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cheerioの超個人的レビュー第10回『吉沢秋絵:鏡の中の私』

今回は昭和の土屋太鳳こと吉沢秋絵さん(私cheerioが勝手にそう呼んでいます)の3枚目のシングル『鏡の中の私(作詞:秋元康 作曲:山梨鐐平 編曲:山川恵津子)』をご紹介します。

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1986年9月10日発売で、おニャン子卒業記念シングルです。会員番号は25番。

1st、2ndシングルが『スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説』の主題歌、挿入歌でしたので、実質これが役ではなく吉沢秋絵さん本人をイメージして作られた最初のシングルではないと推測します。

吉沢秋絵さんと言えば何と言ってもスケバン刑事の矢島雪乃役が印象的です。袱紗と琴の爪を武器にする令嬢です。本人のイメージにまぁ合っていると言えば合ってますね。最近スケバン刑事劇場版がたまたま日本邦画チャンネルでやっていたので、ついつい見入ってしまいました。24時間テレビで走る土屋太鳳さんを見ながら、あぁ、スケバン刑事見たいなぁと思っていたところ、たまたまでした。願いは叶うものです。

吉沢秋絵さんはおニャン子の他のメンバーと多少経緯が違っていて、運がいいのか悪いのかよく分からない感じでした。おニャン子に加入してすぐドラマ出演とソロデビューを果たしたものの、なかなか人気が爆発しなかったようです。2ndシングルと、この『鏡の中の私』がそれぞれB面に『会員番号の唄』『新・会員番号の唄』が収められていたのは、本体ファンにレコードを買ってもらうための苦肉の策だったようです。

さて。おニャン子白書(書籍)によると、『鏡の中の私』の歌詞はなかなかOKが出ずに秋元さんは5曲分ほど書いたとされています。また、吉沢秋絵さんもその都度歌入れをしていたようで。試行錯誤は彼女のイメージを優先した結果なのでしょうか。

「お元気ですか? なんて どこか よそいきみたいですね」
「いつだって会っているのに 他人みたく 声をかけてみた」

という歌い出しで始まります。このフレーズでリスナーに親近感を抱かせます。よくあるアイドル曲のパターンですね。

だが、しかし・・・。

Bメロで自己分析的な描写があり、その後、サビで、

「教えて 鏡の中の私 聞かせてよ 鏡の中の私 ねえ 私は今 どういう顔をしていますか?」

と割と切羽詰まったような感じで歌い切ります。

そう、彼女は鏡の中の自分に「お元気ですか?」と声をかけていたのです。

2番のサビでは、

「お願い もうひとりの友達 話してよ もうひとりの友達 ねえ 私は今 どういう顔をしていますか?」

と歌い上げます。

そう、この曲はただただ吉沢秋絵さんが鏡の中の自分と対峙して、自分とお話をしている曲なのです。そして鏡の中の自分を「もうひとりの友達」と呼んでいるのです。

よく歌詞を読んでこのことを理解したとき割と衝撃を受けました。それまで抱いていた歌詞の概念というか、あり方はというのは、何らかのストーリーがシンプルに提示され、リスナーの想像力が隙間を埋めるといったものでした。しかしこの曲の歌詞は主人公がただそこに「居座って」いるだけなのです。

吉沢秋絵さんのパブリックイメージ、おっとりゆったりに合っていると言えば合っています。それにしても登場人物はメイクをして最後に前髪を上げる以外の動きは一切しないのです。しかも主人公以外の登場人物もいない。時間の流れが曲の時間より短いパターンです。ほんの少しの思考する時間、ほんの一瞬と言ってもいいと思いますが、そこを切り取っただけの曲。

前にも書きましたが、音楽という時間の流れに逆らえない表現の中で、作品の時間を自由に操れるのが優れた歌詞だ、というのが僕の持論です。3分の曲なら3分の間で時間経過のスピードを速くしたりゆっくりしたり。そして結果、歌詞は3分の曲を1年にも10年にも永遠にもしてくれます。

その考えを逆に補強するかのような、『鏡の中の私』。時をゆっくり止めてるんですね。素晴らしいと思います。

スケバン刑事から離れて、しかもおニャン子卒業記念シングルというこのタイミングにこの曲を持ってきた秋元さんを含めたスタッフの想い。あぁちゃんと吉沢秋絵さんは愛されてるんだなぁと感じます。個人的には鏡の中の自分を「もうひとりの友達」と呼ぶあたりが、吉沢秋絵さんのイメージをよく表しているなと感じます。

吉沢秋絵さんは、おニャン子卒業後しばらく芸能活動を続けましたが、やがて引退されたようですね。でもリリースされた曲は全て名曲です。フォーライフレコードからリリースされていたので作りが丁寧なイメージがします(当時はフォーライフというだけで古臭く感じていましたが)。

当時も今もルックス的にはタイプではない(身もふたもない…)のですが、曲は当時も今も素晴らしく響き続けています。

余談ですが。

吉沢秋絵さんが曲をリリースしていた頃から30年以上経ちますが、僕の行きつけのお店に来られる他店のスナックのママさんは必ず吉沢秋絵さんの曲をカラオケで歌っていくそうです。






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