ポッと出で100万本売った謎の新作「ユニコーンオーバーロード」は何が凄かったのか

謎の超新星「ユニコーンオーバーロード」

 近時、ヒットを飛ばすゲームといえば所謂老舗の名作シリーズの一連の続編またはそれに類する作品が殆どであり、完全新作(IP)というのは中々聞かれなくなってきた。これはゲーム機の高性能化等により開発期間が長期化、コストが高騰したことから開発側も売れるか未知数の新作に賭けるリスクが取れなくなったこともあるし、連作により磨きこまれたシリーズ作品に単発の新規IPではゲームそのものの内容が追い付かない、等の事情もあろう。いずれにせよ、新作は出ないか出せても小規模なチャレンジタイトルに留まり、数万本を売って話題になることもなく市場から静かに消えていく…ということが大半だった様に思う。

 その様な中、2024年4月、謎の完全新作シミュレーションが発売された。その名も「ユニコーンオーバーロード

全く聞いたこともない謎の新作。そのパッケージにはモブキャラと見まごう様などこかで見たような30年前頃に流行った様な剣と魔法のファンタジー世界が描かれ、タイトルから内容は想像もできない。これもまた3万本くらい売れて、レビューサイトで65点みたいなスコアが付き、話題になることもなく消えていく…かと思われたその半年後、24年9月、公式から衝撃のニュースが発表される。なんと、同タイトルの世界セールスが100万本を超えたというのだ。一体何が凄かったのか。実際にプレイして確かめたので書いていきたい。(ゲーム内容の詳細はその辺に転がってるので、その解説というよりは凄かった部分のエッセンスに着眼していく

システム8割、愛2割

 で、結局は何なの?と問われて返すのであれば「システム8割・愛2割」ということになろうかと思う。キャラデザは冒頭の通りで、ゲーム画面は綺麗でよく動きはするものの所詮は2D。Gジェネの様なド派手な演出等も特になく表現自体は至って平凡。音楽も耳障りは良いがそれ以上でもない。ストーリーを一言でいえば「どこかで百回は聞いたような超王道で殆ど捻りのない剣と魔法のファンタジー」でしかない。要はその様な周辺要素というよりは大本のゲームプレイをひたすらに叩きあげたド根性タイプの名作、というのが率直な感想である。

本作のジャンルである「シミュレーションRPG」の歴史的な名作としてはファイナルファンタジータクティクス、ファイアーエムブレム等の名前が挙がる。盤面で戦うある意味でのボードゲームであって当然その出来栄えはルールと複雑さ、戦略性等で決まる所、本作について一言で言うならその面白をさ十年かけて突き詰めてきた作品、ということに尽きる。

とにかく早い

このゲームはとにかく早い。一回の戦闘は短い物だと5分で終わることもあるが、その中で回転するコマンドの回数は移動で10回、他のゲームだと選択式で実行されるコマンドが30回かそれ以上は回るだろうか。それが5分かからずに終わる。どういうことかと言えば、このゲームは対戦中そもそもコマンド入力を自分ですることが殆どできず各ユニットについて事前に組んだロジック(ex.自分の番が来た際に敵が3体残っていれば特定のスキルを使う)がオート実行される。演出は最初から早回しどころかスキップも可能で、それも合わせて圧倒的なスピードでの大量のコマンドを回す事を可能としている。それにより自軍のみで最大50ものユニットを同時に動かしても超短時間プレイが可能となっている。FFTで同じことをすれば恐らく一戦闘3時間を下回ることはできない。

そもそもシミュレーションRPGというジャンル自体、伝統的に時間泥棒とも言われプレイ時間が長大になりがちなジャンル。これはともすれば丸一日がゲームプレイに費やされた一昔前のゲーム体験ならいざ知らず、SNSや動画メディア他、「ゲーム」自体があらゆる娯楽の中の一ジャンルに押し込められて、一日数時間のプレイ時間がとられるか、という令和の世界線においては、全てのユニットの移動やコマンド対象選択を都度プレイヤーが指定し、一回の戦闘が長大になりがちなシミュレーションRPGというジャンルはどうしても時代にマッチしにくいということは否定し難い。

本作は端的に言えば最大5体ずつのユニットのスタックとFF12のガンビットの様なシステムを導入することで、そこを超高速で回し、単位時間当たりのゲームプレイ密度を最大限高めている。

複雑さと選択肢の多さ

前項の内容だけを聞くと「コマンド選択もできないオートの超大味な戦闘が高速で回るだけ?」という印象を持たれるかもしれないが、そこでとどまらなかったのが、本作が100万本を売るに至った理由である。本作は実質的に採りうる選択肢が極めて多い。FFTのシドの様な「最強のユニット」も存在しない一方で所謂「ナイト」「黒魔導士」の様なジョブに当たる「クラス」は70近く存在し、更に装備品でスキルを変更できものを5ユニットスタックして1チームを最大10チーム編成する為、取りうる選択肢は本当に無数にある。

