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応援のチカラ 〜私のゲームマーケット2021秋奮戦記〜

(11/24、AM7:55、内容を推敲しました。中身に変化はありません)

1.準備中 

ゲームマーケットの前はいつも憂鬱だ。
「他の誰よりも頑張る!」そう意気込んだ2021年の秋は、イベントに向けた新刊の創作に熱を入れすぎるあまり、広報の正面にほとんど目を向けることができなかった。初出展から5年も経つというのに、相変わらず学習しない私。

「ゲームマーケット前の憂鬱」は今に始まった話ではない。
「そういう時期なのだ」と神様が導いているかのように、毎イベントの数週間前から不安と心配で体調を崩してしまう。
 大抵、当日を迎える瞬間にパッと目の前の霧が晴れ、テンションの上がったまま気がつけばイベントの日が過ぎ去る、このパターンは5年前に出展した当時から続くもので、もはや自分にとって恒例行事のようだとも言える。
 神の導きというよりむしろ、神様の思うがまま、もてあそばれているようにも受け取れるだろう。

 私は番次郎書店というサークルで、毎回「ボードゲームに関する本」を頒布している。具体的には、クイズが好きだからと制作したボードゲームにまつわるクイズの本、自分が読みたいからと練習を続けたボードゲーム4コマの本などだ。
 4コマにクイズに、と、そのネタとなる情報を仕入れるためには、常日頃から多方面にアンテナを向けなければならない。情報収集も兼ねた広報活動の一環で、数年前は遠方も含め各ボードゲームショップ・カフェにご挨拶に回ることも多かった。
 しかしながら、昨年から続く緊急事態宣言下もあり、大手を振って外を出歩くことすらままならず、ここしばらくは、ひたすら家に引きこもり、コツコツと問題を作る日々を送った。
 
 2021年に入り、ステイホームや在宅ワークといった、パソコンモニターと向かう時間が増えたからか、広報の面では特に、アバターなどを活用したVRシュピールや、人気YouTuberやVtuberが紹介する新作紹介動画などが活況を見せるようになった。広報の面でもオンラインが主流となったわけである。

 もちろんブログやTwitterのハッシュタグなど、従来の「SNSを活用した広報」も根強い人気を誇る。

 ここまでオンライン広報の場が整っていながら、ボードゲームのイベントで、ボードゲーム、サプライ品といったグッズを頒布しない私のようなサークルにとって「オンライン主体の広報活動」は大きな課題のまま残されていた。有り体に言うと、人気ポッドキャスターや人気ブロガーによる「ゲームマーケット直前!オススメ新作!」に名前や作品などが紹介されるはずもなく、相変わらず広報面で苦戦が続いた。
 ゲームマーケットがアナログゲームを主体とするイベントなのだから、注目される作品はボードゲームが中心であることは当然と言えば当然の話だ。

 がしかし、本当の本当に「万が一」の可能性を信じ、ついつい記事の中身を覗いてしまう。そして案の定自分のサークル名が無かったことに落胆し、しおしおと作業に戻る。
 オンラインの有無に限らずとも、ゲームマーケットに出展以来、そんなサイクルが延々と続いていた。

 そんな私のサークルではあったが、決して広報をないがしろにしたわけではない。
 ボードゲームの制限を加えた4コマだけは、直前まで連載を続けることにした。
 100や200の「イイネ」、「RT」なんて当たり前の、自分の他のボードゲーム4コマに比べ、30も「イイね」がつけば上出来の私の4コマなど広報と呼ぶにはあまりに非力であった。
 それでも今の自分にできる精一杯の広報活動だった。
 4コマの連載を続ける理由はもうひとつある。
 何よりも中のキャラクターに自分が励まされていたからだ。
 感染症の状況が明るい兆しを見せる昨今ではあるが、業務面や体調等の面でゲームマーケットの参加が叶わなかった方へ、そして、せっかく中のキャラクターが元気に動き回る姿に癒される、何を隠そう作者の自分自身に向けて、ひたすら連載を続けることにしたのである。
「たとえ自分が弱まろうとも、中のキャラクターを落ち込ませるわけはいかない!」
 そんな親心にも似た想いで、本来ならば準備に充てるべき午前中の時間を丸々4コマの連載に充てることに決めた。
 余談となるが、「4コマを目にされた方が笑顔になるように」との想いから、私の4コマはキャラクターのどこかに笑顔を描くよう努めている。


