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感染症禍のイベント運営で私が考えたこと、学んだこと

(2021年4月13日18:55、内容を一部推敲) 

はじめに

 去る2021年4月10日、11日、有明東京ビッグサイトにて「ゲームマーケット2021春」が開催された。
 ゲームマーケットとは日本最大級を誇るボードゲームのイベントだ。細部内容は公式ブログに任せるとして、その出展者として参加し、考えたこと、学んだことなどを綴っていきたいと思う。

 本イベントは世界的な感染症禍に加え、イベント前日となる9日に「東京都がまん延防止等重点措置の適用を決定」というニュースが流れた直後の開催となった。
 少しでも油断すれば即座にクラスタが発生し、私自身が病魔に蝕まれるだけではなく、イベント参加者、主催者、ひいてはボードゲーム界隈全体に悪いイメージを植え付けてしまう。
 そんなアゲンストの中、それでも参加・出展することへ踏み切った私は、準備期間も含めて何を考え、当日はどう動いたのか、などの諸々を、頭で整理しつつ一連の記事にまとめることを決めた。


 私はしがない一出展者だ。
 各種メディアからの注目どころか、ボードゲームのイベントでボードゲームではなく本を頒布する「番次郎書店」という場末の個人サークルに過ぎない。2017年11月に初出展し、今年で5年目となる。 
 運営は基本的に一人、頒布物も広報活動も当日ブースに立つのも、全て40を過ぎたいい歳のオトナが、立ち上がりからずっと独りで切り盛りしている。

 よって、グループで役割を分担したり、試遊やルール説明などに大きく制限を受けたり、など、一般の出展者とは視点も考え方も大きくズレがあることだろう。
 あくまで個人的な意見として了承してもらえるとありがたい。

 本記事で綴られている内容は大きく三点だ。
・運営中の個人的な雑感
・感染症対策を含め運営で注意を払った点
・4月10日(土曜)、11日(日曜)全体の流れの概略

 併せて、本記事には綴られていない内容も記する。

・人気のブース、行列・完売報告のできたサークル・作品の情報
・私個人の販売数や昨年との比較
・ゲムマで売れるための方法
 etc...
 
 会場内をつぶさに観察できたわけではないため、各出展サークルの上記ツイート内容等をひとつひとつ確認するには至らず、また販売できた具体的な数についても公表を控えることにする。期待された方には大変申し訳ない。
 販売数だけぼかして公表すると、昨年2020年11月開催の同ゲームマーケット2020秋とさしたる変化はなし、である。(もちろん個人のブースの話である)

大阪を終えて

 ゲームマーケット2021春、最も大きな特徴として「ゲームマーケット大阪→春、からわずか13日という短い期間」だ。
 過去を紐解くと、それまでの最短は(自粛となった2020年の開催を含めても)2018年開催のゲームマーケットだが、それでも34日間と1ヶ月を上回っている。
 メリットとして、大阪、春と両日出展する私のようなサークルは、大阪に合わせた準備が整えられる。
 また、大阪での高揚した気持ちのまま、春に向けて準備することもできた。
 大きなデメリットとして、何より情報が錯綜することだった。
 今SNSを賑わす新作は、大阪?春?
 それらも踏まえ、ツイート上になるべくどちらで販売するかを明示するよう心がけた。有志のStudio Turbineさんが制作した大阪・春のイラストアイコンをありがたく拝借することにした。

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 改めて日程を確認する。
 ゲームマーケット大阪→ゲームマーケット春、まで、準備期間は「2週間しかない」正確に言うと、準備時間として使用できる日程は、ゲームマーケット大阪の翌日3月29日(月曜)から、ゲームマーケット春前日の4月9日(金曜)までのわずか12日間だ。
「2週間“しか”ない」とは、言い訳としてとても使い勝手が良い。実際、春の来場者に向けた各種広報活動や心身の切り替えなどを行ううちに、残された期間はあっという間に過ぎ去る。春のために新たな作品を組み上げる余裕など、気持ちの面を含めても絶対に足りない。
 私のフォロワーだけでも、大阪、春、と連日来場される方をちらほら見かける。両方のイベントに参加する私のような出展サークルを「大阪で回ったから(多分内容は同じだろうから)」と後回しにされても致し方のない話だ。
 しかしながら「絶対に回らない」と決めたわけではない。万が一にも立ち寄った際「ええ?!大阪から更に進化している!」とびっくりされるような、わずかな期間でも何か変わったスタイルは(頒布物だけに留まらず)提供できるはずだ。

