ソウル紀行②(アジョシと私Ⅰ)

 韓国語の勉強を始めたのはコロナ禍が始まった2020年。ラジオ番組や本などを使い、まるっきりの独学でどこまでできるかの挑戦だった。とりあえずいろいろやってみようと、使い方もわからない語学アプリも利用してみた。アジョシとはそこで知り合い、今ではカカオトークでやりとりをしている。

 カカオトークでのやり取りは、基本はまず日本語で文章を作成し、翻訳アプリを使って韓国語に変換、それをハングルで打ち直すという方法をとっている。チマチマと勉強を続けていても全然できない。なので、やり取りをするのにとても時間がかかってとても面倒くさいんだ。多分アジョシも同じで、お互い母国語で書いて翻訳機能を使うことの方が多い。
 けれど、会ったことはないけれど、2年という時間をかけたやりとりは、お互いのひととなりを理解するのに充分だったと思う。
 アジョシは教養と常識のある良い人だ。
 
 私はなぜかアジョシは釜山に住んでいると思いこんでいて、変に気を使われることを危惧し、ソウルに行くことは事前に連絡はしなかった。でもソウルに着いてから、同じ韓国にいるのに連絡しないのはどうかなと考え直して連絡をとると、さっそく返信があった。カカオには予定がなければ全州に来ませんかと書いてあった。
 どうやらアジョシは全州に住んでいたらしい。
 仕事があるので全日つきあうことは無理だけど、ランチなら一緒にできる。ソウルから全州までKTXで1時間半くらいだよ、いかがですか?とのこと。
 
 翌日、私は、ソウル駅からKTXで全州に向かった。あらかじめ携帯メモにハングルで『全州駅まで1枚、できれば窓際で』と書いたものを窓口で見せ、カードで切符を買った。ソウル駅では休暇中であろう軍服を着た若者をよく見かけた。あ~ここは休戦中なんだと改めて戦争の重さがのしかかってくる。後からアジョシに兵役中の若者をよく見かけたことを伝えると、軍人の80%がソウルにいる。それは北朝鮮に一番近い場所だからだと説明してくれた。
 全州駅に着くと、きょろきょろしながら私を探してるアジョシがいた。アジョシは私を見つけると、早口の韓国語で何かを言って私を切符売り場につれていき帰りの切符を買った。
「これに乗ってソウルに帰りなさい。それまで一緒に楽しみましょう」
おそらくそんなことを言ったと思う。
 
駐車場に停めてあった大きなバンに乗って出発した。
「これは仕事の車だよ。これからハノンマウル(韓屋村)に行こう」と言った。「ハノンマウルは全州の観光名所で一番歴史のある場所なんだよ」

  アジョシは運転しながら普通に携帯電話を使った。私は驚いて「日本だと罰せられます」と言うと「韓国では平気だ」と答えた。

韓屋村に着くとアジョシは徐行しながら駐車場を探した。
 「チュッチャジャンオプソ~♪(駐車場がないね~)」と軽く節をつけてう歌いながら駐車場を探した。私もつられて「オプソ~オプソ~」と一緒に歌った。しばらくするとアジョシは「チュッチャジャンイッソ!(駐車場があった!)」と言った。
 慣れた切り返しで車を停めたのは道の脇。これって路上駐車じゃないの?と思ったけど何も言わなかった。
 通訳アプリを使いながらの会話はどうしても必要最低限になる。

 「パンモグルカヨ(ご飯を食べに行こう)」
と言って歩き出した。


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