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めぐりあう時間たち



オパールの付いたフェザーネックレスを着けた若者がやってきた。
ぼろぼろになってしまったレザーブレスを差し出して、「母のものなんですが、革の交換出来ますか?」と言う。

レザーブレスはとても珍しいタイプのものだった。革は吟面があちこち剥げてくたくたになっている。長年着けてくださっていたのだろう。
少し時間はかかるが修理は可能なことを伝えてブレスレットをお預かりした。

「Instagramで見たこのブレスレットがカッコいいなと思って。こんなのありますか?」
新人スタッフしおん君のブレスレットの投稿だった。
「在庫はないですけど、同じようなものは作れますよ。お任せでいいですか?」
「はい、お願いします。」
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チャームを選んでもらい、手首を測り、ビーズボードにビーズを並べながら、つらつらと話をする。

「両親が国立のT&Yに通ってて…うちに沢山あります。あ、このビーズいいですね」

「これは…コーヒーウッドかな。じゃあこれも入れましょう。
国立時代のお客様のお子さんが大きくなって訪ねて来てくださること、よくありますよ。
『息子にネックレス取られちゃって〜』なんて言って新しいのを買いに来る方もいますよ。」
と返すと

「あ、僕もです。このネックレス、父のを貰っちゃいました。そしたら自分もお店に行ってみたくなって。」

ブレスレットの長さを調整する。
若者は北口店で買ったという湾曲フェザーブレスを着けていた。

「このフェザーにも白い石付けられますか?」

お母様のレザーブレスにも白い石、ホワイトバッファローが付いていた。
出来るだけ白っぽい方が好みとのことでマグネサイトを。
二つのブレスレットを着けて写真撮影。
来店から1時間半が経っていた。

「すごくカッコいいです!ありがとうございます。長くなっちゃってすみません…。」

大丈夫、だいたいみんな長いから。

ふと見ると店の前に次の予約のご夫婦が立っていた。


若者と入れ違いに、次のご予約のご夫婦がいらっしゃった。

「どうぞどうぞお入りください」

入店してきた奥様のコートの胸元はもこもこと膨らんでいた。
「出てきましたよ〜!」
朗らかに笑いながら奥様が襟元を開けるとふにゃふにゃでふわふわの赤ちゃんが顔を出した。
「うわあああ〜出てきたんですねえ!」
福太が走ってきて、やさしく丁寧に赤ちゃんの匂いを嗅いだ。
配達員さんや道行く子どもたちには厳しめの福太だが、生まれたての小さき者にはちゃんと優しい。
そういえばさぬきが来た時も福太は優しかったな。
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ご夫婦は結婚指輪の最終フィッティングにいらしたのだった。
指輪のカスタムオーダーの場合、仕様によっては2〜3回フィッティングに来て頂くことがある。
ご夫婦の場合、最終フィッティングの前に出産という一大イベントが挟まった為、長いこと延期になっていたのだ。
無事生まれてきて、スクスク育って、一緒にお店に来てくれるなんてなんと目出度いことだろう。
もっともっと大きくなったら…もしかしたらさっきの若者みたいに訪ねてきてくれたりして。

福太はしゃがみ込んだ旦那様の膝に上がり、片腕に顎を乗せて落ち着いてしまった。
奥様の腕の中にはふわふわの赤ちゃん。
旦那様の腕の中には小さい犬。
福太も赤ちゃんもすやすやと眠り始めてしまった。
三人で苦笑しながら写真を撮りまくり、小さな命に目を細める。
犬が腕に乗っててめちゃくちゃフィッティングしにくいけど、暖かくて優しいひとときだった。

お二人の指輪は内側に刻印と名入れ、表にはブラックダイヤモンド。
新しい家族に幸多からんことを。

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両親の元に生まれ、紆余曲折を経て一度は閉店した店を高円寺で再開した私がこうして今お客様を迎えている。
両親の頃のお客様の子どもが大きくなって、シルバージュエリーに興味を持ってT&Yにやってきたり
お客様の元に新しい命がやってきたりして、螺旋を描いてめぐりあうそれぞれの時間たち。
それぞれの螺旋が時折交わりあうその場所にSTUDIO T&Yがある。

と考えて少し途方に暮れた。
大丈夫、たぶん父が見守ってくれている。
…のかなあ。

結婚指輪
結婚指輪


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