 そこで私は準備期間いっぱいまで、イベント当日に向けた自作のクイズをたくさん作ることにした。


 私のブースでは早押しボタンを使った早押しクイズに加え、昨年からは「眺めるだけで楽しめる映像クイズ」も数パターン用意した。
 無駄にAdobeの動画ソフトを駆使した映像クイズは、先のゲームマーケット大阪でも好評を博した。

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 気を良くした私は、更なる種類のクイズができないかあれこれと案を巡らせることにした。

「ボードゲームのクイズ」と冠されてはいるが、もちろんマニア向けのクイズばかり作っては、ボタンを押したいのに答えられない方への配慮に欠ける。
「ボードゲームが初めての方でも楽しめる「ボードゲームのクイズ」」ができないか、私は早速幾つかアイデアを巡らせた。
 ひとつが「アハムービークイズ」

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画像の一部が変化する、問題というより脳トレに近い映像だ。Adobe AfterEffectの本を読み解き、試行錯誤を繰り返す中でなんとか3問ほど作成した。


もうひとつが「アンケートクイズ、100人に聞きました」

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 往年の人気クイズ番組をオマージュしたもので、iPadの機能を活かしタッチ式でパネルが開くよう工夫を凝らした。
 答えの画像も一枚一枚全て手描きした結果、かなりの時間を要したものの、なんとか2問だけ完成させることができた。

当日に向けて

12時半のブース

 ブロガーや配信者がこぞって紹介する「ゲームマーケット2021春、注目作品」などとは一切無縁だった拙著新刊は、当然、開幕の当初から作品を求める人など多くはならない、と判断した。

 それでもいい、と私は密かに策を講じていた。

 決して自虐などではなく、私は今回のゲームマーケット春で「12時半のブース」を運営全般のテーマに掲げた。
 かつて巨人軍のリリーフ投手として活躍した宮田征典投手が「8時半の男」と呼ばれたように、開幕の立ち上がりが良くもない私のようなブースを逆に活かす作戦だ。
 具体的には「お買い物が一段落した頃にふらりと遊びに来て楽しめるブース」を目指した。
 売り切れ必至の作品を散策した後の「ゆっくり会場内を回ろう」といった比較的余裕のある時間に、最短で1分、長ければ何時間でもクイズで楽しめる、そんなブース運営を展開することに決めたのだ。

 感染症対策

 感染症対策は特に重点を置いた。

 昨年7月、やはり感染症禍のイベントとなった「盤祭Re :3rd」、主催のたなやんさんはこの運営のために、数多くの「学術論文」を紐解いたという。

https://note.com/colonarc/n/nb49ca0521a43
実際に当イベントにも出展者として参加した私は、本感染症禍で数多くの大切なことを体感することができた。
 そのひとつが「SNSの情報を鵜呑みにしない」ことだ。

 正確な情報と同等に個人的憶測などの不明確な情報も混じるSNSの世界から情報を取捨選択するよりも、あらかじめ論文や学会などで用いられた資料を読み解き、何が問題とされているかを自分なりに考えること。
本感染症の何が恐ろしく、どう対処するべきかをしっかりと捉えた上で「正しく恐れる」ことが大切だと学んだ。
 私もネット上で確認できる限りのあらゆる論文やデータ資料から、自分なりに行うべき各種対策を紐解いた。

 それらを承知した上で「安全より安心」を念頭に置き、試行錯誤を繰り返しながら各種の準備を進めていった。

 特に飛沫に関しては細心の注意を払い行動した。具体的には
・商品全てを個包装
・手指の定期的なアルコール消毒
・マスクを二重につけ、さらにフェイスガードを装着
・汗が飛ばないよう頭には手ぬぐいを巻いた。

 汗が関係するのかと問われたが、例えば何かの拍子に飛んだであろう水滴を、汗か唾液か、即座に判別する術などないからだ。

 マスクをつけた状態での運営は、体力の消耗に加え、会話が相手に届きづらく、肝心の商品説明がうまく届かない。
 そこで通販サイトの安い小型マイクを購入、装着することにした。
 一連の装備を見にまとった姿は、見た目がファンタジー世界のアーマーナイトさながらの頑丈な服装となった。

 YOUは何しにゲームマーケットへ?