 1週間前の月曜に会場への荷物の搬送を済ませ、当日の動きを簡単にシミュレーションし、感染症禍を念頭に置きながら、体調だけは万全にしようと迎えた本番、11月20日、土曜日。
 
 今回開催されるゲームマーケット2021秋の大きな変更点として、開始時間の繰り上げが挙げられる。
 例年だと10時だった入場の時間が、1時間繰り上がり、午前11時に変更となった。閉幕は午後5時のため、実質、開催時間が1時間短縮された計算になる。
 
 私の住まいは東京都のお隣、神奈川県は横浜市、電車を乗り継げば東京ビッグサイト前の最寄駅「国際展示場駅」まで1時間弱で移動できる距離だ。
 そのため、特段早くに起きる必要もなかったわけだが、案の定というか、本番前日は目が冴えて眠れない。
 観念した私は、夜が白む時間に起き、日課のジョギングを軽めに済ませ、朝ごはんには腹持ちの良いお餅を3、4つ頬ばり、パンパンに詰まったトートバッグ二つにキャリーケースという重装備で、一路会場となる東京ビッグサイトへと向かった。

2.土曜日(一日目)

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 当日の天候はまさに秋晴れ。冴えるような朝の冷え込みが、日中の暖かさをうかがわせた。
 午前8時ごろという早い時間にもかかわらず、一般来場者の待機列はすでに長く形取られ、入口の要所要所に配置されたオレンジ色のハッピをまとった運営スタッフが、密にならないよう列の誘導を行なっていた。

 午後8時15分、待機列を抜けるように出展者の入場口となるゲートへ向かうと、すでに多くの制作者が、うずたかく積まれたダンボールを各々の台車に乗せ、ゲートの開場を今や遅しと待ち構えていた。
 顔見知りの方と偶然お会いできた私は、久しぶりの再会ににやけっぱなしの顔で、軽く近況などを報告して回った。
 natrium rampgamesのPRAさんは以前と変わらぬ笑顔を見せ、今回新作となる「蛇十字(スネーククロス)」に併せた販促品の「へび駒」を周りに配り歩いていた。
 途中で合流したアソビツクースのイチダイさん、いつものように大きな荷物を運ぶ木工製作のなつき屋さん、この日も周りから黄色い声を浴びる人気ボドチューバーの翔さん、一足先に会場入りしたハッピーゲームズのRYOさんは、SNSでも話題の名刺を配り歩く。声優の田邉安彦さんはコロコロ堂のエプロン姿で、いつもの物腰柔らかな笑顔を浮かべていた。
 若い方からベテランの方まで多くの出展者が揃い踏みし、さながら「制作サークル同窓会」と思しき雰囲気が漂った。

 一般出展者入場となる午前9時、検温ののちに出展確認カードを目の前のボックスに提出し、スタッフの誘導に従い会場の入口へ、皆が足早に指定されたブースへと向かう。

 9時5分、設営開始。

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 当「番次郎書店」は、一人で運営するブースのため、ポスタースタンド、テーブル設置、そして紙製の書棚を作成する人員も自分一人だ。加えて今回は衣装に着替える時間も考慮しなければならない。
 与えられた時間は2時間弱、途中から加勢に来てくれた「たまご」さんの力を借り、テキパキと手際よく設置してようやく時間内の完成となる。

 事前に何度か組み立てる練習を重ねていた私は、しばし無言で設営に没頭する。

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 約1時間ほどで外観だけは何とか完成。
 ここから土曜日に販売する作品の配分や小銭のチェックなど、こまごまとした準備に時間をさく。

