ザ・メニュー

孤島のレストランに集まった客たちに大変なことが-と、ここまでの事前情報でのぞむ。正直、どんなジャンルの映画かすら分からない。「そして誰もいなくなった」的なミステリか?大量殺戮のスプラッタ映画か?
そして答えは、どっちでもなかった!(この辺からネタバレ注意)ミステリ要素も血の気要素もそこまで濃くはない。代わって場を支配しているのは、シェフ(レイフ・ファインズ)の怒りだ。それは、おしゃべりと止めるためにたたく手の音の大きさで表現されている。一見理不尽だが、シェフにも同情の余地ありだ。なぜなら客たちが金持ちなだけで、どうしようもないクズばかりだからだ。揃いも揃って、シェフや料理に対して愛情のかけらもない。こんな奴等相手に料理作り続けていたら、確かにおかしくなりそうだ。この辺、ちょっと前に観たニコラス・ケイジの『ピッグ』にそっくり。『ピッグ』では、ケイジはそれが嫌になってシェフをやめているし、最後はラスボスに料理を作ってやり、感動させる。一方本作では、最後にアニャがシェフに料理を要求し、おいしく食べてもらうことでボス戦をクリアする。
とはいえ、テイストとしてはブラックなギャグに近い。アダム・マッケイがプロデューサーと聞いて、もっと笑えるものかと思っていた。いや、十分におかしいですよ。最初の方のメニュー、自然に見たてて、丸い岩に海藻やなんかがこびりついてる料理。次の、パンだけどパンがなくてスプレッドだけのコースあたりは、めちゃおかしい。だんだん、客がひどいことになるにつれて笑えなくはなるが。でも作りとしてはこれ、シチュエーションコメディの作りだよね。
で俳優陣。なんといっても、レイフ・ファインズが不機嫌なシェフ役を見事に演じた。そして巻き込まれただけの客、アニャ・テイラー=ジョイ。彼女のことはそこまで好きというほどでもなかったが、本作の彼女はよかった。彼女も実は己れの感情を内に隠しているのだが、そのあまり見せないという演技がよかった。

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