若いころにたくさんの失敗や試行錯誤をすることと中川淳一郎さんの『仕事に能力は関係ない』のこと

最近、妻の影響で、落語や講談や浪曲を見る機会が増えたのですが、「とにかく感動する人情話」というのに、いくつかパターンがあるなあと気がついて、色々と分析をしています。

で、「立身出世もの」と言いますか、「後にすごい人物になる人間がまだ若かった頃に色々と失敗したり試行錯誤した話」というジャンルがあるんですね。

この「若かった頃の話」に必ず「教え」のようなものが必ずありまして、こんな感じなんです。

1.お世話になった人への裏切り行為はするな。

2.若いうちにたくさん恥をかいておけ。その失敗が人間を大きくさせるし、周りの弱い人の気持ちがわかるようになる。

3.とにかく正直に生きろ。愚直でいいから曲がったことはするな。

4.ちょっとばかりの成功で天狗になるな。

5.人を見かけで判断するな。

だいたい、この辺りのことをテーマに「いろんな事件」が起きて、その若者が「次のステージに上がって」、そして観客は「いやあ良かった。若い頃には色々と苦労したんだけど、やっぱりこういう正直な人は後に成功するものだなあ」と思って「ジーン」とくるという構図なんです。

で、見る側としては、その「主人公」が身近に感じるキャラクターであればあるほど、そして、その「主人公」が大きな失敗をして窮地に立たされれば立たされるほど、話が終わった後に、「いやあ良かったあ」って感じるんです。

          ※

そういう物語の「現代版」に出会いました。中川淳一郎さんの『仕事に能力は関係ない』です。→ https://goo.gl/H7ZMIT

これ、中川淳一郎さんが、博報堂をやめ、全くのゼロから多くの失敗を重ね、学び、試行錯誤し、階段をかけのぼっていく話なのですが、いろんな「教え」が出てきます。

これ、今フリーでやっているライターさんはもちろん、メディア関係や出版業界の人は是非、読んでほしいことだらけなんです。

まず一番僕が強調したい個所がありまして、中川さんが「記事をつくるにあたり『エラさの序列』というものをつけるようになった。上からエラい順である」というものです。

1.取材対象者

2.編集長

3.読者

4.編集者

5.ライター

これ、本文を読まないと全ての意味は正確には伝わらないと思いますので、「取材対象者」を一番に考えるということをここで話させてください。

例えば、bar bossaに「取材」でいろんなメディアの方がいらっしゃいますよね。

みなさん、いろんな事情でいらっしゃるんです。

例えば「カレー特集」でくることもあれば、「バーのマスターに恋愛相談」みたいな趣旨でくることもあれば、「全く記事になる予定もなく、ただなんとなくお話を聞かせてください」という方もいらっしゃいます。

もちろんお店としましては「メディアで取り上げられる」って宣伝になるので、お願いしたいところなのですが、記事を見ると「あれ?」っていうのがどうしてもあるんです。

「あ、この記事だと、bar bossaはワイン・バーだってわからないから、これを見た人はカレーだけを食べにくるかも」とか

「あ、この記事だと読む人は怒っちゃうかも」とか

「あ、こんな取り上げられ方だと、変なお店って思われるだけかも」とか

「あれれ、あんなに3時間も話したのに、僕の名前も店の名前のクレジットもなし。あれれ…」とかってあるんです。

でも、それぞれの関係者の事情や、どうして記事がああいう風になったかはわかるんです。

でも、「取材対象者」を一番に考えてほしいんですよねえ。この辺り、僕の説明ではイマヒトツ伝わらないかも知れないので、こういうお仕事をされているかたは、是非、中川さんのこの本のこの箇所をお読みください。ほんと、中川さん、正しいことを言ってます。

           ※

あと、もう一つ、すごく面白いのがあるので抜粋します。

>私は常々、若いフリーランスの人間に対しては、こう伝えている。「以下の条件で3つ当てはまる仕事をすることが理想。2つだと少し文句を言ってしまう。1つだと、文句を言う上に手抜きをしてしまう。1つもなければ、もはやそれは仕事とは呼べない」

1.成長できる

2.カネ払いが良い

3.仕事相手のことが好き

いやあ、ほんと、これも納得です。

これ、フリーライターの人ではなくてもどんな仕事にも言えますよね。お金はすごく良くても、相手がイヤで仕事内容も成長の意味がなければ「やる気」はガクンと失せます。

お金が少なくても、仕事相手が好きで、やりがいがある仕事だとすごくやる気でますよね。

         ※

他にも色々と抜粋したい箇所はあるのですが、そういう具合で、とにかく「中川淳一郎さんスタイルの仁義の通し方」や「この世界で生き残っていく方法」というのを具体的な例をふんだんに交えて教えてくれます。

この本、とにかくフリーライターの方は必読ですし、出来ることなら、フリーライターさんに発注している編集者さんやメディア側の方にも読んでほしいです。

あと、中川淳一郎さんのように「組織で働けない人」も、必読です。僕もとにかく「組織で働けない人間」なので、すごく参考になりました。

         ※

そして、やっぱりこの本は「私小説」です。冒頭に上げた、若者が多くの困難を乗り越え、たくさんの失敗をして、多くの人たちに助けてもらって、その恩義を忘れることなく、階段をのぼっていく物語です。感動します。

※「林さんのあの書評って誰かに依頼されてるの?」ってたまに言われるのですが、そんなことないです。僕が勝手に「この本面白かったなあ」って感じて「みんなに読んで欲しいなあ」と思って書いてるだけですので。

#コラム

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

この記事は投げ銭制です。この後、オマケで僕のちょっとした個人的なことをすごく短く書いています。今日は「こういう取材スタイルお店側としても助かったなあベスト3」です。

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