「YOUは何しにゲームマーケットへ」
 ゲームマーケット春開催の数日前、自問自答するように私がツイートした言葉だ。
 「どうしてあなたはゲームマーケットに行くの?」
 私の他愛もない問いかけに、リプライ先でいくつかの意見が上がった。
「シュッテン(出展)デース」
「いろんな人に会いたくて」
などなど。
そんな中「作品を売るため」という言葉が上がらなかったことが印象的だった。

 自分の胸にも問いかけてみる。
 当日の注目作品の中には、しばらく待てば一般店舗やオンラインショップ等で安心して購入できる作品も多い。
 安いとは一概に言い切れない入場チケットを購入し、さらに、感染症罹患のリスクを負いながら、それでもなぜゲームマーケットへ参加するのか。

  悶々と考えていたある時、ふと私は、アークライトの野澤さんの言葉を思い出した。
「ゲームマーケットは是非「体験」に来てください」
 2018年、出演されたラジオ番組でのインタビューでの一言だったと思う。
 ハッと目が覚めた私は、本運営で「楽しさ」を提供することに決めた。
「買って満足」だけでは得られない、イベントに参加するからこそ味わえる「体験」を、自分なりに提供することができるならば、来場された方もきっと満足されるはずだ。
 ボードゲームも「買うだけ」ではなく「中身を開いて」「実際に体験して」こそ真価を発揮するものだから、と勝手に解釈した。

Content and Riches seldom meet together,Riches take thou, contentment I had rather
「満足感と富とが一緒にいることはほとんどない。富を選んでもいいが、わたしは満足感の方がいい」
(引用「超訳 ベンジャミン・フランクリン」青木仁志編訳 アチーブメント出版)


当日の流れ

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 迎えたゲームマーケット当日。4月10日土曜日、朝7時45分。
 時折晴れ間も覗かせる曇り空。思うように気温の上がらない会場周辺は、時折吹く海風が体温を奪う。人はまばら。
 8時に一般出展者の設営が開始されるや否や、誰もいないスペースめがけて一番に滑り込み、さっそく設営を開始する。
 集配の荷物が直接テーブルに届けられている配慮が嬉しい。
 ポスタースタンドを組み立て、テーブルに布を敷き、モニター替わりのiPadを備え、準備を整える。
 飛沫感染シートを前面に貼る案は最後まで悩んだが、iPadを操作する際の障壁となることや、立ち寄られた方を直接目で確認する際にも少しツラくなることを見込み、直前に取りやめ、代わりにフェイスシールドを身につけることで対応することにした。

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 書道家の煌さんが作成された「疾病退散」のお札も掲示し、午前10時、高らかな拍手とともに、いざ、開幕!

 2021年ゲームマーケット春は、10時開幕の第一部と、11時開幕の第2部、土曜のみ12時以降入場の第3部、の2〜3部に分けて入場が統制されている。いずれも時間に制限はなく、再入場も含めて終日17時いっぱいまで会場に滞在することが可能だ。
 お目当ての新作をいち早く手にされたい方は第一部に、のんびり会場内を散策されたい方は第2部以降に、と、自分に合ったスタイルでチケットを購入・入場することができた。

 10時の開幕直後は、各々スマートフォンやカタログ付属の会場マップを頼りに、目当てのボードゲームへと進む。声をかけたところで、目的のブースへと一目散に向かう来場者の耳には到底届くはずもない。
 声かけが全部無駄だとは思わないけれど、どうせ声をかけるならもっと来場者が聞く耳を立てるような時間帯にしっかりと行いたい。
 実際、カタログや頒布物を手渡すことができたのは早くとも第1部開始しばらく後の午前10時30分ごろ。開幕当初はほぼ皆無に近かった。


