永遠の国と、師弟の旅路

「なぁ師匠? あんたずっとこの国で待っているが、そんなに会いたいなら迎えに行ったらいいだろうに」
「会いたいだけならいいのだけれど。もう私にも、会いたいから待っているのか、ここへ来て欲しくないから見張っているのか……思い出せないくらいに時間が経ってしまったんですよ」

俺よりずっと小さな背の師匠は言う。
つまはじきにされた俺を拾って育て、生きる術や目的を与えてくれた師匠は、そいつの話になると途端に優柔不断になる。

「なら顔だけでも見てきたらいい。踏ん切りもつくだろう」
「それが生きているのか、死んでいるのか、産まれているのかすら私にはわかりません。遠いここからでは知る術がないのです」
「なら城に行けばいい。望む場所に飛ばしてくれる遠目の城があるだろう」
「城に行ってはいけないと、あなたが幼い頃から口を酸っぱくして教えたはずですよ。忘れましたか」
「覚えてるに決まってる! ただあんたが、いつまでも遠くを眺める癖をやめないから提案しているんだ。あの城なら、相手が生きてさえいれば願いを叶えてくれる。そうだろう?」
「……たしかにそういった力を持つ場所です」
「なら行こうぜ。俺も興味があるんだ、あんたがずっと待ってる奴にさ。なあ、そいつは……女か?」
「死ぬ前は男でしたよ」
「男かよ……でも生まれ変わったなら、女になっていてもおかしくはないよな?」
「その可能性はあります。人間に生まれるように願いはしましたけど、性別までは……」
「よし行こう、今から行こう。会えばどんな人間になったかわかるだろう。どうせのうのうと生きて、しょうもない奴になってるさ」
「彼は優しい人でしたよ。真っ直ぐすぎるのです。あなたは捻くれてしまいましたが……どこで育て方を間違えたのでしょうね」
「師匠は腰が重いたんじゃないか? いくら永遠に時間があるからって、ゆっくりしすぎだ。周りの奴らの気性が移りでもしたか」
「いいでしょう。あなたの口の悪さとその気の短さを道中叩き直してあげます」
「そうこなくっちゃあな。ほら、これがあんたの着ていた服だろう。白い布の、薄っぺらい服も持って行け。向こうに行けたら着るんだろう」
「そうですね、持っていきましょう。もしあちら側に行けたとしても、あなたはこちらに残るんですよ」
「それは聞けねぇな。俺も行って、そいつの顔を拝んでやるさ。あんたが願いごとをあげちまったその男の顔をな」
「気を抜いてはいけませんよ。城に入れば死ぬかもしれないということを忘れないように」
「……あんたと旅ができるなら、俺はどこにだってついて行ってやるよ」




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