アークナイツ二次創作「クルースの一日」
――――ロドス艦内、シャワールーム。
「ふぅ〜、つかれたぁ〜」
「クルースちゃんお疲れさまー!」
「ほぁ〜、カーディちゃんもおつかれさまぁ〜」
ドーベルマンの訓練を終えたオペレーターたちが汗を流しに来ていた。
カーディとクルースも、仕切りで分けられたシャワールームの中に入り汗を洗い流していく。
「ふぁ〜生きかえるぅ〜」
「ねーねー、クルースちゃん……?」
「どうしたのぉ〜?」
「どうして服を脱がずにシャワー浴びてるの……?」
「あぁ~、今日はいいかなぁ~って〜」
「ふーん……?」
のほほんとしているクルースの顔をカーディが横から見つめる。
クルースも見られていることに気がついてカーディの方へと顔を向けた。
「「…………」」
少しの間、シャワーの流れる音だけが部屋の中に響き続ける。
「え、えっと〜……」
「……」
カーディの真剣な目つきにクルースが首をかしげる。
「カーディちゃん……?」
「……」
「カーディちゃんだいじょうぶぅ〜?」
「ハッ……!! クルースちゃん!!」
「ん~、なぁに~?」
「それシャワールームから出たらびちゃびちゃになるんじゃない!?」
ロドスの廊下をびしょ濡れで歩いている所をドーベルマン教官に見られでもしたら……。そう思うとカーディは気が気ではなくなっていた。
カーディがあたふたと、どうしようどうしようと右に左に頭を振る。
ただ、当の本人はほのぼのとしたまま、
「あぁ~、それなら多分だいじょうぶだよぉ~」
と、シャワーを浴び続けている。
「ぜったい大丈夫じゃないよね!? ドーベルマン教官に……ううん、色んな人に怒られちゃうよ!?」
「うふふ~、もうちょっとしたら解決するからだいじょうぶだよぉ~♪」
「解決するの……?」
「ん~、たぶん~?」
「たぶんって不安しかないんだけど!? んん〜……えっと……そうだ! 私の上着を羽織っていけばなんとかなるかも! あーでも下着とかズボンどうしよう……!?」
「ふふふ~、カーディちゃんは優しいね~。よしよししてあげるぅ〜」
クルースが仕切りの上からカーディの方へ手を伸ばす。
「しなくていい! しなくていいよ! そ、それと、あんまり覗かないでねっ!」
「よしよしいらないのぉ~?」
「そんな場合じゃないんだよっ!?」
「え~、もう訓練はおわってるし〜、今日はゆっくりできるよぉ~?」
「ぬぅう……! 話が進まないぃい……!!」
とうとうカーディが頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
話がまったく進まない中、他のオペレーターたちはすでに着替えようとしている。
――――あれ、そういえばクルースちゃんといつも一緒にいるフェンさんやビーグルちゃんはどこに……?
「カーディちゃん、だいじょうぶ~?」
「……っ!!」
大丈夫じゃないのはクルースだと、カーディが心の中で悲鳴をあげているそんな最中――――
――――バンッ!
シャワールームと廊下を繋いでいる扉が勢いよく開いた。
「――――クルースどこだ!!!」
「――――クルースちゃんどこー!!」
シャワールームの室内にフェンとビーグルの声が響き渡る。
「あ〜、やっぱりきてくれたぁ~」
「え……クルースちゃん、もしかして二人が来るの分かってたの?」
「なんとなくだけどねぇ~」
「はぁ……よかったぁ……」
カーディがホッとため息をもらし、クルースがフェンとビーグルに向かって手を振り居場所を知らせた。
「フェンちゃん、ビーグルちゃん、ここだよ~」
「クルース! 調子が悪いならちゃんと言って!」
「そうだよクルースちゃん! 心配だから訓練終わりに医務室に連れて行こうと思ってたのに……」
「えへへ~、なんだかフラフラするけど、いつもそうだからぁ~」
クルースの不調にフェンとビーグルは気がついていた。
だが、訓練が終わってすぐにクルースが出て行ってしまい、二人は今までずっとクルースを探し回っていたようだ。
「はぁ……とりあえず服脱いで、そんな恰好じゃ医務室にも行けないからさ」
「それなんだけどねぇ~、張り付いて自分ひとりじゃ取れないんだよね~。力が入らないんだぁ〜」
「はぁ……なら脱がすよ……」
クルースのシャワールームへと、フェンがバスタオルを手にしながら入っていく。
フェンは優しく丁寧にクルースの服のボタンを外していく。
「わぁ~フェンちゃんやらしぃ~」
「バカ言ってないで腕あげて」
「はぁ~い。あ~、でもフェンちゃんも濡れちゃうよ~?」
「私は元気だからいいの。早く着替えて医務室で診てもらわなきゃ……。ビーグル、クルースの着替えを用意してくれる?」
「うん!」
びしょ濡れの衣服をフェンが脱がしていく。クルースはなすがまま、フェンに自身の身体を預けていた。
「ねぇ、クルース」
「なぁに~?」
フェンが心配そうに、他の誰にも聞こえないように小声で語りかける。
「調子が悪いなら、無理して平然を装うのはやめてね……心配だからさ……」
「えへへ~、ごめんねぇ~。でも、二人がちゃんと見てくれるからぁ~」
「まったくもう……ほら足上げて」
「はぁ〜い」
無防備に、呆然と立っているクルースの身体をフェンが拭いていく。
「ふふっ……、二人とも仲がいいんだね!」
「ッ……!?」
クルースとフェンのやり取りを、カーディが隣からじっと眺め続けていたようで……。
フェンの顔が一気に赤くなっていく。
「なっ……カ、カーディさんいつからそこに……!?」
「ずっと居たよ?」
「えっ……もしかして話も聞いてた……?」
「うん! 仲が良くて羨ましいなーって!」
カーディの満面の笑みに対して、フェンは口をあわあわと震えさせている。
「あはは〜、フェンちゃんの顔が真っ赤になってるぅ〜」
「っ……! ビ、ビーグル! クルースの服を早く!」
「は、はーい!」
フェンは急いでクルースの身体を拭き終わると、そのままビーグルから受け取った衣服をクルースに着させていった。
フェンがクルースを抱きかかえてカーディの方へ向く。
「カーディさん!」
「は、はいっ!」
「私が言ったことはどうか内緒でお願いします……では!」
「あ、フェンさん!…………って行っちゃった」
一人きりになったシャワールームで、カーディが楽しげに歌を口ずさむ。
ゆっくりと汗を流したあと、カーディはカフェテリアでスチュワード、アドナキエルと合流した。
「おまたせー!」
「おかえり、遅かったね」
「おかえり、なにかあったのかい?」
「それがね、クルースちゃんが……」
カーディは二人に起きた出来事を話した。フェンの言った言葉は語らずに……。
「だからね、みんなでお見舞いに行こ!」
「僕たちが行ったら迷惑では?」
「そうだね、君だけ行ってくるといい」
「でも……」
カーディの表情が少し曇り、スチュワードとアドナキエルが目で合図を送る。
「……しょうがないですね、行きますか、アドナキエル」
「うん、付き添いということで」
「いいの!?」
「ええ」
「うん」
「やったー! んじゃ、早速行こう!」
咲いたような笑顔で踵を返すカーディ。
二人は立ち上がり優しく微笑んでいた。
「ほらほら! 急ぐよ!」
「慌てると危ないですよ」
「教官に怒られますよ」
「うっ……」
二人に諭されながらも、カーディは嬉しそうにクルースの元へと向かうのだった。