 午前10時30分、開場30分前ともなると、ホール全体に制作者同士の活況する声が飛び交う。
 外部電源を持参した見目麗しい装飾のブース、コスプレ衣装をまとった女性が前に立つブース、長テーブルひとつの空間を立体的に活用し、広々とした空間を展開するブース、等々、一般来場者としてのんびり見て回れたらどれだけ楽しいかと毎度のことながら思う。
 対照的な、私。
 ごちゃごちゃしたブースに立つのは基本私ひとり、それも四十を超えたおっさんがひたすらクイズを読むという、華やかさどころか、遠巻きに見ても痛々しいブースである。はたして本番は大丈夫なのだろうか。

 気後れするまいと自分を奮い立たせ、午前11時、土曜日一般来場者が入場を開始する。

 会場の様子を説明する前に、本当に今更ではあるが、本執筆記事で断っておきたい事項がある。
 本記事はあくまで私の目線から感じた全体の様子や各種感染症対策、販売当日の反省点などを、私自身の所感を元に綴ったものである。
 翻って、私自身の具体的な売り上げの数や他サークルの情報、各種イベントの問題点なども含めた、いわゆる「ゲムマで売れる方法」といった話題には言及しない。その辺りを期待された読者には大変申し訳なく思いつつ、筆を進める。
 
 改めて当日の私の様子を説明する。
 今年ゲームマーケット春に出展した際、各種感染症対策を講じた私は、その際の対策からさらに発展させることにした。

<参考 note記事「感染症禍のイベントで私が学んだこと」>

https://note.com/banjiro_shoten/n/n24effe492c35

 ゲームマーケット春から改善した処置対策は主に二つ。

 一つ目が「商品の個舗装をやめ、販売品目は段ボールに小分けし、展示品にはブックカバーをかけ、適宜アルコール除菌をおこなった」こと。
 販売品目との差をつけ、購入された方が容易に「販売品」と判別できるようにすることが目的だ。

 もう一つが「常にフェイスガードを装着し、汗や唾液の飛散を防ぐこと」だ。
 用意したフェイスガードには額の部分にスポンジ生地のクッションが挟まっており、額から流れる汗を吸収してくれる。
 実際の感染症に対する効果はさておき、開催中フェイスガードを装着したまま、という状態は、慣れていないと大変息苦しく、行動が大きく阻害される。
 それでも作品の説明を行うにあたり、フェイスガードで顔を仕切られた方が、相手も多少は安心して聞くことができるだろう。また、たとえ会話が聞き取りづらくともマスクを外しての会話はご法度のため、春と同様に、通販サイトにて安値で購入した小型のマイクロフォンを用意した。

 さて、今回ゲームマーケット秋も、今年春と同様に、開始1時間は優先入場の時間である。

 大きく「コ」の字を横に倒した形の東京ビッグサイト西1,2ホールは、その先端部で1と2のホールに分かれる。中央付近が大きな特設ブースを展開する大規模企業ブースが主体だ。
 虫の知らせでは、今回秋の注目作となる「プエルトリコ日本語版」「タイガー&ドラゴン」が即完売と伝えられた。
 
 11時の優先入場の時間は、話題作や限定品を謳う各種作品に人が集中するため、例年通り、この時間の私のブースは閑散としていた。
 回収リストがメモされたであろう各々の会場マップを片手に一直線で目的のブースに向かう来場者、さすがに手元のチラシを配布することもはばかられた。

 今回秋の私の出展作品は大きく

 ・自身の原点に立ち返った、早押し特化型ボードゲームクイズの本
 ・結局昨日も連載を続けたボードゲームの4コマ本
 ・TUKAPON様が企画された「ボブキカク」出展作品の「ボブクイズ」
 
 の3点だ。9月に開催された「ボドゲフリマ11inなかもず」の頒布作品も加えると、新刊だけで実に5作品にも及んだ。
 いずれの中身も、他の制作者が執筆した記事の取りまとめ本でもなければ、「【ゆるぼ】ネタがないので漫画に描いてほしいお題」といったSNSの呼びかけで綴られた本でもない。
 プラスに軸をすえると、番次郎書店として完全オリジナルの作品ばかりが並ぶわけなのだが、悪くいえば「一緒に頑張るべき他の友人知人がいなかった」わけである。

