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自らが見つける「楽しさ」(クイズバー「スアール」体験記)

1 入店前の憂鬱

クリスマスに加え、年末年始、さらには翌週の三連休まで強制的にシフトを組まれた僕は数日ほど気持ちがくすぶっていた。
こんな気分の時は何をするにも良い方向へと進まない。占いはそこそこ信じる方だが、いわゆる「悪い気運」と呼ぶものだろうか。

そんな折、SNSを通じ「クイズバー『スアール』へご一緒しませんか」とのお誘いがあり、興味半分、何より恐怖心半分の気持ちでお受けすることにした。

僕は40も半分過ぎたいい歳のおっさんだ。ゲームマーケットでは「ボードゲームにまつわるクイズの本」を出展のたびに頒布しているとはいえ、一般の競技クイズとなると、遠い昔に高校生クイズ出場に向けて勉強した以来だ。それ以外だと、最近になって「Quiz Knock」「QuizX」「まる芸ちゃん」などのバラエティに富んだ早押しクイズの動画を見始めるようになったくらいだ。

未熟なままの自分が参加し、常連さんの格好のサンドバッグになるかもしれない。そんな期待と不安が入り混じったまま、待ち合わせの時間にクイズバースアール秋葉原店へと向かう。ボードゲームがお好きな方なら、近隣に「コロコロ堂秋葉原店」「大喜利カフェ「ボケルバ」」のある一帯といえばわかるだろうか。

緊張のあまり、ビル近くのコンビニで煽るようにコーヒーを飲む僕。

2 店内へ

店内ビル入口

開店時間の18時過ぎにお店に到着。
「バー」と銘打つだけに、お酒の瓶が並ぶバーカウンター。その向こうでは、本日のMCを務めるDJコミュニティさんが元気な声で応対してくれた。

基本は名札の記名を自ら筆記するボードゲームカフェとは違い、こちらのクイズバー名札はお店の方が書く方式だ。これはボタンを押した際に司会者側が呼称するための確認も兼ねているのかな、と邪推した。
クイズの経歴やお店を知った理由など簡単な質問に受け答えし、3台の早押しボタンがセットされたテーブルへと案内された。
もう一人の店舗スタッフの方にコーヒーを注文し、クイズ開始までしばしお店を観察することにした。

広さを感じさせる店内は最大収容人数が20人以上と聞く。点数表示盤も兼ねた大きなモニターが3台あり、画面には個人の得点表示盤が掲示された。
夕方から参加の僕の場合、料金は後払いで、入店料とドリンク代を支払うことで、閉店時間までたっぷりクイズを堪能することができる。
ボタンの動作チェック。いつもクイズ動画で耳にする、心地のよいピンポンの音が店内に響く。

名札と早押しボタン

この日はお店が設ける「ピヨピヨデー」、初めて来店される方、クイズが初心者という方に向けられた比較的緩い雰囲気の日と聞いた。
そうかそれなら未熟な自分にもひょっとすると、と淡い期待を持ったが、実際はお店の常連さん、近日中に開催されるビギナーズカップの歴代優勝者、参加者などが出揃う形となった。もちろんボタンを押す速さは自分と格段の違いだ。

2.1 第1ラウンド「一問勝ち抜け」

18時30分を回った頃、司会者の自己紹介とともに「1問勝ち抜けクイズ」が始まる。ルールは1問正解でそのラウンドが勝ち抜け。最終的に全員が解答できるシステムだ。
誤答などのペナルティは無く、問題も比較的やさしめの問題が数多く出題された。緊張の中迎えた第一回戦では、人数が少なめだったこともあり、運よく一番先に答えることができた。

 注文したコーヒーを口にしながら、改めて観察を続ける。
 ピヨピヨデーということもあり、自分も含めた初心者が数名、友人に誘われて来店された方、遠方からはるばるこのお店に来店された方もいらっしゃった。女性の方も多く、やはり年齢の若い方の参加者が目立った。これも昨今人気のクイズ系YouTube配信が影響しているからだろうか。

