クラウドファンディング考

「クラウドファンディング」は「発達した情報基盤を基礎として不特定多数から小口の資金を集める手法」と定義できると思う。

資金を集める既存の枠組みとして「出資」や「寄付」があるわけだが、それらにハマりづらい案件、例えば大手が手を出しづらいニッチな商品開発とか、収益性は低いが公益性のあるプロジェクトの推進などにおける資金調達に合致する手法として受け入れられ、発展途上にあるように見える。

スポーツ競技者が活動資金調達のために活用する、というのもよく見るパターンで、この数シーズン、カーリング競技でかなり実施されている印象がある。
現状、多くのセミプロカーラーは大口の資金とトレードする市場に載れず、市場価値に乏しく、他競技との競争において厳しい情勢にあるのだろう。

先に述べた公益性などとの合致について、若干当てはまらない点はあるかもしれないが、目的があって資金が必要という個人(団体)と、その目的に賛同し資金を提供したいという個人が存在しているということがクラウドファンディングの必要条件なのだろう。

それにしても、そのような二者を(観念的には)直接に結びつけるという事は、情報基盤の高度な発達なくしてはありえない。だからそういう意味でクラウドファンディングはきわめて21世紀的な手法といえると思う。

ほとんどのクラウドファンディングは既存の商業プラットフォーム上で行われている。今は中規模のプラットフォームがやや乱立している状況にみえるが、そのうち寡占化が進んでアマゾンばりに強力な仲介者が現れ、きわめて強い影響力を及ぼす可能性がありそうだ。(悪口ではないです)

調べてみると、現状、一般的なプロジェクトでは手数料に10-20%、返礼そのほか事務等に10%、税で10-20%ほどを持っていかれて(※法人の場合)、集めた額の55-70%程度を「真水」として活用できる、という枠組みだと思われた。(違ってたらすみません)

仮に100万円のファンドを得れば60万円程度が手元に残り、その程度の金額の活動の上乗せが実現する。仮に強化指定チームであれば手元額の約3倍の180万円程度、強化活動の上乗せが可能になるという計算になるのではないか。

※強化指定チーム「3倍ブースト」スキームについては以前の投稿を参照のこと。

形式のみに着目すれば、ふるさと納税制度に似たところがある。ふるさと納税に場合はタテマエはともかくとして、税控除と返礼品の対価が要と見えるが、この様なクラファンの場合には、ほぼ寄付控除の対象外で、返礼品の(金銭的)対価も知れているから、プロジェクトへの賛同の要素が強いのではないか。

セミプロ層カーラーの標的のひとつである「日本カーリング選手権のシード権」の獲得にあたっては、World Curling Team Ranking Points(以下「チームポイント」)で、基準日換算50-60ポイント程度をめぐる争いが(今季は)繰り広げられると予想している。

このチームポイント、1ポイント得るのにざっくり10-20万円程度の活動費がかかる。(※竹田ざっくり係数です)
これはもちろん、金でポイントを買っている!というディスりではない。どうやったって結果としてそれくらいの経費がかかっちゃいますよ、という現実を述べている。

生計維持費などを無視した単純活動費ベースで話をしている点にご注意いただきたいのだが、競技能力が伴わなければ何百万円費用をかけようとも1ポイントも得られないのが当然であるように、先立つ資金がなければ1ポイントの成果も得られない、というのもまた当然なのである。

したがって、現下の枠組みにおいてで競争を志向する場合には、各チームは少なくとも350-700万円/年程度(約1.5シーズンにつき最低500-1000万円程度の需要を1シーズン換算した最低ライン。詳細の説明は割愛。)の活動費を確保する「力」が必要であると見積もれる。

この「力」の難しいところは、個々の努力や氷上・陸上でのトレーニングによって向上させることはできないという点である。アピール力や組織力が必要なのだ。

需要額は今後競争に激化に伴って膨らんでいく可能性が高い。活動費の多寡に関しては、競技者側、資金提供者側の両要素があるが、両者にどれくらいの潜在的な許容度があるか?すなわち「どこまでゼニ出せるんか?」に関しては研究対象だと思うが、門外漢の私にはちょっと予想できない。

一方で、カーリング競技におけるセミプロ層は、競技人口「2千人」規模のマイナー競技としては、近年、ややアンバランスに拡大しているように見受けられ、一種の「バブル」を形成している可能性がある。

しかし、例えそうであっても、現在NF(JCA)が設定している競争環境においては、需要額を調達できなかったチームはスラートラインに立たせてもらえず、「脱落」していく可能性が高いから皆必死だろう。

今後、カーリング競技(者)に対する資金提供力の許容度(個人・法人スポンサー市場の大きさと言い換えてもよい)が、様々な働きかけによって拡大していけばセミプロ層はますます数や力を増し、いよいよ繁栄してゆくであろうが…
「それ」は確実に有限である。いずれ限界に達するだろう。

クラウドファンディングは市場開拓に一定効果するであろうがしかし、市場拡大に限界を迎えたり、または「バブル」がはじければ、期待した資金獲得~成果達成循環は得られず、セミプロ層は離合集散による少数寡占状態となるか、全体が衰退する、という帰結もあり得そうだ。(※かなり長期的な予想です)

質的な話をすれば、到達目標を「五輪出場」とか「ナショナルチームとしての活躍」というように「しか」定義できない場合には限界が近づく。目標自体がボトルネックとなる事が明らかだし、いかにセミプロ層が量的・質的厚みを増したとしても、「その椅子」は各カテゴリひとつずつしかないのだから。

私としてはカーリング競技とクラウドファンディング、資金調達、その進捗や行先に引き続き関心をもって注視していきたいが、どのような資金獲得手法を採用するとしても「カーリング競技の価値とは何か?」という根源的な問いがそこにある、ということはいえるのではないか。

(2023年7月20日に投稿)

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