 そんな私のブースにも、開幕45分を過ぎたあたりから新刊を求めて人が集まり始める。

「新刊はどれですか?」
「Twitterの漫画をください」
 そんなやりとりが少しずつ始まり、私は今だとばかりにチラシをテーブル越しで配り始めた。
 チラシと同時に配布した「かんたんルールブック(囲碁将棋サロン「庵」様提供)」もまたたく間に手元から消えていった。

 そのやりとりが本当に嬉しくて、思わず涙がこぼれた。
 自分以外の誰かと会話できる行為そのものが、本当に甘美で、楽しく、嬉しかったからだ。
「いつも(4コマ)読んでます!」
「ありがとうございます!」
 そんな他愛もないやりとりの中、言葉を発した先に存在する「人」の熱を、しっかりと感じることができた。
 言葉を通じ、肌身で伝わる「人」の感触が、一人きりで制作を続けてきた自分にとって何よりも嬉しかったのだ。

 プラスチックのフェイスガードは汗と涙でぐっしょりとくもりがかってしまった。慌てて除菌シートで雫を拭う。

 また、創作から売り子までの何もかもを基本一人で運営する私、だから当日の混乱を防ぐため、結局この秋も「予約」という形を取らなかった。
 これが私にとってまず第一の反省点だ。
 購入される方の中には「絶対に売り切れると思った!」と慌てて駆けつけてくださった方もおり、そのたびに、事前予約は持ち込み数量などに限らず、購入される側からも「時間の気兼ねをすることなく会場内を散策できる」という安心感を付与できることを改めて学んだ。

 のんびり売れていくと予測した4コマの本も、クイズの本も、私の当初の不安をよそにみるみるストックから消えていく。
 たしかに4コマの販売は事前に通販で販売していたとはいえ、当日は本当に限られた数量しか持ち込まなかった。さらに具体的には、9月ボドゲフリマinなかもずで残った部数から再注文することなくそのまま持ち込んだため、1巻と2巻とにいくらかの個数の差ができていた。
 新刊が二つあるならば、新刊の方を優先するに違いない、といった私の勝手な憶測を尻目に、1、2巻をまとめて購入される方の何と多かったこと。
 それもよくよく考えたら当然の話で、手元に1巻がないのであれば、その続きとなる2巻目の前に1巻目も読みたくなることは「考えたらわかる話」だった。

 クイズ本も然りで、10月に某デザイン講習の際にキツい言葉を浴びた拙著などそう伸びるはずもない、と勝手に解釈し、先に発売した「リバイズド」の持ち込み数はかなり控えめだった。それどころか「売り切れたら御の字」とさえ思い込んでいたのだ。
 気持ちがマイナスに傾いたとはいえ、冷静に考えたら分析できる話である。つくづく問題を一人で抱え込む自分の悪いクセを呪った。

 持ち込み数をどんぶりで勘定したがゆえに、土曜、日曜、さらには後日行う通販の分と区分すると、周りが持ち込み数の100や200を議論する中、本当に、本当に肩身の狭い思いがした。

 数時間もたたぬうちに4コマの1巻、そしてクイズ本のリバイズドが完売する。完売とはいえ、自慢どころか、作品を求めてブースに立ち寄られた方全員にお渡しできなかったという後悔の念に苛まれた。


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(※こちらはゲーム喫茶「天岩庵」店主)

 時刻が13時30分を回った頃、自分正面、とりわけ西2ホールの話となるが、おそらくこの時間あたりが私のブース周辺の来場者のピークだったと振り返る。通路を隔てた目の前のブースが、通行する来場者で隠れて見えない。
 どの来場者もしっかりと鼻先までマスクで覆い、スマートフォンと会場マップを頼りに目的となるブースに向かう方や、ひと通り目的の買い物を終えたのか、会場で配布されたであろう大きなロゴマークの買い物袋をいくつも肩にかけ、会場をのんびり散策される方もチラホラと見かけた。
 
 時刻は15時を回り、遠方から心強い助っ人の「たまご」さんが応援に駆けつけてくれた。
 しばらくブースの運営をたまごさんに任せ、私は予約したボードゲームの回収に充てることにした。
 回収のついでに西1ホールを眺めると、詳細な数こそ不明だが、あくまで体感として、西2ホールの数よりも気持ち多めに人の流れがあるように感じた。

