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我が家のキッチン

 私の住んでいる家は元別荘の中古物件で、裏が森になっているところが気に入って買った。リビングの西側と南側の壁は大きな窓があって隙間風が寒いけど、窓から見える景色は裏の森の季節の移り変わりがとても美しい。住んで20年目になるけど飽きることがない。今は木々の葉がほとんど落ちて、オレンジ色の落ち葉の絨毯の上をリスが走り回って冬支度をしている。

 今の旦那と付き合うことになってそのうち、彼はこの家に移り住んできた。旦那は当時料理人だった。私も料理が好きなので、別荘用の小さなキッチンはいつも取り合いで、もっと大きなキッチンが欲しいなあと思うようになった。それで大工をしている友人に相談して、リビングの隣の六畳の和室を丸々キッチンにすることにした。

 キッチン工事を計画中に、私は妊娠して彼と結婚することになった。工事中私のお腹はパンパンに大きくて、とても生活しにくかったことを覚えている。それでもどんどん妄想が現実になっていく様は見ていて楽しかった。工事を手伝った旦那はすっかり大工仕事にハマってしまい、キッチンのあちこちの棚や作業台を全部手作りした。そして旦那は今では料理のお仕事を辞めて大工を生業としている。家では時々料理してるけど。

 無事出産を終え、初めての育児にバタバタと日々を過ごしつつも、新しいキッチンでの時間はほっと一息つける幸せな時間となった。朝早く赤ちゃんが起きないようにそっと起き出しキッチンに入ると、キッチンの東側の窓から朝日が昇るのが見える。リビングとキッチンの壁をぶち抜いて対面式キッチンにしてもらったので、料理をしながら西側と南側の朝の青白い森の景色が見える。そんな窓からの美しい景色に囲まれたキッチンは気持ちよく、すぐに赤ちゃんが起きてしまい1人でいれる時間が一瞬の時もよくあったけれど、でもそんなキッチンでの時間があったから、私は日々を感謝して過ごすことが出来たように思える。

 赤ちゃんの首が座ったら、片手で抱っこしたりおんぶ紐でおんぶしながら料理できるようになり、そのうちに一人遊びができるようになり、2人目ができて、また抱っこしたりおんぶしたり、2人の遊びを眺めたり、兄弟喧嘩にうんざりしたり、そうこうしながら10年、私は家にいる結構な時間をこのキッチンで過ごしている。子育てが落ち着いてもパートに出たり習い事の送り迎えがあったりと、相変わらずバタバタではあるけれど。

 最近、夕ご飯の後の送り迎えがない日は、ビールか時々はワインを買って帰る。キッチンに入ってエプロンをして食材を並べて、ビールだったらプシュッとプルトップを引く。ワインだったらグラスに注ぐ。くいっと飲んでからまな板と包丁をセットする。ああ美味しい!疲れた体も頭の中もフワッと楽になる。森の奥に日が沈んでいくのを眺めながら料理を始める。その時間が好き。すっかりキッチンドランカーだ。時々友人が食材やお酒を手に遊びにくる。私はお酒を飲みつつキッチンでおつまみを作りながら、友人たちの宴に参加する。そんな時間も好き。

 泣いたり笑ったり怒ったりしながら、たくさんご飯作ってきたなぁ。
 
 古くていつもどこか工事中の家だけど、この家を買ってよかったと思う。キッチンを改装して大正解だった。いつまでもキッチンから見える景色が美しくあることを心から願う。

 

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