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cheerioの超個人的レビュー第7回『坂上香織:プラトニックつらぬいて』

さて、今回は同郷長崎が生んだ正統派美少女、坂上香織さんの3枚目のシングル、『プラトニックつらぬいて(作詞:松本隆 作編曲:後藤次利)』(1989年4月26日発売)です。

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坂上香織さんをアイドルと称していいのかどうか、それは今でも個人的には迷うところではあります。歌手デビュー前のCMやドラマでの露出から知ったので、同じく長崎出身の原田知世さんと同じ路線、「女優が歌を歌う」と同じような受け取り方をしていました。ちなみに同様の理由で今でも薬師丸ひろ子さんや原田知世さんの楽曲をアイドル曲と呼んでしまうことに若干の抵抗があります。

坂上香織さんの歌手デビューは1988年8月24日発売の『レースのカーディガン(作詞:松本隆 作曲:来生たかお 編曲:萩田光雄)』でした。同時代のアイドルからすると曲の雰囲気はノスタルジック。というか、当時の僕には「時代おくれ」「古臭い」といった印象でした。それは2枚目のシングルも同様。ただそのことが彼女自身を「正統派美少女」として存在たらしめていた要素でもあったのではと思います。

当時、同じ県内からアイドル(芸能人)が出た!しかも同学年!ということで親近感を抱いていたのは事実ですが、県内といっても僕は田舎の方なので、テレビの向こうの人という、若干微妙な受け止め方をしていました。それは同時期に同じく長崎から出たちょいお姉さんの相川恵里さんについても言えることでした。

それにしても当時の美少女具合がすごかったです。デビューシングルのジャケットとか、今見ても正統派だな、と思います。

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今で言うと、同じ県内から出たという意味で川口春奈さん的なポジションですかね。

話を戻すと、アイドルとしては彼女の楽曲は古臭いなと感じていた僕ですが、3枚目の『プラトニックつらぬいて』で変化が起きました。楽曲が突然当時の「今風」になったのです。ジャケットも華々しいです(歌詞の世界観とはかけ離れていますが)。

急に楽曲が身近なものになりました。それもそのはず、作編曲が後藤次利さんになったのです。おニャン子関連をメインとして聴いていた中学生には馴染みがいいです。音を聴く限り打ち込みなのかシンセベースを使っているのかよく分かりませんが、それでもベースがゴリゴリに鳴っています。うしろ髪ひかれ隊や生稲晃子さんの楽曲で聴き慣れているあの感じ。

坂上香織さんは、以前レビューした田山真美子さんと同様、女優出身だからなのか歌唱が堂々としています。センシティブな表現は田山さんより若干豊かかな。それにしても正統派美少女はどうして声が低くて太いんでしょうか 笑

作詞は松本隆さんです。当時、中学生ながら秋元康さんの歌詞とは違う受け止め方をしていました。秋元さんの場合、田舎の中学生にとってリアリティはないものの同時代性を感じていました。一方、松本隆さんの歌詞は「大人」が描いた青春、みたいなちょっと距離のある、言い方を変えると、より「作品」として受け止めていたような記憶があります。ちょうどその頃に松本さんの自伝的映画『微熱少年』をビデオで見ていたせいなのでしょうか。とにかく「大人」が作った『フィクション』、あるいは「過去」の『青春風景』といった感じでしょうか。

プラトニックをつらぬいてほしい少女は、彼氏(未満?)と二人で海辺にいます。肌が触れることにまだ慣れていない少女は、それでもくちびるの砂粒をそっとはらって男子の目の中の自分を見る。

そして彼女は最後の方で「ほんとのこと言えばキスぐらいなら許してもいいって感じていた」と内心をリスナーにだけ吐露する。

ん。。。中学生男子には理解不可能に違いなかった歌詞。大人だからこそ紡げるであろう歌詞。

でも、中学生の女子なら、まだ触れることもままならない男子の「相手の目の中の自分を見る」ことの意味というか、駆け引きというか、誘惑というか、官能的なものというか、そういったものを『無意識に』あるいは『本能的に』理解できてしまっているのかもしれないな、と思う。

その時、その少女に罪はない。

よく「思わせぶりな〜」とか男は騒ぐけど、大体において男の方が精神的に未熟なのであろう。

当時のアイドル好き中学生を満足させてくれた1曲ですが、その後の坂上さんの歌手活動は再びレイドバック路線に戻ってしまい、僕の興味の対象から外れていってしまいました。

ちなみにこの曲はメディア未収録のVERSION.Ⅰ、シングルバージョンである VERSION.Ⅱ、アルバム収録バージョンのVERSION.Ⅲがあるそうです。アイドルでそういうアレンジ違いが話題になるのも何とも彼女らしい気がします。レイドバック路線を考えても、スタッフ側にロック・ニューミュージック界隈の人が多かったんでしょうね。アニメの主題歌だったんですけど、個人的にはそのことはイメージダウンにつながっています。

そして、アイドル界隈ではよく話題になることですが、その後の坂上香織さんの活躍がなんともプラトニックをつらぬけていなかったんですが、そのことにガッカリしたりネタにしたりしてしまうのもまた、僕を含め、男の方が未熟な所以ではないかと思ってしまう。

彼女に何の罪もない。

今、どこで何をしているのか分からないけど、88年頃の坂上香織さんは間違いなく「正統派美少女」であり、その事実はずっと変わらない。

そして現在の坂上香織さんも素敵な女性であることには変わりないであろうと信じたい。





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