 普段ツイキャスライブ等でお世話になっているウッドバーニングのノスゲムさんのブースに向かうと、ツイキャスライブの中で心配されていた「ウッドバーニングのスプーン」が完売したとの朗報を受けた。
 スプーンの代わりに愛らしいサンタクロースのオーナメントを手に取ると、サンタクロースの衣装に身をまとったPodcast「いかラジ」MCのいかさんが、大きな袋を差し出した。中に入っていたのは、ウッドバーニングの施されたコルクのコースターだった。
 そこで自分は改めて、このゲームマーケットが単純な「大規模販促イベント」ではなく、「体験を提供すること」「来場者、出展者、双方が楽しめるイベントであること」を心に留めた。

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 時刻は17時を回り、怒涛の1日目が幕を閉じた。
 昼食を取ることすら忘れ、人の多さについ声を張ってしまったからだろうか、喉がヒリヒリし、だ液どころか血のような鉄っぽさすら感じた。

 来場者は16時過ぎまで減る様相を見せず、気がつけばあっという間に17時を迎えた、という実感だ。

 展示物を簡単に片付け、閉幕と同時に襲われた急激な疲労にぐったりした私は、たまごさんに導かれるがまま、数駅先の洋食屋「ブルドッグ」ののれんをくぐった。

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 ゲームマーケット前の憂鬱でしばらく食事も喉を通らず、前日までおかゆをすすっていた私ではあったが、名物の巨大メンチカツがみるみるうちに腹の中へと収まっていく。サクサクの衣が、空っぽの私の胃に染み渡った。

 帰宅の途に着くと、私は一直線に浴場へと向かった。
 鏡の中の自分は、頬がこけ、ヒゲは青く、ジェルで固めたとはいえ髪はボサボサだ。とても人前で明るく振る舞える顔立ちではない。
 入浴を済ませ、バタリと倒れ込むように布団に潜り、即刻眠りに落ちた私は、気持ちの整理も追いつかず、ふわふわした頭で二日目の朝を迎えた。

3.日曜日(二日目)

 頑張るのも、今日が最後。
 そう自分に言い聞かせ、朝の身支度を整える。
 疲れはかなり残っており、思うように体が動かない。昨日の入場者数を鑑みて印刷物を急遽増やす、なんて芸当は今回も空想にとどめた。

 重い体を引きずるように、一路りんかい線へと乗り込む。
 この日は青海展示棟でコミティア138も開催されるらしく、同じ時間の電車内は来場者と思しき若者で溢れた。
 あとから「そうだ!」と気がついたが、途中で立ち寄った最寄駅の売店は、ポカリや麦茶などが軒並み売り切れていた。
 大勢のイベント参加者を乗せたりんかい線は、青海展示棟の最寄り駅となる「東京テレポート」で車内の2/3が降車していった。

 途中、一緒に乗り合わせた、88create売り子のhimeさんから龍角散ダイレクトの差し入れを頂戴した。
 昨日の喉は寝る前に飲んだ漢方薬のおかげで多少マシにはなったものの、相変わらず聞くに堪えないダミ声のままだ。
 深くお礼を伝え、私はもらったばかりの龍角散を声帯に染み渡らせるようゆっくりと喉に流し込んだ。はたして、今日の運営でいくつ消費するのやら。 

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 この日の天候は薄曇り。天気予報では夜半頃から雨が降ると発表された。
 
 昨日片付けたブースを元へと戻し、改めて日曜に販売する分の小冊子を数えることにした。
 こまごまとした片付けを済ませ、少しだけ確保できた準備時間に、正反対に位置する西1ブースへとご挨拶に回った。
 幼稚園付録のウルトラハットを頭に乗せ、会う人会う人に得意げな顔でボタンを押すよう勧めて回った。何歳の子どもだ。

 午前11時。一般来場者が入場を開始する。
 やはり土曜日と同様に、当初は人気ブース、各々お目当てのブースに向かう。
 
 想定の範囲内とばかりに、私は近傍のヤブウチリョウコ様から今秋発刊の#ボドゲフリぺを頂戴し、少ない部数ながら、頒布を手伝うことにした。

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 通算で5号目となる今回の#ボドゲフリペは、表紙画像が間に合わず私自身は参加を見合わせたが、相変わらず無料だとは思えないほどの圧倒的な情報量とボリュームは、手にされた方々が一様に目を丸くしていた。

