『地域介護力データブック』高橋紘士監修. 2001

在宅介護力という指数を作っているのだが、介護のキャパではなく、実際に利用された数字をもとに計算されていることに注意。


Ⅰ 地域介護力データベースの分析

・・・

ここでは、地方自治体における介護力の地域差について、在宅化9以後サービスに絞って「在宅介護力指数」という指標によってみていきたい。

これは、在宅介護を支える3本柱のホームヘルプサービス(訪問介護)、デイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)について市町村ごとに65歳以上高齢者100人当たりの年間利用日数(*)を偏差値化した指数である。わかりやすくいうと、3つのサービスについて全国の年間平均利用日数を算出し、各都道府県・各市区町村の数値が平均値(50)からどの程度上回っているか、下回っているかを比べたものである。したがって、指数が大きければ地域の介護力が高く、指数が小さければ地域の介護力が低いと考えられる。

(*)「ホームヘルプサービス」「デイサービス」「ショートステイ」の3サービスについては、財団法人長寿社会開発センターの『老人保健福祉マップ』(平成6年版~平成10年版)を使用。



Ⅱ 全自治体データベース

Ⅲ 地域介護力座談会

◆介護サービスの地域差と介護保険――地域介護力ランキングと時系列分析

出席者 司会 高橋紘士(竹喬大学コミュニティ福祉学部教授)                                    池田省三(龍谷大学社会学部教授)
       山崎史郎(厚生労働省老健局計画課長)
       杉本鉄男(住友生命総合研究所主任研究員)

・はじめに

高橋(司会) ・・・

ここにあります資料は、1998年度の「老人保健福祉マップ」をベースにして、在宅サービスの3本柱(ホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイ)の数字を使い、それを平均した在宅福祉サービスについての偏差値を「在宅介護指数」と名づけ、それによって在宅福祉サービスの地域格差を明らかにし、「地域介護力」という名前で表したものです。

在宅介護力指数」は、1993年度から数字を算出していますが、1998年度は介護保険関連の法律が成立して自治体が一斉に介護保険対応を始めた年ですから、介護保険のスタートを控えて介護サービス施設の整備をやったところ、やっていないところがかなりはっきり出てきています。これを基礎にして介護サービスの地域差の問題をまず考えてみたいと思います。さらに、現在、介護保険制度のスタートから約1年が経過しましたので、これを振り返りながら、今後の課題を忌憚のないところで話し合いができたらと思っております。

・・・

読者の方々のために申し上げなければいけないのですが、医療系施設や入所系施設は広域利用施設であり、広域的な利用があるので、地域の在宅介護の水準を図るサービス供給指標としては正しくとらえることが難しいということで、在宅サービスの3本柱の利用度を指標にしていこうということになりました。その場合、注意しないといけないのは、訪問介護は要介護高齢者の自宅を訪問して提供するサービスですから、施設と関係なく自由なかたちで提供されるサービスです。デイサービス(デイケア)、ショートステイは、施設があってはじめて提供可能な施設系の在宅サービスということですから、その意味では在宅介護力指数といえどもその地域の施設整備率を反映した、しかも福祉の側から反映した数字であり、この動向をみるということは、ある意味でいえば「地域介護力」、すなわち地域において提供できる介護サービスの量を測るよい接近方法なのではないかと思っております。

それから1998年は措置の時代でしたから、市町村が直接サービスの整備にどれだけ力を尽くしてきたかということを相対的な位置づけのなかで理解することができます。そして、当然のことながらゴールドプラン以来全国的には毎年毎年、それぞれのサービス量は増大しているわけですから、偏差値で表すことによって地域の在宅サービス整備のパフォーマンスをみることができます。約3300すべての市町村について、1993年から数字を算出していますので、時系列的な変化、そして1998年の最新のデータまでに至る意味を読み解くということは、この間の在宅ケアあるいは介護サービスの地域における動向を直観的に計量的な姿で第一に把握することができ、大変有意義なデータになるのではないかと思います。

はじめに最新1998年度の分析結果が出ておりますので、この作業を行った住友総合研究所の杉本主任研究員からお話をいただき、それを皮切りにさせていただきたいと思います。


・「地域介護力」について

・最新1998年度の分析結果

杉本:最初に、今年の特徴を簡単に申し上げます。

過去5年間は、もちろん変化はあったのですが、大きな変動はなかったという印象だったのですが、1998年という最新データを入れてみますと、介護保険のスタートが近くなってきましてさすがに非常に大きな変動がございました。都道府県別にみると(図表1、p. 4)、宮崎県が5年連続で1位だったのですが、1998年は青森県がトップに踊り出ました。これは大きな変化ですが、一躍トップに躍り出たのではなく、1993年には21位だったものが着実に順位を上げてきてトップに躍進しています。


