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非正規職員なんてならんでいい。

最近は非正規雇用だった20代の3年間よりお金のことを考えている。
ただ、非正規時代は給料日から次の給料日までをどうサバイブするかしか考えられなかったが、いまは将来に向けてリスクを考慮しつつ前向きに資産について検討できている。まだまだよちよち歩きレベルの知識しかないけれど。高校卒業までに株式のことや確定申告について必修で教えた方がいいと思う(いまどきは教えてもらえるのかな?)。

私の所属する業界は、専門職は若いうちは非正規で頑張って、タイミングがあったところで正規採用の試験を受けて正規職員になるというルートがわりと一般的になっている。むしろそれを奨励する人もいたので驚いた。私の大学院時代の同期は、35歳を過ぎても非正規・有期雇用で働かなければならない可能性を考えて方針転換し、修士入学直後に専門職を目指すことをやめた。

正規採用の試験というのは非正規で雇用されている職場での正規登用ではなく、まったく別の同業他社に移るというパターンが多い。「キャリアアップ」という言葉は、同一の職場内で役職が上がることではなく、例えば小規模な市立館から国立へ移るとか、自分の専門性とより合致する職場への転籍?とか、職を辞めて大学の先生になることなどを指して使われる。
もちろん最初から自分の専門が活かせる職場に正規職員で働けるにこしたことはないのだが、どこかで募集がでると採用枠ひとりのところに30~50人くらいは試験を受けにくる。どんなに優秀でも(既に採用されることが決まっている、つまりコネでもない限りは)ずっと正規採用されないまま働き続けたり、色々な職場を転々とする人もめずらしくない。

私も、すきなことを出来るなら立場がアルバイトでも、給料が安くても別にいいやと思って非正規雇用からこの業界に入った。わりと大変だった。

あと私が入社した当時、組織の上長たちが総入れ替えになった。この人たちが完全にブラックな思想の持主だった。のちにパワハラや職場内不倫が問題になりこの人たちは一掃されるのだが、どうやら半数以上の職員を非正規で雇用しながら、自分たちには役員報酬をたっぷり上乗せしていたらしい。

月給手取り13万5千円。実家暮らしならまあまあだけど、私は賃貸暮らし。家賃補助なし。昇給なし。2年目からは住民税がかかって、手取りがさらに減った。いくら田舎とはいえきついことはきつかった。
学会の年会費1万円が非常に重い。仕事を続けるには勉強や研究の手を止めてはいけないけれど、必要な本を買うお金がない。採用試験を受けに行く交通費が出せない。デートだの出会いの場に出かける予算もないので結婚なんて到底考えられない(そもそも服や化粧品がものすごく高額に感じられる)。ちょっと風邪をひいたくらいなら放置。
正直親に頼る場面も多々あった。就職したはずなのにまだ親の助けを借りなければならないのが情けなくて仕方なかった。兄はすごく心配していたと思う。現在は士業の兄だが、労働法の入門書を教えてくれ、労働契約の書類はもちろんのこと、採用試験の募集要項もとりあえずずっと持っておけと言っていた。

結局私は、非正規で入社した職場で3年働き、正規採用のための試験を受けて、4年目からは正規職員として働き始めた。業界的にはめずらしいパターンだと思われるのがかなしい。あなたが必要だ、長く働いてほしいといいつつも、非正規職員のまま雇い続けるところの方が多い。あるいは、勤務態度に何の問題もなく職場として必要な非正規職員を正規にせず、新卒採用信仰からなのかまったく新しいひとを正規で採用したり。

人を雇うのは金がかかる。人材を安く雇えたらそれに越したことはない。
業界的にも若いうちは非正規ででも経験を積めという人はいるが、実態はいつか正規になって長く働けるようになる保証なんて誰もしてくれないし、非正規はずっと非正規のままとなる例はよくある。近年さらにひどくなっている。業界全体として高学歴者の比率が高く実家の財力が太いんだろうなと察せられる方もわりといるのだが、「若いうちは非正規ででも経験を積め」は結局、毎月ぎりぎりだろうと健康な身体とお金があるからできることなのだろうと思う。

私が職場に残ったのは、ほかでの採用試験に合格できなかったというのももちろんあるけど、私の立場を理解して、同情して、勤務態度を認めて、どうにかしようとしてくれた人たちがいたからだった。ちなみに私はブラック上長たちの直属ではなく、働く場所も少し離れていたので直接的なパワハラは受けていない。けど直接に関わる機会の多かった人は、私と一緒に働いていた人を含めもれなく退職した。結果として、その後にやってきた人たちに私は助けてもらえた。仕事はすきだしやりたいことを手放したくなかったから、この人たちに助けてもらえて本当に運が良かった。自分の実力があるからとか、優秀だからとかではない。ただただ運が良かった。

あと、兄のアドバイスも活きた。私が採用試験を受けた時の募集要項には「正規登用の可能性あり」の文言があった。私はそれをパワハラでない新たな上司に見せて、この条件だから入社した、いまのままでは長く働きたくても働けないということを伝えていた。それを真面目に受け止めていただいて、正規登用試験を受けさせてもらえることになった。

自分より若い人が先に正規採用されたり、学生時代の知り合いが成果をあげているのを見た時、自分は非正規だから劣っている、努力が足りないとは思ってしまいがちだし、自分も考えた。もし自分が受けた正規登用試験が外部からの受験者を受け付ける公募だったら、私は今の職場に残れていなかったかもしれない。それくらい、この仕事がしたいと思っていて、かつ私より優秀な人はごまんといる。それでも道を諦めなければならない人もたくさんいるのだから、本当に運やタイミングでしかない。

正規職員となってからはじめて給与明細をもらったとき、やっている仕事の内容は先月までと何ら変わりないのに手取りが5万ほど増えていた。家賃の補助ももらえるようになった。安心や嬉しさより、やるせなさが勝った。
運による恩恵を受けたことと、それによるうしろめたさはずっと消えない。

いまの私が後輩たちに言えるのは「非正規職員での経験なんて積まんでいい」しかない。若いうちの苦労は買ってでもしろなんてとんでもない。せずに済む苦労は極力しなくていい。
直接かかわりのある後輩たちは優秀で、新卒で正規採用の試験にきっちり合格し、非正規経験を積まずに済んでいる人たちがほとんどなので私が心配することなんて何もないのだが。しかし業界全体の問題として今後さらに深刻化しそうだし、「正規vs非正規」のような分断が起きるのもいやなので、元非正規雇用職員としてはずっと考えていようと思う。



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