父記録 2023/7/6【小舟の時間】

晴れ、暑い

母と二人で病室に入ると看護師さんが痰吸引中だった。
父は酸素をつけていた。
「今朝ちょっと酸素濃度が下がってしまって、今念のため酸素をつけてます。
なかなか痰吸引がうまくいかなかったりが続くと下がってしまうんですよね。
村田さーんご家族見えましたよー。」
痰吸引が終わった。
「お父さん、よかったね、楽になったねー」

「最近ね、いいですよね。『暑いですか?』『あつくない』とか『苦しいですか?』『苦しくない』とか、おはよう、とかね、やりとりが看護ノートにズラーっと書いてあるんですよ〜はっきりされて来てますよね」
看護師さんが朗らかに伝えてくれた。

天下市の話のつづき。
青山に支店を出したこと。
「お母さんがさ、よく乗り換え駅でおいしいミックスフライ弁当買って来てくれたり、私が青山のお店に遊びに行った時、帰りに一緒に食べたりしたよね」

「そうだった?覚えてない。忘れてること、いっぱいあるわね」

私たちは毎日 父のベッドの周りで
三人で小舟に乗って、過去の川をクルーズしている。
船頭はお父さん。
岸辺には過去の風景、思い出が流れていく
「見て、ともちゃんあんなに小さかったのに日野の駅まで歩いちゃったのよ」
「お父さん、ともちゃんをお母さんと同じ保育園にいれてください!って市役所に泣きついたのよ〜」
「なちゅやしゅみ、楽しかったねえ」
「三人ともまっくろだねえ」
「ほら、どんくさいニヤオがスズメを取ってきたわよ!」
「お父さん、朋ちゃん面白い高校入って面白かったよ〜」
「お母さんが中学まで能力を眠らせといたからね〜」「起きられてよかった〜!」
「海辺で爆発!!やばいよねえ」
「お母さんあんなボロアパート、ちっとも懐かしくないのよー」

見たこともないさんえい荘での生活
トタン屋根にぼっとん便所
大人のオモチャを一生懸命作る人たち
はちゃめちゃな青春
上田さん ゴローさん
もういない人たち
懐かしい景色を 忘れていた思い出を
三人で辿る 行ったり来たり
父を送ってゆく旅

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?