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もう1つ特徴的なのは、関東圏です。一昨年発表したときに非常にセンセーショナルだったのですが、関東圏の低位というのは変わっていません。最下位、ブービーは関東の県ですし(メモ者注:千葉県、茨城県)、唯一神奈川県(23位)が真ん中ぐらいにあるだけで、関東の県は過去からずっと38位以下に集中しており伸び悩みがはっきりと出ています。

大きく伸びているところは、やはり青森県(5位→1位)、山口県(14位→9位)、山形県(29位→22位)などです。逆に大都市は非常に苦戦しています。京都府が昨年やっとベスト10入り(7位)したのですが11位に落ちてしまっています。また大きく後退しているところは、徳島県(8位→12位)、和歌山(15位→20位)、香川県(23位→31位)、福井県(26位→34位)などです。

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行政区分別に政令指定都市・特別区、市、町村と分けてみますと(図表2、p. 6)、高齢者の数が多いこともあるのですが、やはり都市部が真ん中あたり平均に近いところに集中しているという傾向があります。それに比べて町村は千差万別で、かなり分散しています。特にここ1、2年の傾向としては、偏差値の非常に低い30以下の町村の占有率が高くなってきています。是那智的には、町村の在宅介護サービスは充実してきていますので高いほうにシフトしてきているのですが、約4.3%の町村が取り残されているという実態があります(図表3-3、p. 9)。

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1993年と1998年の比較データで見ますと、5年間で町村は平均的には伸びてますが(図表3-3、p. 9)、政令指定都市・特別区(図表3-1、p. 7)、市(図表3-2、p. 8)は落ちてきています。グラフをみていただくとわかるのですが、政令指定都市・特別区は真ん中の46~55あたりが高くなっています。市は51~55より上の所が落ちてきているのです。特に51~55がすいぶん落ちています。それに比べて左の40台、30台あたりが増えてきています。町村は全体的に右、51以上の1998年度が高くなっているのですが、左をみていただきますと30以下が1.4%から4.3%と増えている傾向がございます。これが5年前と比べた数字です。

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それから最新の在宅介護力指数は、図表4(p. 11)から図表6(p. 13)をみていただきますと、常連と新たに入ってきた自治体が混在しているという状況です。全地方自治体(図表4、p. 11)では、鹿児島県の桜島町が偏差値80.18で、昨年3位からトップになっています。2位には、長野県の美麻村というところが入ってきまして、3位は1位の常連だった里村(メモ者注:鹿児島県)という状況です。

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1998年度は大きく順位が入れ替わっています。特にベスト10をみると、昨年のベスト10になかった町村が新しく6つ入ってきているという傾向があります。顕著なところでは18位の島根県西ノ島町というところが1962位から18位に大きく躍進しています。

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政令指定都市・特別区(図表5、p. 12)では、東京都中央区がトップで変わっていませんが、昨年やっと大都市で偏差値が初めて60を超えたのですが、また56.47に落ちています。その他は江戸川区(13位→2位)、100万都市では仙台(12位→3位)が大きく伸びてきています。

市(図表6、p. 13)では、福岡県筑後市が1位に入ってきていまして、昨年1位だった島根県出雲市が2位に、常連の鹿児島県名瀬市が3位となっていますが、市のベスト10はあまり変わっておりません。町村については、全地方自治体と変わりませので割愛します。

図表7から図表10に、昨年から新しく開始した経年の伸びを比較しています。経年というのは1993年度と1998年度の在宅介護指数を比べて、その伸びをみたものです。こちらでは偏差値50以上を対象として分析しているのですが、経年の伸びですので昨年始めたときとそう大きく変わっていません。昨年現地取材にも言っている島根県の弥栄村などの、色々と工夫して頑張っておられるところが相変わらず伸びてきております。経年では図表8をみていただくとわかるのですが、特に大都市である政令指定都市・特別区ではやはり高齢者の絶対数が多いということもあって、指数を上げるのが難しいという気がしています。経年の伸びでみてプラスになっているのが9自治体です。35自治体中9自治体しか偏差値が伸びていない、残りはマイナスになっているというのが現状です。市のほうは(図表9)、全体的には伸びてきているのですが、大きな伸びはあまりありません。北海道の北広島市が着実に上がってきているということと、先ほど最新の在宅介護力指数でも上位だった福岡県筑後市が2位に入ってきているという実態です。