 当ブースの話に戻る。
 土曜、日曜、の両日に「完売する時間」の大きな違いが見られなかったことが印象深かった。
 日曜は例年、土曜に比べ人の入りが少なめの印象だったため、販売する数も土曜より気持ち少なめの配分を考えた。
 がしかし、それでも完売する時間はほぼ同時期だった。仮に事前予約などを行っていたならば時間帯は多少は前後するものだろうか。

 もちろん土曜も日曜も私のブースの動きに大きな変化はない。
 土曜日と同様に、4コマ本、クイズ本、とも「同時に求める」方ばかりだった。こればかりは本当に痛恨のミスだった。
 持ち込み数に比例するかのように、4コマが、クイズ本が、手元から相手の元へと渡っていく。
 何も口にできなかった昨日の反省を踏まえ、今回は適宜な水分補給に努める。
 「完売です」「残りわずかです」とツイートする時間も取れないほど、日曜はブースに立ち寄る方は引きも切らなかった。

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 余談となるが、この日はテレビ局の取材クルーも目にした。
 あまつさえ、私ごときがブースを運営する姿を、マイクを持ったカメラクルーがカメラに収めていた。
 インタビューも受けたはずだったが、何を話したのかとんと頭から抜け、おぼろげながら記憶に残る「注目作品をひたすら褒めたたえる言葉」のどの部分を使われるのか、今から戦々恐々としているのであった。

 喉の痛みをひたすら龍角散で抑えつつ、時刻が16時を回るころ、TRPGにまつわるサプライ品やダイスなどを販売する私の周辺は、この時間からテーブルを片付け始めるサークルが現れ始めた。
 閉幕直前となる17時前ともなると、残って販売を続ける私のようなサークルが目立つほどだった。

「まだ来場者は現れる!」と、あきらめる事なく販売を続けていると、以前お世話になった「暮しとボードゲーム」の河上さんがブースに駆けつけてくれた。
 前作のクイズ本「リバイズド」が面白かったと話されたので、残り一冊となった新刊クイズ本を勧め、河上さんに手渡した。
 最後の一冊までしっかりと欲しい方の手へ届けることができ、あきらめず販売を続けて本当に良かった!と感じた。

 17時、明るい女性のアナウンスが、ゲームマーケット2021秋の終わりを告げた。
 大きな拍手喝采とともに、二日間、完全に燃焼し切った私だったが、大の大人が泣き倒れたところで、見苦しいばかりか、片付けに手を貸そうなど思うはずもない。
 ほうほうの体でテーブルを片付け、大きめの段ボールにクッションとなる布地を敷き詰めると、精密機械以外のあらゆるものを箱へと投げ込み、搬出した。

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 18時ギリギリにようやく片付けを終えた私は、荷物ではち切れんばかりのトートバッグを肩に担ぎ、汗まみれで会場を後にした。

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 辺りは暗く静まり返り、予報どおり、外は霧のような小雨が降っていた。
 ビッグサイトの照明が、さながらラスボスのような威厳ある出立ちで私を見下ろしていた。
 
 嵐のような二日間が幕を閉じた。
 余韻に浸ることもなく、いち早く横になりたかった私は、帰り道に立ち寄ったスーパーで目についたビールや惣菜を手早く買い込むと、この日も早い時間に床に着いたのだった。

4.後日譚

 明けて月曜の朝。
 充実感というより「やっと終わったか」の気持ちが根強く残る。
 創作活動も一応の区切りを迎え、休むことなく次は来年2月に迫るゲームマーケット大阪2022の準備だ。
 翌週月曜にはカタログ用のブースカットを提出しなければならない。
 
 秋に向けての創作をどうにか終えることのできた私は、急に目の前の目標がなくなり、しばらくの間、沈むような気持ちに駆られた。


 すでに日課となった午前中の4コマ執筆を終え、これまで頑張った分だけのんびりしようと意気込むも、何を食べたいか、何をしたいか、の見当すらつかない。
 好きなものを食べよう!と意気揚々とスーパーに向かうも、結局惣菜コーナーの唐揚げと即席ラーメンを手に取り帰宅した有様だ。

