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三題噺『バレンタイン・ヘアマニキュア・ひざ掛け』

『暖もなく ひざ掛けひとつ 寒に耐え チョコと微笑む 髪染めし君』

 よーっしゃ、気合入ってきたぁ!
 今年こそは遂げるぞぉ。秘めて秘めて秘め続けた想い、もう爆発寸前なんだから!

 あたしは、そんなことを何度も何度も、頭の中で繰り返し叫んでいた。もちろん声には出してないけど。

 恋する乙女に神様がくれたチャンス。年に一度、世界の中心で愛を叫ぼうが吼えようが許されちゃう日。その日のために努力してきたのよ。

 ……ひとり寂しいジングルベルを聴いた夜からね。

 可愛くなってやるんだ。ぜったい、振り向かせてやるんだ。女としてのレベルを上げてやる。

 ダイエットもがんばった。うん、がんばった。
 ……結果はともかくとして。

 おしゃれもがんばった。髪の色も変えてみた。
 ……似合うかどうかは別として。

 大好きなチョコも我慢した。これだけはホント。二ヶ月以上、ひとかけらも食べてない。ポッキーはチョコじゃないよね? でも、それだって一箱を一週間もたせたんだから。

 まずはアイテムを入手しなくちゃ。あたしはコンビニに行ってチョコの棚を見回した。ああ、興奮してぐるぐるする。

 ダメよダメダメ。あたしの勇者は、こんなスライムじゃ倒せないの! そんなことをつぶやきつつ、店を飛び出した。

 次に駅前のケーキ屋に行ってみた。生チョコ。いい響きだわ。そこはかとなくエロイ。まるでレンガのように並んでて。店内の匂いもすてき。くらくらしそう。

 でもダメ! あたしの勇者は、こんなゴーレムじゃ勝てない! そう思って、ここも飛び出した。もしかしたら思っただけじゃなく、声に出していたかもしれない。ドアを出るときにみんなが見てたから。

 それでデパチカに行ってみた。うおぉぉぉ! ここならいいわ。コンビニが村の道具屋なら、ここは町の武器屋ねって叫んじゃった。うん、でもいいの。気にしてる場合じゃない。

 ショーケースのガラスに顔を付けそうな勢いで品定めをした。もしかしたら付いていたかも。だってメガネ忘れちゃったし、店員があわててガラスを拭いてたから。

 それでようやく見つけたの。あたしにとっての最強の剣! 一個、五百円のチョコが四つ入ってる。そのどれもが、いつ自爆の呪文をかけてくるかわからないような形で並んでる。これは攻撃力高そうだわ。

 これで準備はできた。後は待ち構えて、捕まえて、手にした爆弾岩を投げつけてやるんだ!

 街の公園で彼を待ち構えた。
 興奮しすぎていて、勇者を狙うモンスターみたいになってたけど、ベンチに座って少し落ち着いた。
 あの、あのって、なんだかあのばっかり言ってたみたいだけど、あふれそうな想いをなんとか伝えられた。
 そうしたら、彼が上着をひざにかけてくれた。寒いからって。うれしくって、あたしが自爆しそう。
 渡したチョコを彼は食べてくれた。四つは多いからって、半分を私にくれた。ああ、おいしい。
 そうしたら、また興奮してきた。もう結婚したい。すぐしたい。式は和式? それとも洋式? チャイナスタイルも斬新だわ。

 頭がくらくらして、涙があふれてきた。やだ、鼻水も出そう。ぐっすん。
 彼がやさしくティッシュを差し出してくれた。でも、なんでティッシュ?

「出てるよ、鼻血」