メモ者注:なぜ大都市部でサービスを増やしにくいのか謎。供給側の理由は土地代が高く施設を造りにくいこと、需要側はお金持ちが措置の対象にならないこと、大都市部では高齢者のなかでも後期高齢者が相対的に少ないことが考えられる。この後にも「大都市問題」は難度も提起され、見当違いな答えが提示されている。

在宅介護力指数の絶対値が高く、加えて経年の伸びも頑張っている自治体を5つほど挙げますと、

鹿児島県桜島町 在宅介護力指数1位(80.18)、伸び13位(+25.21)
高知県十和村     在宅介護力指数5位(76.74)、伸び9位(+27.46)
長野県北御牧村 在宅介護力指数7位(75.03)、伸び39位(+19.86)
鹿児島県住用村 在宅介護力指数10位(73.65)、伸び43位(+19.03)
兵庫県安富村  在宅介護力指数28位(69.91)、伸び44位(+19.02)

などです。

財後に図表10ですが、1993年度と1998年度の在宅介護サービスの3本柱の伸びをみたものです。高齢者100人当たりの年間利用日数ですが、1993年に比べてホームヘルプサービスが2.24倍、デイサービスが2.70倍、ショートステイが2.26倍で、すべてが2倍以上伸びています。この間の高齢者の伸びが約1.2倍ですので、それからみても、在宅サービスが介護保険制度の実施に向けてかなり大幅に伸びてきていることがわかります。以上が分析結果の概要です。

・地域介護力の分析結果の第一印象

高橋:・・・

山崎:介護サービスの充実は、規模のメリットがそれほど働くわけでもないし、1つひとつ着実に増やしていくしかなく、政令指定都市・特別区などの大都市ではどうしてもすぐに増やせないという面があるという感じがします。逆にいうと、町村というのは規模もそれほど大きくなく、ある程度マンパワーを用意すればかなりいい結果が出てくるし、トップダウンで「やるぞ」といえば増やせるという容易さがあると思うのです。そのため、規模に応じて、こういう結果が出てくるのはやむを得ないという感じがします。

今の段階では介護保険が始まっているわけですが、逆に伸びていますのが政令指定都市・特別区です。この調査段階においてはまだ措置ですから、基本的には予算制約があって限られた予算のなかでサービスを増やしていくというかたちです。それに対して介護保険に移った時点ではむしろ予算制約がなくて、ニーズを受け止めて対応していくというかたちになります。政令s低年のなかにはすでに半年も経たないうちに2倍にサービスが増えたり、ニーズが大きく膨らんでいるところがあるわけです。措置の下での格差には、予算と行政面による格差が反映している部分が大きいと思うのです。これがまたニーズに対してどう変わったのかという視点でみると、ある意味で新しい要素が出てくると思います。

したがって、この地域介護力というのは、どれだけニーズがあるかというよりむしろ各行政がどういう姿勢で取り組んでいるかというのがある面よくわかるという感じがします。これが、最初の印象です。

池田:前回の座談会のときにも話題になったのですが、在宅サービスを引き上げている主な要因は、自治体の高齢化の状況によるものが大きいといえます。今回みてもやはり在宅介護力指数の高いところは高齢化率圏にわりと集中しています。つまり、高齢化が進行しているがゆえにニーズが顕在化して行政を動かしたという構造です

前回は、財政力指数は反比例するという構造が出ていましたが、その分析はまだみていないですが、この数字をみるかぎりやはり在宅介護力指数の高いところは財政力指数が低いですね。

杉本:今回も傾向は変わっていません。やはり財政力指数の低い自治体のほうが在宅介護力指数は高くなっています。

池田:なぜかといえば、高齢化が進行しているところは必ず財政力指数が低いに決まっているからという相関関係で読むことができると思います。ただこれは後で申し上げたいとおもうのですが、どうやら在宅サービスの場合、医療系在宅と福祉系在宅の2つに分けられるとすれば、両者の比率によって異なってくると思います。国民健康保険中央会が2000年の10月サービス分(11月審査分)の介護給付費を出しています。それをみてみると、日本で一番在宅サービスを提供しているところは沖縄県です。医療系のデイケアがかなり大きな割合を占めていると思うのですが、その意味でさらに分析して医療系のサービス化福祉系サービスかを調べなければいけないということです。

メモ者注:絶対額での議論はミスリーディング

介護保険が始まって10か月の在宅サービスの金額的量と比較しますと、やはり措置の実績というものをある程度反映しているということは間違いない。ただ、医療系と福祉系の違いがあって、それが金額に跳ね返ると福祉系は安く、医療系は高いですから、そこのところで少しずれが起きているのかなという印象を受けました。


