新しい東アジア料理の登場を待つ
80年代の終わりから90年代の頭にかけて、「無国籍料理」とか「エスニック料理」というのが流行ったのはご存じですか?
タイ料理とバリ料理と、すごい場合にはメキシコ料理なんかも食べられるカフェ・レストランで、杏露酒やピニャコラーダやフローズンダイキリがあったりして、ちょっと南国リゾート風の内装だったんです。
これ、その当時からみんな指摘してましたが、こういう料理が流行った理由は、一般の日本人が海外旅行を楽しみ始めた時期だからなんですね。
「地球の歩き方」というガイドブックが出て、みんな東南アジアやヨーロッパなんかに行って、現地で初めてトムヤンクンやアルデンテのパスタを食べて、驚いた時期なんです。
それで「イタ飯ブーム」と並行して「エスニック料理」が流行ったのでしょう。
でもその当時、どういうわけか、「タイもインドネシアもメキシコも全部一緒にして提供する『なんちゃって南国料理』」みたいなのが多かったんです。
これ、図式としては思い当たる現象があります。
1940~50年代の間にアメリカが豊かになって、アメリカ人の海外旅行が流行ったそうなんですね。
で、パリのお洒落なカフェに田舎もののアメリカ人が大挙して、すごくバカにされたそうなんです。
そして一方で、アメリカ人はキューバやブラジルやハワイ(海外ではないですが)に行って、現地の音楽に感動して、アメリカでキューバもブラジルもごっちゃになった「ラテン音楽」やマーティン・デニーのような「エキゾチック音楽」が流行りました。
日本の「無国籍料理」と構図が似てますよね。
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その後、日本では「なんちゃって無国籍料理」って一度廃れたと思います。
やっぱり「現地そのまんま主義」と言いますか、現地に何度も通った日本人が「タイそのまんま」みたいなお店を始めたり、タイ人の料理人に来てもらって本格派タイ料理を始めたりって感じになりました。
実はアメリカの音楽界でも、サルサシーンが本格的になったり、ブラジルからのボサノヴァの後、ミルトン・ナシメントやジャヴァンが受け入れられたりしました。
やっぱり「より現地風、本物風がいい」っていうのって自然な流れだと思うんです。
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さて、その後の気になる現象がありまして、最近また、「あえて日本人の解釈をいれる」っていうのが流行りだしたなあと気づきまして。
例えば先日、あるすごく美味しいタイ料理店に行ったんですね。そこ日本人が料理を作ってライブとかもやっていて、さらに料理がすごく丁寧につくられていたんです。
でも、「パクチー・ポテトサラダ」っていうメニューがあったんですね。
もちろんそれ、本物のタイ料理じゃないですよね。日本人が今の感覚で思いついた「なんちゃってタイ料理」ですよね。
たぶん、また「新しい段階」に入ってるんだなあって気がつきました。
カリフォルニア巻きと同じですよね。お寿司のことをちゃんと理解した後で、「アメリカ人なりの感覚でお寿司を再解釈して」カリフォルニア巻きを考案したんですよね。
それと同じで、日本人の感覚で「タイ料理」をちゃんと理解した後で再解釈が始まっているんだと思いました。
※
80年代のあの無国籍料理ではなく、すべてを理解した上で、日本人の感覚で新しく解釈した「タイ料理」とか「ベトナム料理」とか「韓国料理」とか、あるいはもっと広くて「東アジア料理」とかがこれからたくさん出てくるんでしょうね。
もうあったらすいません、なのですが、日本人が再解釈した「東アジア料理レストラン」、ワインも日本酒も紹興酒もお茶もあるお店、行ってみたいと思います。
お酒やバーについての僕の本です。『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか?』 https://goo.gl/QGdp48
bar bossaに行ってみたいと思ってくれている方に「bar bossaってこんなお店です」という文章を書きました。
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