首尾よく問題に正解できたこと、そして問題読みに加え、場の盛り上げや雰囲気作りも巧みな司会者のおかげで、このラウンドはあっという間に過ぎてしまった。司会者が一問一問丁寧に問題を読む様子は、毎度焦りがちな自分の醜態とは違った。今後は丁寧に進行するよう気をつけなくては。

2.2 第2ラウンド「1分クイズ」

10分ほどのインターバルを置き、次のラウンドは「1分クイズ」。
一個人のみに1分間にどんどんクイズが出題され、何問正解できるかで競われる。こちらも誤答のペナルティはなく、わからない問題はパスを宣言することもできる。問題の内容はくじ運にも左右されるが、最初のラウンドより1段階だけ難易度が上がった印象だった。
焦り症の自分はここで一問も答えることができず、5問、4問と解答する周りのプレイヤーから失笑されることを覚悟した。

問題を読むのはPCなどの収録音声ではなく、最初のラウンド同様に司会者が”肉声で”行う。スムーズで淀みない口調の司会者は、さながらカクテルのパフォーマンスが巧みなバーテンダーのようにも感じた。

ここで“悪い部分だけ切り取られること”を覚悟の上で、少し追記する。

早押しクイズは、ボタンを押して解答するまでに数秒(今回は5秒)ほどの猶予があり、慣れたプレイヤーになると問題文の途中でも「ここぞ!」という場面でボタンを押し、与えられた数秒の時間で脳内から解答を引き出す。それに慣れたプレイヤーが集うと、「問題→解答」が、まるで河川の激流を眺めているかのように一瞬で過ぎ去ってしまう。
僕がその速さであっけに取られているうちに、第2ラウンドは一才ボタンに触れることなく終わってしまった。
「今日はピヨピヨデーのはずでは?」と脳内ではてなマークが渦巻く僕だったが、何度もお店に通う常連の方々はその辺りの僕の気持ちも熟知されているようで、初心者だからと手を抜いたりしない反面、初心者だからと嘲笑したりする場面もなかった。

0問しか答えられなかったとはいえ、特段恥ずかしい、情けない、という気持ちが湧き上がらなかったのも、何より司会者の盛り上げ方、そしてそれを補う周りの常連の方の「仕方ないよね」という温かい対応だったからだ。

言われてみると、問題を読み上げる司会者のセリフにも「これは簡単な問題」「常識でわかる問題」といった言葉を耳にしなかった気がする。
「誰かの難しい問題が他の誰かには簡単な問題」
以前チラッと読んだ「みけねこドリル(早押しクイズの問題集)」のそんな言葉がフッと頭によぎった。

2.3 地雷クイズ

2度目のインターバルに入り、追加でコーヒーを注文する。20時前に始まった3ラウンド目は「地雷クイズ」だ。
最初に全員に対し「親を決めるためのクイズ」が出題され、次に正解者も含む全員に「多答問題」、答えが複数あるクイズ(例:日本の都道府県、山手線の駅名、など)が出題される。親は一つだけ正解を書き、他の参加者は地雷役にまわり「親が書きそうな解答」を書く。親の書いた答えと一致できたなら地雷成功、地雷成功者全員で点数を頭割りする。

基本はこのルールだったが、途中でポイントがランキング形式になったり、店員さんの解答と一緒だった場合はボーナス点が入る。問題自体も「冒頭の部分だけ聞くと誤答に誘導されるひっかけクイズ」が多く、先ほどとは趣が異なり、割とバラエティに寄せた構成だ。
個人的には、このラウンドのクイズが一番楽しかった。

また、この時間ともなると、参加者の数も15名ほどに増え、大会での入賞者も、もちろん初めて来店の参加者も入り混じる形となった。
お店の半数以上の席が埋まり、盛り上がりもここがまさに正念場の様相だった。

先程も少し触れたが、全体を通じ「上級者だからと重いハンデキャップなどを課す」といった安易な設定は無かった。
いわば「(僕の目線からすると)ベテラン参加者」と「クイズ初心者」が渾然一体となった状況だ。
それでも本ラウンドの「バラエティ寄りの」構成は、まったく解答権の回ってこなかった先程のラウンドと違い、全員に何かしらの役割が回ってくる。
その「傍観するだけではなく、何かの役割が与えられる」ことが楽しみに繋がったのかもしれない。解答できて親に回っても、解答できず地雷役に徹しても、そのどちらもが楽しかった。