・座談会の論点

高橋:まずファーストインプレッションということで、一通りご発言をいただいたかと思いますが、いくつかポイントがあるかと思います。1つは、措置という仕組みの供給から保険制度というかたちでの供給システムに転換を図るなかで、これからそれぞれの自治体でどういうことが起こるのか。それからもう1つは、医療系・福祉系、在宅系・施設系という4つの次元が出てきて、それを介護サービス総量のなかで、それぞれの水準をどういうかたちにしていくのかということです。それから介護保険の趣旨の一つは、介護サービスの必要度の局面に応じてサービスを使い分けるという仕組みを少なくとも仕組みとして入れたわけですから、それを地域でどういうかたちで実現をしていくのかといったことです。そしてこれらのテーマとも関連する大きなテーマですが、大都市問題としての介護サービスがこれからどうなるかということなどが課題かと思いました。

はじめに都市と農村問題を、もう1回ここで少し整理しながら議論していきたいと思います。在宅介護でかなり印象的なのは、ホームヘルプサービスを相当充実して在宅介護力指数を上げている地域、これは鹿児島県里村などが典型的で、高知県十和村もそうですが、高齢者生活福祉センターという小規模の施設をつくってそこにホームヘルパーを派遣する、すなわち特定施設に対してホームヘルパーを効率的・集中的に派遣するというかたちで伸ばしてきている。これは過疎地型のモデルだけども、もしかしたら21世紀の大都市型のモデルにつながっていくのではないか。これをどういうかたちで誘導するかが、今後の大都市対応を考えるヒントになるのではないかと、今回の数字をみて思いました。先ほど山崎課長がおっしゃいましたけれども、21世紀は大都市で高齢者人口が急増しますから、それを考えると大変示唆的なモデルなのかなと思ったりもしています。

メモ者注:なぜ移動コストが低く在宅サービスを効率的に供給できる大都市部で、わざわざ高い土地代を払って施設を作って、そこに人を集めるのか意味不明。大都市部のサービス量が低い原因が根本的に分かっていない。

・介護サービスの地域差

高橋:・・・

山崎:在宅3本柱ということでホームヘルプ、デイサービス、ショートステイとありますが、介護保険が始まって、最近3本柱というのに少し疑問を持ち始めています。

これは当然措置の時代ですから3つを平均的にみているわけですが、ショートステイで在宅介護力指数が伸びている地域は、在宅ニーズで伸びているのか、あるいは施設があれば特別養護老人ホーム待機者を含めてショートステイで代替してきていますから、それで伸びているのかという分析をしないといけないと思います。そのままそっくり在宅介護ということにはつながらないと思います。その点でいくと一番はっきりと出てくるのは、ホームヘルプサービスとデイサービスだと思うのです。したがって、ショートステイは3本柱といいながら、もう少し異なった見方も必要な感じがします。

このなかでみているとデイサービスが非常に大きいと思っているのですが、介護保険になって潰れるといわれたデイサービスが非常にニーズが強くて、足りない足りないといわれています特に足りないのは都市部です。一方、九州・四国はデイケアも多いのですけど、デイサービスも多くて、その差が政令指定都市・特別区と町村部で出てきているのではないかと思います。

逆にいうと、デイサービスの整備をどうするかという重大問題を都市部は抱えているという感じがします。パッとみたところそれが一番大きな地域差だと思います。


・在宅介護サービスの充実のパターン

高橋:都市部の問題ですが、まずショートステイが少ないというのは施設数に問題があることは間違いないと思います。それからデイサービスもそこそこ充実しているところはもちろん上位にいっているのですが、ホームヘルプサービスの効果とデイサービスの効果、要するに在宅の3本柱の効果をどのようにとらえるのか、効果というよりパターンといったらいいのでしょうか、それをどういうふうに識別しながら分析するのかというのがこれからの大きな課題だと思います。翻っていえば介護保険政策でいう、先ほどの施設と在宅、医療と福祉のコンビネーションのパターンを分析上どう作っていくのかということ、そういう課題にも直接ここから関わってくると思います。

町村部がなぜ大きく伸びるかというのは、1つには特別養護老人ホームをつくってショートステイとデイサービスをやれば在宅介護力指数がポンと上がるという法則があります。それは確実にあるのだけれど、もう1つはホームヘルプサービスを重点的に伸ばして上げてきたというところと、どうも2つのタイプがあると思っています

