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バー・ムーン・ビーチ 海賊の初恋

その夜は海賊が来店した。

世界中の荒くれの船乗りたちもその海賊のことだけは恐れたという伝説の海賊だ。

彼は人を殺すことになんの苦しみも感じていなかった。コックが料理を作るのが仕事のように、詩人が新しい言葉を探し出すのが仕事のように、彼は目の前の罪のない人間を黙々と毎日殺し続けた。

彼は「ロン・サカパの23年物をオン・ザ・ロックで」と注文した。

私がロン・サカパを出すと、海賊はゆっくりと飲み、「生まれて初めての恋をした」と言った。

「恋をした場所は港でもなければ故郷でもない、俺が襲った船の上のある一室の中のことだった。

大金や宝石を持っていそうな一等室から順番に扉をこじ開けるのが俺たち海賊の流儀だが、その女性も一等室の中にいた。

俺が部屋に押し入ったとき、彼女は驚いたことにウエディングドレスを着ていた。そして、俺は彼女に恋に落ちた。

俺は『結婚するのか?』と彼女に訊ねた。

彼女は毅然とした態度で『はい。この海の向こうの新大陸で私を待っている男がおります。あなたは海賊ですか?私はあなたにお渡しできるような物は何も持っておりません』と答えた。

そうだった。俺は海賊だったんだと俺は思った。

俺は自分の恋心をどういう風に伝えたらいいのかわからなかったので、とりあえずこんな質問をした。

『その結婚する相手はどんな男なんだ?』

『新大陸で花屋を営んでおります』

そうか、彼女は新大陸で花屋に嫁ぐんだなと、俺は彼女の未来を想像した。俺は彼女にこう言った。

『花屋か。その花屋でバラを買って、おまえにプレゼントしても良いか?』

彼女は少し驚き、そして微笑んだ。俺の初めての恋の相手の選択は間違えてなかったことを確信した。そして俺はその船から降り、海賊をやめた」

「その花屋には行かれたんですか?」

「俺に新大陸は似合わねえよ。だからこんなしけたバーで飲んでるんだ」

そういうと彼は「もう一杯」と言った。

#小説

bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。 

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