30代に入った頃には体重が100キロを越えていた。
幸いにも身長が高校卒業の時に185センチに達していたので、それほど太いとか巨漢というイメージはなかったが、とにかく着る服には苦労した。
まずサイズがない。デパートとかファッションビルに入っているブランドなんかはまずウエストサイズがない。「当店ではウエスト100センチまでしかお作りしていません」
冷たく言われたことを今でも覚えている。当時、ウエストは110センチだった。
付け加えるなら、くせ毛の髪も適当にしていて、眼鏡も銀縁の遊び心もセンスもないもの。
今にして思えば、オタクっぽさ満載だったのだろう。実際、新宿や秋葉原のゲーセンに入り浸っていたのだからそのままだけれど。

その後、当時務めていた今で言うブラック企業を退社し、付き合っていた相手とも別れ、なんだかんだで人生真っ暗じゃね? と思うようなことがあり、生活が真っ白になった。
すると急に体重が落ち始めた。半年後、気が付くと68キロになっていた。
ヘンな病気か!? と慌てたが、単に食べる量が適正になっただけなのだ。
中学時代に夜食が習慣化し、仕事でも付き合っていた相手ともドタバタし、僕のフラストレーションは食欲に向かっていた。寝る前にポテトチップスを頬張り、コーラだってがぶ飲みしていた。
それを招いていた原因すべてが良くも悪くも一掃され、茫然自失も相まって、世間的に言う「あんまり食べる方じゃないんだね」というレベルに落ち着いた結果だった。

そうなると困るのが服だ。
ジャケットやジャンパーなどのトップスはまだ良いとして、問題はボトムス。
全部のデニムやチノが履けなくなった。あと下着も。
知ってます? ブカブカの下着って、ズボンの中で裾がめくれ上がってTバックになるのを。

さて困った。着る服がない! 本当に無い!
というので慌てて僕は丸井やUNIQLOに走った。
だが、そこでも僕は途方に暮れた。
なに着れば良い? どれが良いの?
もー右見ても左見てもサッパリ分からず、店員さんに声を掛けられれば消え入りそうな声で「あ、良いです」と逃げるばかり。いや185の大男がそれはないだろうって話だが。

結局、オーソドックスなノータックチノと白いコットンのボタンダウンシャツを買って帰った。
チノと白シャツ。そして紺系のアウター。間違いはないと思う。清潔感もそこそこあるだろうし、好感度は得られなくとも嫌悪感は産まないスタイルだろう。

でもなー。
なんかのび太っぽい?

と出かける度に、鏡の中の自分に???が飛んだ。

その頃、歳は26で、いわゆるオシャレや遊びを全力で楽しめる世代だった。
ちょっと冒険したいなぁ。
そう思った。
でもどうやって? コンビニでファッション雑誌を眺めてみても、ストリート系、アメカジ、ハイフッション、モード系。どれが似合う? どうすりゃ良い? なにが参考になる? 
目の前に溢れる情報に泡を吹いて倒れそうな気さえした。
普及しはじめたインターネットで色々と調べても選択肢が増えるだけでまったく解決にならなかった。
ワイドショーで当時やっていた亭主改造計画とかみたいに改造してくれない? 独身だけど!
せめて、せめてなにかコンパスに出来る指針はないのか?
そんな僕が食い入るように見ていたパソコンのモニターに
「カラー診断。あなたに似合う色はこれ。もう服選びで迷わない」
との文字が。
なんですとー!? 地獄に垂れた蜘蛛の糸のようにそのページを読み漁った。

パーソナルカラーとは、春、夏、秋、冬と4つの季節に擬えたグループに分けた色のどれがその人に合うかを診断してくれるというものだ。
4つのグループはザックリ言うと

春と秋は黄色味を含んだ色のグループ。いわゆるイエローベース(イエベ)
夏と冬は青色見を含んだ色のグループ。いわゆるブルーベース(ブルベ)

であり、春はクリアな色。夏は明るくソフトな色。秋はシックな色、冬はビビッドな色が配されている。

それらは、個人個人の肌や唇の色、目の色、髪の色、顔立ちなどからパーソナルカラーのプロが診断する。
ピッタリの色が顔の近く来ると、血色が良くなり、小顔に見える効果まであると言う。
そんな魔法のようなメソッドが!?
基本は女性がメイクに役立てるための診断だったが、中には男性も是非!と謳っているサイトもあった。
確かに女性のように色を沢山使ったメイクはしないが、それでもネクタイやシャツの色で印象がガラリと変わるのは良く知られている。
なにより似合う色ってのが分かれは服選びはグッと楽になるはずだ!
僕はいそいそと診断の予約をした。