政令指定都市・特別区の場合は今申し上げましたように、施設とりわけ印象深いのは、例えば江戸川区はダントツにデイサービスの利用日数が高い、それが2位になっている大きな理由かと思っています。そういう形で在宅介護力指数を伸ばしてきたところと、在宅介護力指数が53であまり高くないのですが、墨田区、荒川区、中央区もそうかと思いますが、ホームヘルプサービスを伸ばして在宅介護力指数を稼いでいるパターン、そのへんはそれぞれの地域資源の在り方というものを反映しているという印象がございます。池田さんのほうから、今の論点についてなにかありますか。

池田:いわゆる「ホームヘルプ型」「デイサービス型」その「均衡型」と3つに分けられる感じがします。特に町村部の場合は、ホームヘルプ型とデイサービス型と比較的きれいに分かれます。デイサービスにはある程度の施設が必要で、大都市の場合は、それがなかなか難しくて簡単に伸ばせないということがあります。そのため、ホームヘルプサービスとデイサービスの調和型といいますか、均衡型のほうが多いという感じがします。

先ほど高橋先生がおっしゃった里村などは典型的にホームヘルプ型ですが、これはある意味でホームヘルプ型といいながらも準施設型です。特別養護老人ホーム・介護老人保健施設でもなく療養病床でもなく、「在宅型施設」もしくは「施設型在宅」というべきでしょうが、高齢者生活福祉センターをつくって、そこに集中的にホームヘルパーを導入するやり方、これは確かに施設を簡単にもてない小さなところが知恵を使って発明したものだろうと思います。介護保険の次世代モデルとして、施設型介護ではなく、在宅型施設あるいは施設型在宅といったものを示唆するという意味で、大都市部からみても非常に興味深い感じがします。

ショートステイは利用料が多ければいいのかという問題があります。実際ショートステイの利用は介護保険にはいって激減したわけですが、10月、11月段階あるいは1月段階に入っても、それほど回復していないのです。本当にニーズがどこにあったのかみていくと、ショートステイを多用しているのは痴呆性高齢者の家族であって、実はロングステイ・ミドルステイも少なくなかった。介護保険では6か月単位で利用上限を作ったから、そこで非常に大きな問題が起きたということです。

杉本ショートステイも、実際に100人当たりの利用可能日数をベースにしていまして、措置の時代はほぼ大都市も地方も満杯状態というが地域の実態だったのです。そうするとキャパシティとして、実際にショートステイを利用できる日数が大都市と地方に大きな差があったということは事実なのです。大都市の高齢者が1年間に利用できる平均日数は地方の10分の1ぐらいで、大都市と地方を比べるとキャパシティが元々大きく異なっていたのです。ですから例えば、競争率の非常に高い1か月に数日の予約も難しい大都市と、ショートステイといいながら1か月のミドルステイまで十分可能な地域など、大都市と地方のキャパシティの差がかなり大きく出ています。

したがって、確かに政令指定都市・特別区のように大都市は偏差値が高くなりにくいという現実がありますが、ホームヘルプサービスで特に頑張っておられる大都市では、全体的な傾向としては平均あるいは平均以上の数字にはなんとかなってきているということもいえるのではないかと思っています。

池田:ショートステイの場合、東京が非常に特殊なんです。2000年3月の措置の時と介護保険が始まった4月の比較で、東京都の調査ではショートステイは1.94倍の伸びを示しています。これは東京だけなのです。神戸のような大都市でも激減しているという状況のなかで、東京の事例はどうも普遍化できない問題があります。

高橋東京の場合は、明らかに施設の絶対的不足、そしてなおかつ在宅ケアがきちんとシステム(仕組み)としてまだ整備しきれてないという問題があります。大都市でも、横浜などのいくつかの都市は例外的にそれなりにシステムになってきています。大都市のなかでも格差がありますが、これについては後ほど議論していただきます。


・介護保険制度の1年――行政オリエンテッドから市場(ニーズ)オリエンテッドに

高橋:・・・

山崎:この資料にも出ていますが、最終局面に自治体がサービスをかなり強化していますから、介護保険のスタート台会ではこれよりはるかに高い整備状況です。全般的にサービスの水準は高くなっています。それは在宅に限らず施設もそうなのですが、テールアップするからそういうサービス形態ができているわけです。そのうえで介護保険が実際にスタートしてから以降の話ですが、全般からいえば、サービス量は非常に伸びているわけです。そして、その伸び方が保険に変わった、本当にニーズ・オリエンテッドに変わったという面が強いですね。むしろ措置時代に行政として考えていたときは、いろいろ調査して前年度比いくらという予算で設定しますから劇的にかわるということはまずない。ところが介護保険ではニーズが非常に自由に現れているわけです。先ほどのショートステイについて話しましたが、デイサービスにこれだけのニーズが出てきて、ホームヘルプサービスのニーズも、訪問看護のニーズも、それぞれ相当大きな変化が起きているわけです。私は、その変化が制度上予定していたものであるかどうかというのは二の次の話であって、むしろその変化をどうとらえるかのほうが非常に大事だと思います。そういった面で行くと、変化は始まったばかりですが、これからさらにものすごい変化が起こってくると思います。都会には都会のニーズがあるでしょうし、地方には地方のニーズがある。そのニーズが今後さらにはっきりと表れてくる要素が出てくると思います。