 目の前が暗くなる。
 昨年、待ち焦がれたゲームマーケット2020大阪、春の開催の中止が決まった、あの時にも似た気持ちだ。

 途方に暮れながら横になると、Twitterの画面に張り付いたまましばらく逃れることができなくなってしまった。
 フッと夕刻を迎え、思い出したかのように慌てて通販の準備を整えた。結局この日もスーパーで割引の弁当を物色することとなった。

 布団の中で、自分は何をしたのだろう、と、当日の様子を振り返る。
 
 売れた売れないの話で判別すると、たしかに今年は「売れた」。
 しかしながら、その原因がつかめない。
 SNSを含めた広報も、冒頭のように「後手に回った」はずだったからだ。
 事前告知という面では大きく出遅れた私のサークルの、どの辺りに「売れた」要因があったのだろう。

 考えれば考えるほど頭の中がぐるぐると混乱する。
 手編み糸のようにもつれた気持ちを毛布の中で整理するうちに、ふと「応援の声」を身に受けたことをあらためて思い返した。

 なるべく腐らないように書くが、イベント直前まで自分は本当に「このイベントが創作活動の最後!」の気持ちで臨んだ。
 背水の陣、とも言えるし、負け確、無鉄砲、記念出展、などの言葉を並べてもぐうの音も出ない。
 そんな下向きな気持ちでイベントに臨んだものだから、当然持ち込みの数は少なく、正直な話、それでも売れ残りを覚悟していた。
 
 蓋を開けると、多くの方から「4コマ見てます!」「応援してます!」そして「クイズって面白い!」といった応援や励ましの声の声を頂戴することができた。
 

チラシ秋2021

 新刊のほかに用意した小ネタ満載のチラシもそうだ。
 一年前の秋に「今年は作らないの?あのチラシを楽しみにしてました!」というフォロワーさんの声を励みに、実に1週間もかけて作った力作だった。
 レイアウトに苦心したが、その方とも当日にお会いでき、無事にチラシをお渡しすることが叶った。
 「楽しみにしてました!」という声を受け、創作の疲れは吹き飛んでいった。

 かける側からすれば、本当に他愛もない応援の一言だったのかもしれない。
 けれど、そんな他愛もないはずの一言に、私はどれほどの力を頂戴できたのだろう。

 それはSNSを介した応援とは趣が異なり、直接肌身で吸収できる、生の応援の声だった。
 何度となく書くが、普段一人で制作する私自身の生活では決して感じることの叶わなかった声だ。
 一人で創作を続ける自分だからこそ、なおのこと応援の言葉の一つ一つが強く温かく感じられたのかもしれない。
 私は応援の言葉を何度も何度も反芻した。
 
 資金的にも時間的にも、もちろん体力や年齢などを数え上げても、今回以上に熱のこもった作品ができるのかどうかはわからない。
 しかしながら、それはちょうど一年前、同じくゲームマーケット秋を終えたときに、やっぱり同じ気持ちを抱いたことを思い出した。
 一年前もやっぱり「ここが限界」と感じるまで創作、運営に熱を上げていたのか、と、他人事のように振り返った。

 Twitterを覗くと、昨夜何気なくつぶやいた「明日からの活動どうしよう」のツイートに、多くの方からの励ましと応援のリプライをいただいた。
 
 リプライをひとつひとつ読み返しながら、自分は改めて「まだ頑張らなきゃ」と奮起すると同時に、ここまでフルスロットルで活動を続けた自分を少しばかり内省することにした。
 しばらくは無理をせず、ペースを落として活動しよう、自分の体のためだけではなく、こんな場末のサークルでも応援してくれる皆さんのためにも、だ。

 とどめを指すかのように、次回ゲームマーケットに向けた新刊の4コマで、中の神様がこう投げかけた。

新4コマノートブログ用

「何をそんなに生き急いでいるの?」

……最初から最後まで、私は神様にもてあそばれていたのかもしれない。
 
 


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