しかも先述のガンビットの様な事前の作戦命令を各ユニットについてこれまでにない粒度の細かさで設定可能であり、発動条件を1つ追加するだけで10-0で負ける戦闘の結果が180度逆転することもあり、倍半分のレベル差の相手にも勝ててしまう事がある。このゲームは対戦そのものは5分で終わっても、その前の編成を考える為に編成画面で1時間コマンドリストとにらめっこをする、そういう事が好きなプレイヤーにとってはたまらない奥深さで同ジャンルにおける「戦略性」をこれまでになく叩き上げたのが本作であると言える。

この点を前項と合わせて一言でいえば凄く複雑で選択肢が多いものが超高速で回る、だから面白い。

2Dオープンワールド(一枚マップ)

本編が面白い理由を簡潔に述べると上記の様な事なのだが、個人的に面白かった要素がもう一つあり、このゲーム、一応オープンワールドなのだ(2Dだけど)。また最初気づかないのだが、よく見るとシナリオと戦闘はおろか、なんとミニゲームまで完全に一枚のマップの上で進行しており、それ以外は紙芝居の演出しかない。三国志Ⅸ等と同じ所謂一枚マップの作品である。そして、ストーリー・攻略順はなんとなくはあるものの、ほぼ最序盤からラスボスに挑戦できる他、本編以外のサブクエストが大量にあり、その攻略順序が実質自由である等のオープンワールド要素が準備されている点に特徴がある。

この点、オープンワールドというと膨大なデータ量の広大なマップを巡る大冒険…的な印象しかなかったが、なるほど2Dでも確かに自由だしこういうやり方もあるのか、というのは素直な感動であった。これの何が良いって、基本的に一本道ゲームが否定されがちな現代ゲームシーンにおいて実質自由というオープンワールド性を2D一枚マップで実現して見せたことである。なんだ10人(本作の開発スタッフ数)でもオープンワールドできるじゃん。こういう工夫で勝負に行くのは大好きだ。結果、非常にストレスの少ないゲームプレイの基盤が実現している。

愛(狂気)2割

以上、このゲームの素晴らしさは以上の通り8割くらいはシステム周りの良さなのだが、残り2割は冒頭に書いた通り「」である。具体的には何か。本作は所謂顔なしの汎用ユニット以外に自ら操作できるユニークユニットが恐らく70前後おり、その全てに結構な濃さでキャラ付がされている。これ、個別のデザインは正直モブか、というものが殆どだが、個別の導入やストーリー内での活躍がしっかり作られており、それ以外に親密度会話、という各キャラ間の個別の小話みたいなものが、凄い数準備されている。それにより何時の間にか70もいるキャラクターの1つ1つに段々と愛着を感じてしまう様な設計がされているのだ。

そして極めつけの愛、というか狂気がこのゲーム、シナリオ後半で指輪を渡して主人公のパートナーを一人決める。というシーン(DQ5でビアンカとフローラを選んだアレ)があるのだが、その選択肢が61準備されている。61人から結婚相手を一人選ばなければならない。選択肢からして狂気であるが、この辺はスカーレットやロザリンデといった超王道のヒロインは勿論のこと、クロエやリア等の正直チョイ役からほぼベルセルクのアーマリアや設定年齢88歳のヤーナ等、「え?」それも作ったの?という所まで全てオリジナルで作られている。(しかも一つ一つ結構凝っている)

そして極めつけが、なんとこの選択肢の約半数が男、であり、要は男にプロポーズ?できる。男から男にプロポーズするシーンが30個くらい個別にしっかり作り込んであるのだ。いや、私も古い人間だからドラクエ3リメイクで「ルックスA・B」とか言われると正直「は?」となって抵抗があった。しかし男から男へのプロポーズ?を30個真剣に作られるともうどうしようもない。これは愛だ。俺の負けだ。悪かった。お前の勝ちです。愛。

結論:買い

色んな意味で結構人を選ぶゲームではある。好きでない人は多分全然ハマらない。しかし名作であることは間違いない。冒頭の繰り返しになるが、2024年に10人のチームで作った低予算の新作が評判だけで100万本売ったのだ。そしてそれは公称10年にわたったという開発期間で実現したものである。この点、最初は疑ってかかったのだが、実際クリアして分かった。これは多分本当に10年かけている。良い物を作ろうというものづくりの粋、そして愛(狂気)があれば少人数だろうが低予算だろうが良い物はできる。感動しました。ここまで読んだ人はとりあえず買ってください(2出して欲しい)


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