・・・

高橋:そういう意味でいえば、それこそ市場オリエンテッドに変化したときに、自治体のスタンスがものすごく問われてくると思います。私は、措置型介護保険とそうでないかたちがあるように思うのです。とりわけ23区は措置型介護保険に近くなっていて、それはまた後で申し上げたいと思いますが、そういうことを含めて自治体の措置時代の格差とは違う意味での格差、地域ケア全体のマネジメント能力が相当はっきり現れているのではないかとおもっています。その点について池田さん、いかがでしょうか。

池田:いろいろな自治体を回って率直に感じるところですが、措置の時代に有名だったところ、よかったといわれていたところは介護保険になってから意外に伸びてないのです。これまで丸抱え方式でやってきたものを介護保険になっても引き続きやっており、住民が依存型になっている。新しいニーズがなかなか掘り起こせていないという傾向にあります。もう1つは、介護に関するニーズには、本人のニーズと家族のニーズの2つがあります。家族のニーズ――正確にはデマンドといった方がいいと思いますが――が優先されていると、基本的に施設偏重型となり、訪問系サービスは伸びません。本人のニーズをかなり重視しているところというのは、訪問系サービスが多くなります。介護保険が始まっておおむね1年経とうとしていますが、施設はほぼ満杯状況です療養病床が整備目標の60%ぐらいしか至っていませんから、給付費は低迷していますが、それはそれで悪いとは思いません。病院がなんでも受け入れるというのは、コストの面からQOLの面からも望ましいとはいえないからです。一方、デイサービスは計画目標値の150%ぐらいまでいっていますから、非常にたかいニーズを示している。ときおろが訪問系が意外に伸び悩んでいて、訪問看護は60%台、訪問介護は80%台にいくかどうかという状況です。その意味で市場が動き始めたけれどもその市場を動かしているニーズ、いや、デマンドというのが、どうも家族のほうに集中していて本人のニーズがまだ掘り起こされていないのではないかと思います。

高橋:そういう意味ではニーズを受け止めるアンテナというか、地域のアンテナ、そしてそれを誘導していくことが大切です。さしあたりは在宅介護支援センター、そしてそれをつなぐ介護支援戦も人の役割の格差、それをどういうかたちで地域において有効に組織しているかということが問題だと思います。

介護保険のこれからの動向、とりわけ在宅系と施設系、家族と本人という2つのベクトルがあってそれに医療と福祉というものが関わってくるかと思いますが、そのへんについて山崎さんにお願いします。


・量から質への介護サービスの変化

山崎:今の池田さんのお話に関係してくるのですが、最初はみんなが関心をもつのは量的な部分だと思うのです。サービス量がどう変化するかということです。それも相当変わってきているわけです。サービスの内容、どのサービスがどれだけ伸びたかということは分かっているのですが、もっと大きな問題は、同じホームヘルプサービスでも一体どんなサービスを行っているのか、それは家事援助とか身体介護ではなく、ホームヘルプサービスのなかで痴呆性高齢者はどんなサービスを求め、家族が同居している人はどんなことを求めているのかということです。デイサービスでも同じです。今までやってきたサービス累計よりもっと踏み込んだケアの内容が今非常に問われ始めているのです。

先ほどショートステイをたくさん使ったのは痴呆性高齢者を抱えている家族という話が出ましたが、そのなかにホームヘルプサービスと訪問看護が機能しないから代わりに使っているというケースもあります。したがって、さーびすについてはこれからさらにもっともっと大きな変動があり得ると思います。それは決してこれまでがおかしいとかおかしくないというのでなくて、初めていわばそういう本質に迫りつつあるところにきているわけです。逆にいうとそういう変化が今後明確にでてくるし、これをどうとらえるかということが大切だと思うのです。

予算より下回った、上回ったという話ではなく、一体何を我々は求められているかというケアの内容を国も市町村も謙虚にとらえ、どういうサービスを構築していくかをかんがえるのにはいい機会だと思うのです。介護保険というのは、いわばこれまでの措置を含めたものの集大成であるとともに、まったくあ他らしい世界の始まりなわけですから、これまで整備した分の成績評価という面もありますけれど、新しい第1学期が始まったみたいなものです。新しい年度に入ったら新しい気持ちで、みんなこれにどう取り組むか、それによって大きく世界が変わっていってもいいと思います。


