見出し画像

けいこにっき/7

8月13日(木) 母ちゃん、おかえり

画像1

昨日から『さるすべり』を終えたえりさんが稽古場に復帰した!
息つく間もなく頭からえりさんの出演シーンをさらっていく。

みんなとは一週間ブランクがあったのに、恐るべきスピードで演出を吸収していくえりさん。そのすごさはもちろんなのだけど、やっぱり母ちゃんが帰ってくると嬉しくて、みんなえりさんが出てるシーンを食い入るように見て、笑ったり泣いたりしている。

えりさんと小林美江さん、ふたりのシーンがある。
昔なじみの親友であり、愉しい丁々発止のやりとりをしあうところなのだけど、同時に奥深いところにそれぞれが秘めた感情を抱えているシーンでもある。だから、台詞上で表向きなされている会話と、心の底に流れている感情は別物で、その「ほんとうは・・・」という部分を探り、試し、掴んでいくのが会話劇の難しさであり、一番の面白さだと思う。
おふたりは、演出がリクエストすると、ふっと一瞬考え、「はい」といって先ほどとは全然違うトーンで会話を始める。その変化が面白く、反応の早さに感嘆する。

たとえばそれが、演出の求める「正解」である必要は無い。
正解なんて私の中でもコロコロ変わっていくし、最後までわからないところもある。そもそも、わかってしまってはつまらない。

人間の心はミルフィーユみたいに、何層も細かく積み重なっている。発語した瞬間に何層目の感情が出てくるかで全然見え方は違うし、どの部分を厚く見せたいか、ということは求めていくけれど、つなぎ目がわからない層が出てきたときや、何層もいっぺんに出てきた俳優の演技には、演出しながらハッとこちらが気づかされることも多い。

ミルフィーユが細かく、何重も重ねられて分厚いやりとりは、どこを抜き取っても新鮮で、おいしく、面白いものだ。えりさんとみえさんを見ててそんなことを思った。

8月15日(土) あら通し、一幕

画像2

今日は一幕の荒通し。
「ひとよ」はもともと、上演時間約2時間弱の作品だ。
だから初演と再演は一幕ものだったのだけど、今回は換気休憩が途中に入ることになったので、前半と後半に分け、二幕構成になった。
一時間強の一幕と、一時間弱の二幕。

通し稽古にはちょっと早いけど、荒削りでもいったん頭から続けてやってみる。ぶつ切りで稽古しているとその瞬間ごとにテンションや状態を成立させているので、通すと繋がっておらずバラけていることがある。
点と点を線にする、今日はそんな日。

初めての通し稽古は、スタッフさんが稽古を観に来る。
演出部さんや音響さんはもちろんいるけれど、美術家や照明プランナーはここで初めて全容を知る。

私は内心、これがもう、いやだ。こわい。逃げたい。

誤解を生む書き方かもしれないが、逆に聞きたい。
初通しを自信たっぷりに見せられる演出家さんているのかしら?
いるならば、嫌みなどではなく、本当にその極意を教わりたい。
私はいつも消え入りそうな心持ちになっている。

人に見てもらうためにやっているのに、誰にも見せずにこのままずっと稽古だけしていたいと思ってしまったりする。
永遠に続く、文化祭の前日。
「うる星やつらビューティフルドリーマー」みたいに。

そしてこの気持ちは…初日が明けるまで、つづく。

一幕の通しを終えたら一時間20分あった。
あと10分は縮まる見込み。
まだブツ切りの稽古しかしてなかったのに案外まとまっているのは、
限られた時間にギュッと稽古をしようという皆の意識の賜物だろうし、
まいど豊さんやカンコこと久保貫太郎、初演再演を一緒にやってきたキャストの安定感のおかげでもあると思う。カンコは初演からいい感じに年を取って、この5年で着実に技術力が上がっててなんか感激した。
まいどさんは、まったく、まったく老けない。

8月16日(日) 二幕も荒通し

画像3

二幕の荒通し稽古。
照明の宮野さんに「荒いですからね。いっときますけど、荒通しなんですからね!」とまた姑息にも念押ししてしまう。
何言い訳してんだ、とつっこまれる。
美術家の敏恵ちゃんは、そうはいっても初通しが一番好きなのだそうだ。
私はたいてい、初通しは思うようにいかなくて内心ぶちぶち切れていることが多い。だけどそんな中で敏恵ちゃんは「いい芝居だねえ」と感想を言いに来てくれたりして(しかし私がひどいしかめっ面をしててアレ、となるらしい)、わたしは渇いた砂漠に水を受けるような気分になる。
今日は荒いとはいえ、何か所かグッと来てしまうところがあったりした。
そして初日までの日数を思うと、この時点で荒くてもいったん通せたのは本当にありがたい。

「ひとよ」に登場する三兄妹。長男は初演からずっと若狭で、長女は初演再演が私、今回は異儀田、で、次男雄二役だけは、毎回変わっている。
初演では北九州のカリスマ俳優・「彼の地」でもおなじみの寺田剛史、再演は常に胸キュンさせてくれる阿佐ヶ谷スパイダースの伊達暁さま、映画では佐藤健さんが演じた役。今回は『ペールギュント』で共演したこともある、荒木健太朗君。

私は大体いつもあてがきをするので、つい初演キャストをオリジナルと呼んでしまうことがあるくらい、初演への思い入れが強い。
ただ、ここ数年でようやく再演でキャストが変わる面白さもわかってきた。
何となく大人の階段を上がった気がする。
今回、初演再演の良さが消えるわけでなく、また新しい雄二像を知ることができている気がする。
剛史の雄二は哀しく不安定な、守ってあげたくなる弟だった。伊達さんの雄二は一見クールでドライ、でも逆に、家族を守ろうとしているような強さを感じた。佐藤健さんの荒ぶる魂むき出しな感じもよかった。

さて今回の荒木君は……、
……ここで書くのはもったいないからやめるけど、ああ、こんな雄二もいたんだなあとか、雄二ってこんな人だったんだ、と気づいたりして、楽しい。
きっと新しい雄二を愉しんでいただけることと思います。
ほかの役も、これまで私が抱いていた役の印象を更新していっている。
もっともっと、多面的に枝分かれしていきたい。

みんな、みんな、オリジナルなんだから。

早く見てほしい!!!いや、まだだ!!
だってまだ私たち稽古参加できてないし!!!

画像4

演出部のブーフーウー、まちがえた、3羽カラス、まちがえた、ズッコケ3人組(森崎、細村、置田)がバックステージツアーと称した動画を「ひとよ」特設ページの企画コーナーで連載してます。

裏廻り3人のうらまわりな噺 〜レベル合わせた平台で見る夢〜|ひとよWEB企画|noteKAKUTA劇団員でもある、演出部3人衆。健康、ゆうじ、ヒロ。 この3人の視点からお送りする、そこに確かに存在するがあまりnote.com

ただ現状バックステージツアー感は全然なく、見どころのわかりにくい動画です。感染症対策のやり方なども載ってるのでよかったらぜひ…

今のところわたしは、いらいらしながら見ています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?