 頒布物の話が上がったが、自分が処置した対策として、自分のブースに直接の関係があるもの、関係が薄いもの等々含めて、無料で頒布できるものを各種取り揃えた。
 楽しい雰囲気のある箇所に人は興味を持つ、と、これは何度となく本記事で登場する私の実体験を踏まえた話だ。
 本情勢下のイベントでは、特段に大きな声がけを控えるよう運営側から注意喚起が為されている。
 だからと言って何も声をかけないままでは、来場者の足を止める術が無い。
 そこで私が工夫したことは、先に上げた小型のマイクに加え、時間を見計らったパンフレット等の配布だ。

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 ヤブウチリョウコさんの作成された#ボドゲフリペや、しらたまゲームズさん主催の「ゲスラブキャラコレクション2021春」のプロモーションカード、草場純先生が発端となるアナログゲームミュージアムの紹介などの資料を手元に用意することできた。
 開幕当初は、自分の売るべき作品などそっちのけで、ひたすら冊子を配る側へと回った。


 声がけにも工夫を凝らした。
開幕後しばらくは
「こちら無料でお配りしていまーす」
 第2幕となる11時以降は
「新作のチェックにいかがですかー」「会場を回るゲスラブキャラコレクションの配布カードはこちらでーす」
 14時を過ぎた辺りから
「お買い逃しのチェックにいかがですかー」「限定カード、まだ若干余裕がありまーす」等々
「顧客のニーズに応じてその都度変化させる」とは、ビジネスに関する書籍のどこかで目にした付け焼き刃のアイデアだ。
 浅知恵ではあったがなんとか功を奏し、手元のフリーペーパーや依頼されたカード、配布物は会の途中で切らし、急遽補充をお願いするほどだった。

 追記するが、チラシ置き場にチラシを置くことも一旦は考えた。
 けれど、そのためには一際目につくものというデザインを求められると考え、今回は断念した。
 仮に配置するならば、もっと目を引くような、一眼で「面白そう!」と伝わるデザイン等を工夫しなければならない。これは次の自分に向けた課題とする。

 慌ただしく動く来場者をテーブル越しに観察する。
 開幕当初の10時前後は、スマートフォンやカタログ付属の会場マップを片手に行き交う人が目立つ。
 皆、目的とするボードゲームを購入に散策する時間だ。
 午前11時、第2幕が開幕する頃に、体感としての客層の変化が見られた。歩くペースがゆっくりとなり、歩きながら各ブースの作品を吟味するように映った。
 実際、用意した各種の頒布物は、概ねこの時間辺りから本格的に手に取って貰うことができた。見た目とても無料だとは思えない#ボドゲフリペは手にされた方が皆驚く様子が見られ、一方のゲスラブキャラカードは、人気作品ということもあり、カードを受け取りにブースを訪れる来場者もこの時間から絶えることがなかった。

 私自身のボードゲームクイズが活躍を見せた時間も、第2幕が開幕するこの時間から本格始動した。
「12時半のブース」を謳った目論見どおり、隙間の時間ができた来場者や普段SNSでしかお会いできない遠方の来場者、交代で各所を回る出展者の方などが、会場の盛り上がりが一段落を見せる頃合いに続々とブースに立ち寄ってくださった。
 そんな方々に向けて、私はひたすら自前のクイズを披露し、声が枯れるまでクイズを読み進めた。

 
 午後17時、気がつけば閉幕の拍手が鳴り響いていた。

 1日目があっという間に過ぎ去ったのだ。本当に一瞬で。食事を取る時間どころか時間を見る余裕すらなく、
 飲み残しのお茶を口にすると、声の出し過ぎで枯れ切った喉がヒリヒリと痛んだ。
 簡単にテーブルを片付ける。一日やり遂げたと思しき充実感はあるが、明日に備えてご褒美のディナーは後回し、帰宅後直ちに足りなくなった作品の補充等含めた各種準備、印刷などに手をつける。
 それでも疲労から襲いかかる眠気には勝てるはずもなく、この日は21時に布団に入り、明日早朝から再度準備を整えることにした。
 

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 二日目、午前7時45分
 澄み切った空。気温は昨日より少し高い快晴。
 昨日一日でとうに枯れた喉の奥に、差し入れで頂戴した龍角散ダイレクトを流し込む。
 両日出展の私は、昨日簡単に片付けた設営を元に戻すだけ、のはずが、iPadの角度やポスターの位置など変にこだわってしまい、気がつけば準備時間の大半が消えてしまった。