・自治体が大きく変わるための条件

高橋:その意味で、自治体レベルで大化けするための条件というのは何なのでしょうか。

山崎:・・・

高橋:先ほど自治体のセンシティビティとおっしゃったのですが、その場合に、介護保険給付で委ねられる部分が市場原理で動いていくと、それから当然老人保健福祉と介護保険の給付外にある介護予防や生きがい活動などの、広い意味のさまざまな老人保健福祉の推進に自治体が果たす役割はなお非常に重要かと思いますが。

山崎:・・・

高橋:ありがとうございました。自治体のセンシティビティといったあたりについて杉本さんいかがでしょうか。


・介護保険後の自治体

杉本:介護保険スタート後の地域をみると、自治体のタイプによって大きく3つに分かれると思っているのです。1つは、自治体が相変わらずイニシアチブをとった自治体主導型の地域。2つ目は、その対極にある民間丸投げの地域。それから3つ目は、その折衷型の地域です。

自治体主導型というのも必ずしも今後はよくないですし、民間丸投げ型ももちろんよくないです。折衷案で自治体がある程度うまくコントロールしながら地域をつくっていく必要があると思います。それは介護保険だけではなく、保健のようにあいかわらずまだ措置的な部分も残っているサービスや医療を総合的にみて将来のビジョンを描いていくような自治体、そのなかで介護保険をどうセットしてどういうかたちでもっていくか、そういう自治体の姿、自治体というより地域の姿を描けるような自治体が必要なのではないでしょうか。

・・・

池田:武蔵野市のS係長という友人がいるのですが、彼が言っていたのは、自治体を「ジャングル型」「動物園型」「サファリパーク型」という分け方をしたのです。

「ジャングル型」というのは民間に100%依存していくというやり方です。「動物園型」というのは従来の措置型で、自治体が徹底的にコントロールする。その仲介的な折衷型というか複合型が「サファリパーク型」で、武蔵野市はサファリパーク型でいくんだと。これは先ほどの杉本さんの話にまさに当てはまるものです。

高橋:それはおもしろいモデルですね。

池田:いわゆる動物園型といわれるところは頑張っているのです。決して低い評価をするつもりはありません。ただ管理型になっているものですからどうしても自治体主導になる。事業者すらコントロールしようということ、これは介護保険制度では無理があります。やはり、だんだん変わっていくでしょう。ジャングル型というのは、滋賀に行ってびっくりしたのです。大津市などは、積極的に介護サービスの企業誘致を展開しました。滋賀というのは白紙のキャンバスなのです。ということは介護保険を一挙に持ち込むことができるのです。そういうところというのはすぐ様変わりし始めて、やっている人間もおもしろがってやっているのです。サファリパーク型は、例えば鷹巣町(秋田県)、高浜市(滋賀県)だったり、出雲市(島根県)もそうだと思うのです。ある程度、措置の時代に実力をもってやってきたところは、介護保険にはいって急に介護保険型に切り替えていくということが難しいのです高浜市は極めて高い水準にありますが、自分たちでやっている仕組みの最大の欠点が、社協一社独占だということで、これはまずいと気がついているわけです。しかし、今はそれでしかやりようがない。そういった意味で自治体によって措置の時代に積み上げてきたものの上に介護保険というものを乗せていく地域というのはパターンが違いますし、それはそれで当たり前だと思います。

高橋松山市(愛媛県)などおもしろいのは、措置の時代から医療法人に福祉をやらせてきた。しかも在宅ケアをやらせてきた。そうすると地域が変わり始めている。医療をどう地域医療型にしていくかという、これはかなり自覚的に戦略をもって誘導してこないとできません。その意味では、社会福祉法人はもしかしたらイノベーション能力ではかなり遅れをとるところがあるかもしれません。医療機関の方は保険の世界で生きてきましたから、クライエント指向になっていくことに慣れています。そういう意味では地域のサービス資源とサービス主体の性格をどういうふうに地域をマネジメントする自治体が見極めていくかというのが、ますますシビアに問われているなという感じがします。


・ニーズの反映に適した介護保険

高橋:サファリも広さ狭さ、草の生え方などいろいろなサファリがあるし、動物園も錆びた檻に閉じこめておくところとそうでないところがある。ただはっきりしているのは、つくづく保険でよかった、これからはっきいりいって金がなくなるわけですから税金がなくなってくるという時代のなかで、ニーズを反映させるようなセンシティブな仕掛けを作ったというところは、非常にいい政策選択だったということを改めて実感しています。

