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#90 地球の歩きかた

 足が捻くれている。
 20代なかば、することもなかったアタクシは急に遠出に開眼する。なにもすることがないなりに健康維持に、もしくは体重を減らすくらいのことはしたらいいのではないか、と。そのふとした思いつきが20年近く続いて「いかに実りのない、不毛な散歩をするか」というのが題目のようになっている。楽しければ、なにか見つかればいいが、見つからなければ見つからないで、その分幸運が溜まるのだ、と脳内で処理している。
 歩いているときのほうがよく脳が機能している、というのは実感としてもそうだし、さがせばなんらかのエビデンスも出てくるであろう。視線の定まらないままのそのそ歩いているときには、だいたい頭のほうが抱えている問題の筋道をつけるのにちょうどよかったりする。

 で、その結果、足が捻くれた。
 肥満児の苦悩はズボンを殺すことにある。ジーンズを履けば履くほど股布に強い摩擦がかかって穴が開く。暖かくなればすぐに汗疹になって痒くなるし、蒸れて掻きむしれば傷となり、ともすれば膿む。
 中学生、ともすれば小学生の時から「太っているからズボンを破壊する」というところは親に申しわけなく、股以外は至って正常なズボンに申しわけなく、股布が擦れないようにO脚気味に歩く。本人必死の抵抗であるが、これが10年、20年も続くとどうなるか、体重の負担のかかったふくらはぎだけが妙に発達し、外腿が張り、内腿がぐっと弛む。実にアンバランスな負担の掛かった足が出来上がる。結果として足の長さが数センチずれ、まっすぐ歩いているつもりでも頭が上下する。

 さて、自分で飯を作るようになって10年、いろいろの軽量化をはかろうという気運があったが、とうとう軽量化に向かう道筋を発見した。つまりァ「夜に炭水化物を取らない」てェ話で、昼やカップ焼きそばでもライスカレーでも好きに喰ろうておる。夜は焼酎と、バーリアルと、そのアテに野菜だ、肉だ、気合だ……と摘むことでずいぶん体が軽くなってきた。

 となると、次は「弛んでいるところをなんとかしよう」てんで、腹を引っ込めて歩いた。癖になってしまえばこっちのもんで、ずいぶん腹も引っ込……んではいないが、弛まなくなってきた。いけると思った。で、とうとう、内腿だ。これも関係各所調べ上げると「締めようと思っている筋肉を使っていると判るような動きをしろ」とある。この場合は内ももの筋肉。いままでは股布を気にするていで足の裏の外側で歩いていたのが、足の親指から踵の内側のラインで歩くと、急にピリピリと揉まれているような心地さえする。おお、効いている、効いている、そのまま1万歩程歩いてみたが、要はアレだ、山道を往く要領で平場も歩いちまおう、という話だ。脛でなくて腿で体重を受ける。地球の歩きかたとしてはこれで正しいのかは皆目見当がつかないが、気持ちいいのだからきっと健康にいいに違いない。

……と、どうなるのかなぁ。いまだに「正しい歩きかた」というのはなんだろうなァと思っている。いろんなサイトも経巡り歩いてみたけど、言語化するのが難しいジャンルなんだろうというのはわかった。
 また何か肉体に変化が生じたらご報告申しあげます。

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