 午前10時、拍手とともにゲームマーケット二日目、第1幕が幕を上げる。

 一日目と同様に、第一部当初は他の人気サークルに比し、至って静かな開幕を迎える当ブース。
 気にせず準備などを整えていると、この日、たまたまゲムマライブ出張版で周辺を散策されたタンサンファブリークの朝戸さんとテンデイズゲームズの田中誠店長が、当ブースのクイズに挑戦されるという僥倖に恵まれた。ガチガチに緊張しながら朝戸さんのインタビューに答える私。

https://youtu.be/SaaMAosXnMk?t=2888
 後日配信された映像を確認すると、中継先を眺める「ゆいゆい」こと柚井ゆいさんが
「たぶん来た人の年齢層とか性別とか見て、サンプルで出すゲームを変えてらっしゃるんですよ」
と話され、思わず小鼻がうごめいた。

 おっしゃる通り。努力の成果はきちんと相手に伝わるのだと改めて実感した。

 

 本運営間、私が感じたことを大きく3点綴りたい。

・人は大事
 私のブースで頒布するのは主にクイズの本と4コマの本。
 どちらもSNSを大きく賑わせることのなかった作品だけに、前日の持ち込み数をどうするか直前まで悩んだ。
 ところが、そんな私の心配をよそに「4コマ、いつも読んでます!」と話された方や、クイズを目当てにブースを訪れた方、過去の小冊子を列待機中に読まれるほどのファンの方など、自分が想像した以上にたくさんの読者とお会いし交流することができた。
 照れるやら気恥ずかしいやら。
 おかげでイベント前のネガティヴな気持ちはきれいに払拭され、運営中は常に前を向くことができた。

・隣人は大事
 今回のブースは、四方を、アクセサリー工房ころん、ゆらん様、ダイス専門ドラタコ様、記憶喪失×パラダイス様、ミープルボタンのたかみぃぷる様、に囲まれた。
 ブースとブースの間は空いておりサークル間の密は防止できたものの、なまじ声が大きい自分の声は数ブース先まで届くらしく(マイクのボリュームは切ったとしても)周囲の方の「お気になさらず」と笑顔で許してくださったことに何よりも頭が上がらなかった。
 ちなみに、マスクを二重につけ届きにくい声を、当日は軽易なマイクを装着し整えたが、それも近隣サークルの方に許可をいただいての話だ。

・ネットの情報は話半分で
「同人サークルのイベントだから、本人の好きに作ればいい」
 頭ではわかっていても、情勢下でSNS等がコミュニケーションの中心となる生活では、ツイートに思うような反応がつかないことを、つい作品自体の評価の判断材料にしてしまう。
 恥ずかしい話になるが、大きく広報できなかったことも相まって、私は本当に沈んだ気持ちのままイベントに臨んだ。考えはそのままズブズブと深く沈む一方で、まだ始まってもいないのに「終わったその後の進退をどうするか」まで妄想が膨らんだ。
 蓋を開けると、かなり4コマを愛読された方や、ずっと読んでました、楽しみです!と明るく話される多くの方と意見を交換することができた。
 SNSの反応が全て、と簡単に振り切るのは非常にもったいない、と、こちらも当日得られた成果のひとつだった。

 むしろSNSは逆方向へと舵が働いた。
 少し毒を吐くが、Twitter上で日頃から言葉遣いの荒さが目立つ方や、こちらを一方的にブロックされた制作者の作品は、当の本人に笑顔で勧められても手に取るのに躊躇した。
「根はいい人なの」
「話せばいい人だけれど」
 それは私にとって「遊んだら面白いゲームだけれど」と同じ口ぶりに聞こえる。手に取るきっかけが失われた段階で、どうしてもその場での購入は後回しとなってしまう。
 人の振り見て我が振り直せ、とはよく言ったもの。日頃からひいひいと悲鳴ばかりのツイートが並ぶ自分も胸に手をおいて気をつけることにした。

