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自慢話は嫌われる (エッセイ)

 転職活動をしていた頃、面接の練習というものをした。大抵は大学生のうちにやるであろうこの練習を私は中年になってから経験したのだ。
 なにせ今までは飲食店でいくつか店を変えてきたが、そこでの面接は世間話みたいなものだった。店長クラスの人が出てきて履歴書を眺めたあと、一言二言の質問で終わってしまう。一番早かったのは先方が開口一番「いつから働けますか?」の一言で、「いつからでも」と答えたら、「じゃあお願いしようかな」とのことだった。

 しかし、今回は違う。転職の軸を「飲食以外」で考えていたから。そうなると人一倍アピールしなくてはならない。若さという武器はとうに使えない。せめて面接では好印象をと頑張ってみたわけだ。

 自分の長所や短所についても考えてみた。自分の市場価値というのはいかほどなのか。会社が私を採用した場合メリットは何なのか。それをどれほど主張できるのか。
 自分を客観視するという面ではいい経験だったが、考えれば考えるほど自信はなくなってゆく。自分という人間は無価値なんじゃないかと本気で思った。
 そんな精神的にも不安定で、面接に対しても自信がなかったころ、こんな夢を見た。
 人の夢の話ほど退屈なものはないのだが、まぁ聞いて欲しい。

 夢の中なので何の業種かは分からないが、ベンチャー企業の面接に私はいた。若い男性と女性、そして私三人のグループ面接で、そこにはその会社の社長も同伴していた。
 その社長が“いかにも“って感じだった。若くてギラギラしている。俺は仕事できますよってオーラが出ていて、口癖は「一緒にイノベーション起こそうぜ!」って感じ。
 はっきり言って苦手なタイプだ。
 自己紹介で若い男女が二人とも新卒大学生なのが分かった。その中に中年の私がいる。嗚呼、場違いなところに来てしまったと私は思った。
 面接官の質問が二周ほどして、ついに社長が口を開いた。
「じゃあ今から自慢話をしてくれる?」
「ほら、自慢話って普段しないでしょ? 嫌われるから。でも今日は思う存分してみてよ。俺、そういう話聞きたいな」

 私も含め、応募者が困惑している空気が部屋に漂う。それを察してか、社長は『どうだ、こんな質問されたことないだろう』という表情をした。
 その表情を見て、私は苦手を通り越して嫌いなタイプだと思った。
 最初は若い男の番だった。私も何て答えるのだろうとドキドキしていた。すると男は「高校では野球部に所属しており、二年の夏に甲子園に行きました」と答えた。
「甲子園!? すごいじゃん、どこの高校?」社長が食いついた。
 男は高校名と打順とポジションを答えた。社長も満足そうにうなずいているし、隣りの面接官も笑顔で聞いている。

 やばい、次は私の番だ。しかし何も浮かばない。しかも甲子園の後だ。ない、ないぞ。自分の経験では浮かばないので、こんな有名人と知り合いですとか、そんな話にしようかと思った。いや、ダメだ。それは自分の話ではない。何より自慢話として一番ダサい。あー、どうしよう。絶体絶命だ、と思ったところで目が覚めた。

 夢で良かったと、目が覚めてまず思った。ただ現実世界でもその後、自慢話について改めて考えてみた。
 やっぱり自慢話は聞くのもするのも好きじゃない。いや、好きな女の子の前では自分を大きく見せようと、そんなところはあるかも知れない。自慢とまではいかなくても、相手は似たように捉えていたんだろうな。うん、だからモテないのか。

 それはさておき、許可された自慢話、求められた自慢話についてあの日から考えている。だが、今日に至ってもまだ何も浮かばない。
 何か思いついたらここで発表してみよう。
 でもその時は、どうか嫌いにならないでください。

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