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難破船.my77

老練な船乗りが
息子ほどの しかし
すでにベテランの船乗りと
孤立無援で
使い古された船を走らせた。

互いに尊敬し合って
老船長は青年を教え導いてきた。
船は順調に進んだ。
来る日も来る日も
続く海原を進んでいった。

嵐がやって来た。
次第につのる雨風
そして高まる波に
あらがう船は疲れ果て
とうとうエンジンが
止まってしまった。

それまで 波を切っていた船首が
ぐるりと横を向き
舷側を越えて波がかぶさる。
窓は砕かれ
海水がなだれ込む。
もはやこれまで、
二人は船を捨て
荒ぶる波に
ボートを浮かべた。

無情にも
なだれ落ちる波に
青年がさらわれた。
ひとり老人だけが
ボートに残された。
落胆し、嘆いていては
このボートも転覆してしまう。
老人は舳先を波に向ける。

何度も、何度も
波に打ち据えられながら
ボートは立ち向かっていく。
何度も、何度も…
老人はただ
ボートを波に立ち向かわせること
それだけを思った。

疲れ果て、眠りから覚めた老人は
まだ荒れてはいるけれど
嵐が遠ざかって行くのを感じた。
青年は、どうなっただろう。
何かにつかまって、漂っているかも知れない。
それは想像ではなく
祈りだった。

どんなに祈ろうとも
思いが届くわけではない。
届いたとして青年は
受け取ることができるのだろうか。

何も分からない。
何も伝わらない。

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