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長編小説 お店やるぞ① と2月7日の日記

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#小説

1989年、冬。20才の僕は大学に退学届けを出して、その足で渋谷のバイト先、ムーン・ビーチ・レコードへと向かった。

月のビーチのレコード、「どういう意味なんですか?」とオーナーの堀内さんに聞いたところ、「月のビーチで聞くレコードって良くないか?」と戻ってきた。僕は「月には空気がないからレコードは聞けませんよ」と言おうと思ったが、口にするのはやめた。そんなこと知ってるに違いないからだ。

僕が生まれて初めてCDを見たのは1982年、中学1年生の時だ。お金持ちの大塚くんの家で「中島、CDって知ってる?」と言われて、見せてもらったのが大瀧詠一の『ア・ロング・バケイション』のCDで、僕はひとこと「小さい」と声をもらしてしまった。

あの僕たちの大好きなジャケットが、すごく小さくなっていて、透明のプラスチックケースを開けると、きらきら光る円盤が入っていた。「これ、どうやってとるの?」と大塚くんに聞くと、大塚くんは「ここを押すと、CDが外せるから」と目の前でやってみせてくれた。

当時は何でも小さくなるのが良いことだったし、透明のプラスチックケースというのも格好良かった。そして何よりB面のないきらきら光る円盤がまるで未来だった。

大塚くんがCDプレイヤーのボタンを押すと、ゆっくりと「トレー」が出てきた。そこにうやうやしくCDをのせて、またボタンを押すと「シュルシュル」とCDが回転し始める音がして、あの『ア・ロング・バケイション』の印象的なイントロがスピーカーから流れ始めた。

「光で信号を読みとってるから、絶対に針飛びなんてないし、ノイズもないんだ」と大塚くんが言った。もちろん僕もそんなことは知ってたけど、でも本当にCDからはノイズが全く聞こえてこなかった。これは未来だと感じた。

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