そして当日。オシャレなマンションの一室で、僕は(今で言う)アンミカさんみたいなファッショナブル美人のコンサルタントさんと対面していた。
 診断時間はトータルで1時間半。色を診断して貰った後、具体的にどんな服の色合いが良いかを教えてくれる。
「では、診断していきますね」
もはや借りてきた猫、まな板の上の鯉だ。
促されるまま僕は鏡の前に座った。
その時僕はロイヤルブルーのストライプシャツを着ていたのだが、診断の前にまず白い前掛けを付けられる。まずは無色からというわけだ。
その上からドレープと言われるB4サイズくらいの色布を次々と当てていき、色による顔色の変化などを見ていくわけだが、これがもう流れ作業のようなスピーディーさ。
「まずはピンク。これと、これと、これ」
「黄色はこれと、これとこれ」
 桜みたいな色。それもう紫じゃね?ってくらい濃いもの。アプリコットピンクなどなど。同じピンクでも色々あるんだなーと思っていたら、次は緑。そして青。
 目が回る〜と思うが、アンミカ先生(と呼ばせてもらう)は容赦なく布を当てては外し、当てては外す。
 後になって分かったが、パッと見が大事なのだ。つまり第一印象で判断しないと、迷いが出るのだ。
 その中で、僕もだんだん慣れてきて、ある色の系統では顔が締まって見え、別の系統だと何となく顔が黄土色っぽく見える様な気がした。
「そうですね。ブルーベースのようですね」
 ほぅ! ブルーですか! 青っぽい色は大好きだから嬉しいな!
「では次に、同じブルーベースでも、夏か冬。どちらかを見ていきましょう」
 アンミカ先生は今まで当てていたドレープを手早くより分けた。
「まずは青ですね」
 と淡い青色。なんとなく紫陽花の花をイメージするような色が当てられる。
 うん。好き。よくこういうYシャツ着てる人いるよね。
「次はこちら。今日着てらっしゃるシャツと同じ感じ」
 いわゆる濃い青。でも紺じゃない。鮮やかな、そして華やかな青。
 うんこれも好き。落ち着く色。
「では、次に黄色です」
 レモンイエロー。そして蛍光にも見える黄色。レモンソーダみたいなもの。
 どれも好きだけど、なんとなく薄いというか、儚げな黄色だと何年着てます、それ?って感じがしなくもない。
 という風に、同じブルーベースでもちょっと違うなーとうんバッチリ!というのがなんとなく別れてくる。でも0点と100点って違いではなくて、70点と90点って感じで僅かな差だけど、こっちの方がより肌に透明感が出るなぁ。唇の色が健康そうなピンクになるなぁという印象。
「冬カラーですね」
 ほぼすべてのブルーベースのドレープを当て追え、アンミカ先生が診断を下した。 
 冬! 冬生まれと何か関係あるのか!? 
「分かりやすいのがこれかしら」
 と白いドレープを2枚当てられる。
 1つはソフトホワイト。コットンシャツなんかでは定番の感じ。
 うーん、悪くはないけど、なんかまぁ、それなり?
「次はピュアホワイト」
 パリッとした白。濁りがない。
 あー、これは輪郭がシャープに見えるし、黒目がハッキリするなぁ。
 僕の黒目は、ほぼ黒に近い焦げ茶だったし、髪も真っ黒。眉毛も一文字。
 確かにソフトホワイトだとなんとなく顔だけが浮いて見えるが、ピュアホワイトだと馴染む。
「冬カラーさんはブルーベースでもより明瞭な、ビビッドな色が得意です」
 ドレープ診断を終えたアンミカ先生が言う。
 残りの時間はいよいよ具体的な服についての話だ。
「あの、昔、友人からサイズが合わないって頂いた、深ーいオレンジとえんじ色のストライプのラガーシャツを着たことがあって。着心地は楽だったんですけど、どうもそれを着ると、まんまのび太っていうか」
「のび太!」
 アンミカ先生は吹き出した。
「そうですね。冬カラーさんがそういういわゆる秋の色。イエローベースでこっくりとした色を着ると、ちょっとちぐはぐになりますね」
「な、なるほど」
「今日着てらっしゃるブルーのシャツとかはもう100点ですし、そのうえから、黒いジャケットを羽織れば完璧です」
 おおー、そうなのか!
 迷ったら黒。
 赤とかでも朱色ではなく本当の赤。もしくはボルドーとか。
 ピンクでもあわーい桜色ではなくてフューシャピンクとかバン!と派手な色。
「ううう、使いづらい色ですね」
 オシャレ初心者の僕には難しい色ばかりだ。
「確かに冬カラーさんの色は使い方が難しいものもありますが、でもなにもそれを全面に使う必要はないんですよ」
 例えば……とアンミカ先生は、雑誌の切り抜きファイルをパラパラと捲った。
「黒いタートルネックに紺のブレザー。それに白いパンツ。シンプルで上品でしょ?」
「ああ、これなら」
「黒いジャケットに、白いYシャツ。そこにボルドーのネクタイ。これもお似合い」
 アンミカ先生曰く、冬カラーの人は、いわゆるコントラストの効いた色使いが似合うので、色数を使えとか、派手な色を使えというのではなくて、明瞭な色使いを心得て、ということ。
 そうすると冬カラーさんの持つドラマテックな顔立ちが引き立つのだそう。
「芸能人で言うと、竹野内豊さんとかオダギリジョーさんなどが同じ冬カラーです」
「い、イケメン揃いですね」
 腰が引けそうになる僕にアンミカ先生は
「そうですね。他にもこんな方がいますね」
 玉山鉄二さん、阿部寛さん、東山紀之さん……オイオイ、本当に美男ばかりだな。
「彼らに共通していることはお顔立ちがハッキリしていること。そして黒髪が似合うこと」
 あー、茶髪の東山さんはちょっとねぇ。
「同じようにお顔立ちハッキリされてますから、似合いますよ。冬の色使い」
 顔立ちがハッキリしている! そんなことはじめて言われたぞ!?
 ずーっとモブ1号とかのび太みたいな無個性な顔だと思ってたのに。
「オシャレは自分のためにするものでもありますから、自信を持ってビビッドな色を楽しんでくださいね。お似合いですよ」
 アンミカ先生に勇気を貰って、僕の初めてのカラー診断は終わった。
 もちろん後日、真っ白いシャツと黒いジャケットを買ったのは言うまでもない。


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