帰宅時間が迫ったため、21時過ぎごろにお店を後にした。

帰り際

3. 回想(自ずから楽しむ)

ここから先は主に僕個人の今回学んだことを淡々と綴る。

帰りの電車の中で、今回の「常連」と「初心者」が入り混じる中、それでも(各自の楽しさの斤量はどうであれ)楽しさを一様に共有できる、その理由を脳内でぐるぐると考えた。
今回の体験を思い返せば、いわば趣味の草野球チームで侍ジャパンに挑むようなものだ。「接待プレー」があったところで、プロに一矢も報いることなくゲームは終了する。

それを踏まえても、今回のスアールでの体験は、自分の中で「楽しい」フォルダに振り分けられる思い出となった。
単純に早押しボタンに触れること自体も楽しかったが、その他に、解答できない中でも「楽しみ」がどこかしらに提示された空間が不思議だった。もちろん「まったく手出しできなかった自虐的な楽しさ」でも「刹那の速さでボタンを押すプレイヤーの神技を傍観できる楽しさ」でもなく、何だろう、どこに潜んでいたのだろう。
寝る前の布団の中で、ふと、あの店内の雰囲気を思い返した。


店長、ホールスタッフ、そして常連も初心者も、参加者全員で「盛り上げよう」と一体になったこと、それは先日のゲームマーケットやコミックマーケットでも体感した「来場者全員が参加者」の精神に似ているようにも思える。

アナログゲームのイベントであるゲームマーケットは、「みんなでたのしく」過ごす場でありたいと思っています。
「みんなでたのしく」過ごすには、「人を思いやる心」が必要です。
「みんなでたのしく」過ごせ、「人を思いやる心」を自然に育める、そういうイベントでありたいと願っています。

引用「ゲームマーケット公式ブログ「ゲームマーケットの概要」より
https://gamemarket.jp/about

コミケにおいては全員が参加者。「一般参加者(来場者)=お客様ではない」を念頭に置いておく必要があるのです。

引用元「コミックマーケットとは何か(コミックマーケット準備会2014年1月)(https://www.comiket.co.jp/info-a/WhatIsJpn201401.pdf)スライド40枚目

今回のクイズバーのスタッフ、司会者を含む全員が「参加者の立場で」「相手を思いやり」、いわば全員一体で作り上げようとするからこその楽しさだったのかな、の考えでストンと腑に落ちた。

今回のような場の提供を、単にイベンターからの受け身だけで挑んでは、おそらく自分の中で「楽しい」「楽しくない」の2択で選別することとなる。

設定された場の楽しさを提示された上で「自分の中から楽しみを引き出す」と書くと大袈裟に聞こえるかもしれない。下卑た言い方になるかもしれないが「お金を払った分以上に自分が楽しまなきゃ損だ!」という話だ。

もちろん、どちらかといえば「提供する側」に回ることの多い自分にとって、それら参加者が一様に楽しめるよう配慮するための努力、それがクイズ大会を目指す方であっても、とにかく早押しクイズに挑みたい方であろうとも、相手から楽しみの根源を引き出せるような、そんなイベント運営、創作、問題作成に挑まなくては、いやはや、これは難事業だぞ、と誓ううちに、とうとうと眠りについていた。

ボードゲームの名作「カタン」の生みの親、クラウス・トイバー氏のインタビュー記事を引用し、本項の締めの言葉としたい。

「結局のところ、最終的に誰が勝ったかはあまり重要ではない。最後に『皆でこの小さな世界を一緒に作り上げた』という達成感を共有する瞬間が、カタンにとって最も大切なステップだ。ゲームにとって終わり方はとても重要で『楽しかった、またすぐプレイしたい』と思えるものでなくてはいけない」

クラウス・トイバー(2021年12月31日 日経新聞インタビュー)

改めましてクイズバー「スアール」様、今回お誘い頂いたポポロン様、そして参加されましたすべての皆様に感謝申し上げます。(了)

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