 さて二日目の私は、というと、この日も変わらず、終始を通じずっとクイズを読み続けていた。
 ゲームマーケット大阪、春、と、早押しボタンを見つけ興味半分でボタンを押しにいらっしゃった方、「(会場に)ボタンがある!」と聞きつけ、時間いっぱいまでクイズに挑戦された方など、幸いにも大勢の来場者に恵まれ、その都度、ずっと問題を読み進めた。
 本当に嬉しかった。
 反面、周りの状況に目を向ける余裕は無かった。
「人が集まっていましたねー!」
 そう感想を頂いたが、なにせ当の自分自身が、比較となる周囲の状況を観察できず、周りが想像するほど人を集めたという実感はない。
 後日主催側から発表された来場者数を振り返っても、個人的に一日目、二日目とで、そう大きな違いを得られなかった。

参考までに、ゲームマーケット公式ブログより
来場者数 1日目 7,000人
     2日目 5,500人

https://gamemarket.jp/information/177271
(引用元:ゲームマーケット公式ブログ内記事「ゲームマーケット2021春 参加人数ご報告(2021.4.12)」より)
 
 閑話休題、私のブースは近隣のブースをはじめ、多くの理解ある来場者に恵まれた。
 マナーや節度をきちんと守る来場者に加え、問題文に登場する作品に直接携わったという方、私に向けてボードゲームのクイズを用意し、私がボタンを押す側へと回る機会にも恵まれた。


 食事を取る時間もままならず、午後17時、ついに二日目閉会の拍手を迎えた。
 一際大きな拍手が巻き起こり、私はハッと我に返るや否や、込み上げるものに耐えきれず、不覚にもその場に突っ伏してメソメソと声をあげてしまった。偶然傍にいらっしゃった珠工房の珠さんに介抱されながら、私は最後の力を振り絞り撤収を始めた。
 身体中が涙と汗でびっしょりだ。
 念の為用意したシャツへと着替え、夜のとばりが降りた有明を後にする。
 

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「アイルビーバーック!」と親指を立てながら、私は再び訪れることを誰ともなく約束し、ビッグサイトを後にした。

 帰りの電車の中、ぼんやりした頭で昨日今日の出来事を振り返る。
 何がどう楽しかったのだろう?
 自分の表現が直接伝わったこと?私の趣味に共感される方がいらっしゃったこと?作品がお金という価値に変わったこと?ぐるぐる、ぐるぐると頭を巡らせるも、これ、といった答えが見つからない、でも、とにかく楽しい二日間だった。

 喉元過ぎればなんとやら。辛かっただけの創作期間がすっかり頭から抜けた私は、上がり切ったテンションそのままに、来月以降に予定されている別のイベントへ躊躇することなく出展を申し込んだ。
 

その後の話

 休め休め、と周りに忠告されながら、今もこうしてペンを走らせている。
 創作は生活を縛りはするものの、自分がやりたいことまで縛るわけではない。
 今の自分は、本note記事という形で、イベントで体感できた諸々の想いを、まだ熱の冷めきらないうちに文字へと昇華させることを第一に行動している。
 それでも、この日に併せて調整した体への負債もあるため、無理をしないよう、この記事を書き進めている。
 会場から搬送した荷物も先ほど無事に到着し、イベント全般で活躍した設営道具一式や、若干数だけ残された当日の頒布物に加えて、当日のわずかな時間で購入できたボードゲームなどが、狭い私の部屋を新たに占拠している。


 満足感があるとはいえ未だ安心はできない。これから2週間ほど時間を置き、感染症に関する各種通告が届かないこと、何より当の自分自身がこれからも健康体に過ごし、ウイルスをはじめとする病魔に罹患しないこと。それらが無事に済んだのちに、ようやく私のゲームマーケットは終幕を告げる。
 具体的な売上ではなく、あくまで「自分がどこまで楽しみを提供できるか」に重点を置いた本イベントの成果は、未だ実感こそ湧かないものの、今後は徐々に上がるものだろうか。たとえ上がらなくとも、イベント前の私の中のモヤモヤした気持ちはまっさらに払拭され、次に参加するであろうイベントのための創作も少しずつ始まっている。 

 イベントのご褒美はイベントで。
 うん、やっぱり私はイベントが好きなんだ。




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