医師国家試験 神経領域の解説E-F

はい、では続けていきます。
EFは問題のボリュームが少なかったので、ちょっとやる気が低下していました(言い訳)

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〇a
脳性麻痺とは、(定義がややブレる表記も見られますが)生後4週間までに生じた脳への何らかの障害によって(例えば感染症であったり物理的損傷であったり)、運動機能が障害されることを指します。上位運動ニューロン障害なので、痙性麻痺になります。

他の選択肢はすべて筋緊張低下・腱反射低下がおきます。

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神経の領域ではないのですが、「意識を失った」というと「脳の科!」というイメージがつきがちなので一緒に解説。

Adams-Stokes症候群は、不整脈により心臓から血の拍出が十分にされないことで脳への血流が一気に低下して意識を失う発作。血流の問題なので、倒れれば心臓と脳が同じ高さになって血の巡りは改善するし、自然に不整脈が治ったりすれば脳への血流も再開するので、短時間の意識消失で済みます。

×a
これは神経調節性失神の中の、状況性失神の中の、排尿後失神と呼ばれる現象。排尿によって迷走神経という神経が強く活動することによって血圧低下や心拍数低下が起きて脳への血流が下がります。男性の場合は立位であることも失神のメカニズムに関与します。

〇b
Adams-Stokes症候群は急な不整脈で生じるので、前兆はありません。

×c
これはてんかんなどを疑うサイン。てんかん発作は部分発作の全般化、という現象で脳の一部が異常な電気活動を初めて全体に広がって意識を失い、そこから覚めたときに原因となった部分(焦点といいます)が異常活動をし過ぎて一時的な機能障害に陥ることで麻痺が起きたります。これをTodd麻痺と言います。

×d
てんかんを疑うサイン。全身がぐーっとつっぱるので、口の中を嚙んだりします。Adams-Stokes症候群ではむしろ脱力。(痙攣様の動きが出ることもありえるのですけど)

×e
cと似たような理由で、てんかん発作後ぼんやりしていることがあります。
Adams-Stokes症候群では血流が再開すれば基本的にすっきり戻ります。

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手根管症候群(CTS)は、手根管といって、正中神経が通るトンネルが何らかの理由によって狭くなり、神経を圧迫してしびれが起こる病気。

×a 
てんかんやクロイツフェルト・ヤコブ病などを診断できます。

×b
筋力低下が神経疾患なのか、筋疾患なのか、そしてどの部分が障害されている科を診断するのに有用な検査。現場ではALS、筋ジストロフィ含むミオパチーの検査などに有用。手根管症候群でも、正中神経領域の筋力低下が生じていれば診断は可能だが、多くはそこまで運動機能が障害されておらず、感覚障害だけのことも多いので、やってもいいけど優先順位は低いです。

×c
全身の炎症等が関わる末梢神経疾患であれば脳脊髄液を採る意義はありますが、CTSは局所の障害なので、脳脊髄液に異常所見は出ません。

〇d
運動神経・感覚神経両者の機能を測ることができます。
手首をまたいだ部分で神経の伝導速度が著しく落ちている場合にCTSを考えます。

×e
これは重症筋無力症やLEMSといった神経筋接合部疾患の検査。

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小児の問題ですが、痙攣が15分も続いているので、痙攣重積発作という状態です。チアノーゼがあり、痙攣に伴い呼吸障害が起きてしまっています。

気道・呼吸・循環の改善は救急の基本なので〇a,b,c
痙攣重積状態ではとにかくジアゼパムなどの抗痙攣薬を投与しなければ、不可逆的な脳障害につながってしまいます。よって〇d。抗痙攣薬投与によって、筋の異常緊張が改善して気道確保・呼吸が改善する可能性もあります。逆に呼吸抑制が起きて自発呼吸が障害される可能性もあるので注意(まぁbで気道確保を選んでますし、並行することが大事)
eが×ですね。

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×a
飲酒は、寝入りは良くなるかもしれませんが睡眠の質を低下させます。
特に中途覚醒が起きている人には逆効果。

×b
安易な睡眠薬増量は良くないですね

〇c
概日リズム形成は睡眠改善の基本です。朝に日光を浴び、夜には光を避ける、といった対応が人間の生理的な睡眠リズム形成のために重要。

×d
昼寝が作業効率改善とかに好影響…みたいな話を聞いたことがあるかもしれませんが、高齢者では生理的な睡眠時間は短くなりますし、日中の能率低下が響いて睡眠障害を起こしているわけではないので、昼寝ることにより夜眠れなくなる悪影響の方が懸念されます。

×e
カフェイン摂取は覚醒に働いてしまいますので、不眠なら特に夕方以降は避けた方が良いですね。

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〇e
ブラウン・セカール症候群の問題ですね。
乳頭レベル→Th4の右側のみに離断が生じています。
左側の錐体路は生きていますので、×b,c
腹壁反射は錐体路障害か、おおまかに上腹部T6-9,中腹部T9-11,下腹部T11-L1の反射弓障害で起きます。いずれにせよ左は生きているので×a
感覚は、表在覚がすぐ交差するのに対して振動覚など深部覚は延髄で交差します。
右下肢の振動覚はそのまま左側を上行して延髄で交差して左側の感覚野で感知されるので、×d。
左の臍レベル(Th10)の表在覚は、交差して右側に移り、上行していき、右Th4の障害部位にぶち当たるので脳まで届かず、〇eが正解となります。

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下肢の痛みを伴い、自転車のようなかがむ姿勢だと楽、というエピソード。
レントゲンでは第4腰椎(L4)がL5に対して前方に辷(すべ)っています。
動脈蝕知が良好でABI正常なので、末梢動脈の閉塞による虚血の痛みは否定的で、いわゆる坐骨神経痛というやつで、神経根の圧迫による痛みを証明する必要がありますので〇c。両下腿後外側と言っているので、L5かS1の神経根障害なのでしょう。これを確認します。

ということでE、Fは他の問題に比べてさらっとした感じでした。
ナントカ徴候をひたすら覚えるような昔の試験と違って、患者さんの容態に即して考える問題が増えているように思います。

あと勝手な想像ですけど、医学生にも神経が苦手な人(Neurophobia)がいるのは世界共通の問題なのだそうでして(僕も学生時代は超苦手で嫌いでした)ナントカ徴候をひたすら覚える、みたいな「楽しくない勉強」にならないような工夫を、問題作成委員になった先生も考えてるのかななんて勝手に想像したりしています。

はい、ということで受験生の皆さんお疲れさまでした。

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