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『たべるのがおそい』を読んで感じたこと、考えたこと

文学ムック『たべるのがおそい』を読みました。 http://goo.gl/dw4eS5

いわゆる文芸誌って普通は全部は読まないですよね。

好きな作家の作品を読んで、面白そうなエッセイを読んで、それで自分の本棚に入れるともう二度と手に取らないというのが普通ではないでしょうか。

でも、たべおそ、一気に全部読んでしまいました。すごく面白かったんです。

円城塔さんの『バベル・タワー』、いわゆる虚構に虚構を積み重ねていく物語なのですが、この手法って「設定がちょっと変わっているだけ」とか「途中で説得力がなくなり虚構が息切れしてつまらなくなる」とかってパターンが多いと思うのですが、やっぱり円城塔さん、最後まで息もつかせない面白さでした。もう圧巻です。

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アメリカ人女性と韓国人女性の翻訳小説がふたつ収録されているのですが、偶然なのか、それとも編集者の意図なのか、どちらの小説にも「日本」が登場します。

で、韓国の小説の方は「太宰治」、「玉川上水」と、「漢字」で表記していて、アメリカの小説の方は「モリタさん夫妻」、「トツカ町」と「カタカナ」で表記しています。

これ、もちろん「太宰治は実在する人」だからで「モリタ夫妻はフィクションの人物」だからという理由もあるとは思います。

でも、韓国語の原文を読む韓国語ネイティブにも英語の原文を読む英語ネイティブにも、本来は「日本人という異国人の人名」として響いているはずですよね。

それを「漢字で表記するのと、カタカナで表記するのとでは、どういう風に日本語ネイティブには伝わるか」という違いが比較できます。

もし編集者の意図でこのふたつの翻訳小説を並べたのならすごく面白い試みだなと思いました。

ちなみに韓国人作家のイ・シンジョさんの作品、僕はすごく好きでした。もっとこの人の作品を読んでみたいなあと思いました。

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「本がなければ生きていけない」というお題で、本の仕事をされている4人がエッセイを書いています。

ちなみにこの「お題をもらってエッセイを書く」というの、やってみたことはありますか?

僕はあるのですが、実はすごく難しいんです。

どうしても「自分って、本当に本がないと生きていけないのかなあ」というテーマに何度も気持ちがひっかかってしまって、自分の文章に翼が生えてこないんです。

それがさすが、みなさん、その「引っかかり」を回避して、「自分の仕事や生い立ちやこだわり」に話を落としこんで、すごく面白くなっています。

ちなみに僕は瀧井朝世さんという方の文章がすごく好みでした。

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西崎憲さんの小説、すごく面白いです。西崎さんの小説の中で僕は一番かもです。

個人的に「物語の中に、また別の物語があって、それが同時に進行していく」という小説がすごく好きなのですが、それって本当に「技術的に上手い人しかやっちゃいけない手法」なんですよね。

西崎さん、本当に上手いです。本来の物語が少しづつ歪んでいくのと並行して、中の物語も少しづつ歪んでいく感覚がたまらないです。

あと特筆すべき箇所は「飲食店の描写の説得力」です。

僕は自分が飲食店を経営しているので、フィクションの中に出てくる「飲食店描写」がすごく気になるんです。

「え、そんな値段のお店、ありえないから」とか「そんな場所にお店があったらお客さん来ないよ」とか、あと「味を表現する形容詞」なんかもすごく気になるんです。

それが、もうこの小説に出てくる飲食店、どのお店もすごく「特殊なお店」なのですが、「うわあ、すごく良いお店だなあ。本当にあったら行ってみたいなあ」と感じさせます。すごいです。

個人的にはこの主人公くもりを使った小説を、あと何本か読みたくなりました。

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この本、とにかく「手ざわりというか心ざわり」がすごく良いです。

すごい技術を持ったトップクラスの人たちが、まるでインディーズレーベルをやるような感覚で、淡々と並んでいるところが、すごく「親しみ」があります。

ご存知かとは思いますが、こういう文芸誌の第一号、さらに初版って、10年後、30年後にすごく価値が上がります。

暮らしの手帖の第一号、ananの第一号、本の雑誌の第一号、持ってる方、普通にリアルタイムで買った方、自慢になりますよね。

ちなみに僕はコロコロコミックの第一号をリアルタイムで買って持ってたのですが、もちろんなくしました。

『たべるのがおそい』、今すぐクリックして買った方が良いですよ。確実に5年後に「あ、あれね。俺、出たときに第一号、買ったんだよね」って自慢できますよ。 http://goo.gl/dw4eS5

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さて、僕は、これを読んで、すぐに「真似したい」と思いました。

僕は「東アジア音楽フェス」をいつかやりたいと思っているのですが、いろんな人に「もっと小説やマンガなんかも一緒に絡めてみたら」と助言を頂いておりまして、「そうかあ、こういう感覚で、韓国の音楽や中国のマンガ、日本の小説って感じで色々と集めたマガジンみたいなのを作れば面白いかなあ」と思いました。

このnoteで、そういう「いろんな表現をまとめたマガジンみたいなの」って可能なんですよね。

そういう東アジアの面白い小説やマンガや音楽なんかを「ひとつの方針」でまとめたマガジンみたいなのやってみたいなあ、と思いました。

とか言いつつ、僕の場合、どうも「プロデューサー力」というのが皆無でして、たぶん実現しないんですよねえ。

インターネットって「世界中の人が見ることが出来る」というのが一番の魅力だと思うんです。やってみたいので、「編集長をやってくれる方」、募集中です。

ちなみにJJAZZで僕、こんな「日本語と韓国語と中国語の音楽コンテンツ」やってます。ご参考までに→ http://www.jjazz.net/tokyocrossing/choice/choice1.html

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

#コラム

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