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戦前の日本語アクセント辞典

ある日、流れてきた1つのツイート。

以前聞いて気になっていた
独擅場
独壇上
使わなくなると言葉は消えていく。
経緯は‘間違いから’と書かれると、使う時に迷っちゃう💧
似てるけど違うもの、そして現在の主流であるもの、ということかな。
(友人のツイートより引用)

ほほぅ、ドクダンジョーにそんなドラマがあったのか。知らなんだ。
これは日本語あるある探検隊としては調べねばなるまい!
ということで、いつものようにバタバターっと色々調べてみた。

ザックリまとめると。
元々は「独擅場(ドクセンジョー)」といっていたのだが、「擅」を「壇」と間違える人が増え、いつしか誤った方の「独壇場(ドクダンジョー)」が定着し、「独擅場」は駆逐されてしまったよ。というお話。

原因についてのNHK放送文化研究所(文研)の推測によると、
1、「擅」と「壇」は字の形自体が似ている?
2、「壇」は「演壇」「教壇」「仏壇」など場所を表す言葉と混同?
したのが原因じゃないかとのこと。まぁ、日本語あるあるではありますな。
さらに文研によると、

戦前の『日本語アクセント辭典』(日本放送協會編 昭和18年1月発行)には「ドクセンジョー 独擅場」と記載されていますが、その後、「独壇場(どくだんじょう)」という言葉の定着・慣用化が進む中で放送でも今では「独壇場」を使っています。
引用:NHK放送文化研究所 「独壇場」「独擅場」?

やー、今やすっかり「独壇場」の「独壇場」ですなぁ。

待って、違う違う。そうじゃない。忖度だよ。中の人が言いたくて言えなかっただろう気持ちを忖度して代わりに言っただけだってb...

ここから、今日の本番です。

戦前のアクセント辞典!気になりますねぇ。
NHKのアクセント辞典といえば、2016年に久々に改訂された『日本語発音 アクセント新辞典』が最新版。言葉は常に進化を続けていますから、常に最新版を引いて、、、いるのかといえばそうでもない。僕は古いアクセント辞典もまだまだ引きます。
言葉の定着に揺れを感じた時や、複数アクセントの優先順位に違和感がある時、似た変化をする複合語探し、ノスタルジーの演出としての言葉探しなどなど、そういったときに他の資料などと一緒にまだまだお世話になっています。
そんなアクセント辞典の昭和18年版ですよ!
そりゃもうアクセントの変遷だけでなく、どんな言葉が載っているのかだって気になるじゃないですか?!
というわけで、片っ端から古書販売の検索サイトで調べてみるものの、、、ない。見つかった中で一番古いものは1966年、昭和41年版まで。
昭和41年だって、半世紀前。ウルトラQや笑点が始まった年だと思えば、それはそれで楽しめるのだろうけれど、すでに《戦前》という言葉の破壊力に心を奪われてしまった身には物足りぬ。
最後の手段というわけで、国会図書館のデータベースを覗いてみると、、、
あった。ありました!昭和18年版の『日本語アクセント辭典』。しかもデジタルコレクション化されているのでネットで見れる!DLもできる!web転載もOK!!ということで、さっそく件の「独壇場」「独擅場」の該当ページがこちら↓↓↓

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右側P545に今はもう消え去った「ドクセンジョー 獨擅場」いました。
それより「トクセツデンワ」って何だろう?
「讀(読)心術」が「トクシンジュツ」になってるー!
あぁ、もう面白い。一晩呑めるわ。
ちなみに次のP546を開いてみると

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「独壇場」はおりませんでした!
まだ定着していなかったのか、はたまた定着していたけれど辞書に採集されなかったのか、どちらでしょうねぇ。またこれ以降の版で「独擅場」と「独壇場」が同時に掲載された時なんかあったんでしょうか?興味深い。

さて、皆さんはもうお気付きでしょう。アクセントの表記法が現在と異なっていることを。そう、2016年の大改訂のときにも行われ、数多の読者を戸惑わせた表記方法の変更。その足跡も、ここに見ることができるのです。見慣れた形のようで、ちょっとずつ違いますね。それはともかく表記方法はもう変えないでくれると嬉しいです。

さて、それでは最後にアクセントの型を覗いて終わりたいと思います。

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型の表し方も今と違うんですねぇ。「下(げ)の型」「上(じょう)の型」とか心をくすぐってくるなぁ。と同時に、右のページの「愛国○○」という言葉のならびに時代の足音を感じるようです。

興味を持たれた方は、下記リンクからどうぞ
国立国会図書館 デジタルコレクション

TOPページ https://dl.ndl.go.jp/

日本語アクセント辭典(昭和18年1月版)
(本書が収蔵されている中では一番古い日本語アクセント辞典のようです)

ところで皆さん、もう一つお気付きだろうか。
この『日本語アクセント辭典』は1943年1月発行です。
太平洋戦争の開戦は、1941年12月8日。
いや『戦中』の本やないかーい!

お後がよろしいようで。

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