池田:私もそれは実感しています。その点からも、まさに自治体が正念場を迎えていると思います。介護は社会保険になってニーズが解法されたのだから、あとは自治体は金の出し入れでどちらかといえば介護保険外補完的福祉のほうで勝負すべきで、それが地方分権的なあり方だという人がいるのですが、私はそうは思いません。やはり介護保険の運営それ自身が極めて地方分権的であり、市町村の能力が問われていると考えます。

1年間をみていて非常に気になったのは、やはり家族のニーズが優先されて本人のニーズがそれほど大事にされていないということです。したあgって施設は満杯、デイサービスは突出、訪問系は停滞と、これをどうやって変えていくかというところの仕掛けがいるだろうと思います。この仕掛けをやっている自治体は結構あるのですがうまくいっていないのです。

市民からニーズを聞いてつくった事業計画も実施したら市民はそう動かなかったという現実もあります。そこの仕掛けをどうするかということで、これは変わっていくという山崎さんとまったく同じ意見で、しかもそのためのインセンティブというか仕掛けというのは3つぐらいあるのではないかと思います。

1つはコストです。コストがハッキリみえます。施設中心型になれば確実にコストを押し上げますから、したがって高知市は赤字です。徳島や北海道でも赤字がでてきている。これは施設依存、とりわけ療養病床が原因です。それが1つの自治体をかんがえる大きなきっかけになるだろうと思います。

2つ目は、新規利用者です。つまり措置制度のなかで、措置型の介護サービスを受けていた人たちを急にかえるというのは無理です。ところが新規利用者が介護保険が始まって30%、50%と増えていますから、この人たちは措置型サービスを知りませんので、そこにきっちりとしたプランというものを提供すれば定着していくはずです。そのときに最もキーパーソンになるのがケアマネージャーです。したがって自治体は現段階においてはケアプランのチェックをする必要があります。ケアプランに関する批評家でなければならないということです。そこでちゃんとしたケアプランを作れば、従前からの祖師利用者を大きく変えることは無理ですが、新規利用者を大きく変えることは可能です。

3つ目は、これからは必然的に新規利用者ばかりになるのです。要介護認定を受けた人の8割以上は75歳以上の後期高齢者です。3年以内に半分は入れ替わります。そこで大激変が起きなければいけないと思っています。今までの従前の措置利用者に対しては限界がありますから、自治体は新規利用者に対するスタンスを戦略的にうつ、そうするとその自治体は大きく変わると思うのです。


・行政はケアプランのチェックを

高橋:今おっしゃったポイントはケアプランのチェックということになりますが、これは先ほどの東京問題にも関係するのですが、介護保険の運用を行う側の主体的力量の問題が、介護保険1年でずいぶん出てきたのではないかと思います。それは今までの公務員の人事原則ではやれない、そのへんを逆にいうと人事権者が見極めるかという問題にすらなっていて、松山市は私がいつも紹介するところですが、継続的行政が組織的に行われています。調査員は完全に社会福祉協議会に委託してすべて情報をとるという仕掛けになっていて、あとはむしろ自由化するという路線でやっているのですが、継続的にそういうことをやれる自治体の主要な条件はなんだろうかと。

池田:地方自治体の職員は、私が考えた以上に優秀でした。それを介護保険が立証してくれたと思うのです。カリスマ職員なんていうのも族生してきておりますし、例えば稲城市などは一人の保健婦が稲城市のケアプラン全部に目を通すという神業のようなことをやっているわけです。人事政策からみていくと、従来から福祉を担当していた、いわゆる福祉型職員が引き続き担当している場合は措置の殻を破りにくい。ところが介護保険は大きな変動ですから、基本的に企画や財政あるいは土木などの部署から優秀な職員を引っ張ってくるという地方自治体が結構あるのです。そうするとその人たちが従来の福祉の殻をうち破ってうまく展開してくるというケースがあると思います。

もう1つは、評価をする人間がいるかいないかです。必ずしも市の職員ではなく、第三者でもいいのですが、そういうことができる人間がいるかどうか、うまく使いこなすかどうかということがおおきいことじゃないかなという気がします。


・在宅ケアの課題

高橋:もう1つ、在宅ケアの問題があります。かねがね私の感じでは「これが在宅ケアだ」ということに関する共通了解が決定的に欠けています。施設については、施設ケアはこういうものだというものがありますが、それに対して在宅ケアとはどういうものか、とりわけ、要介護レベルの高い要介護者でも在宅でこれだけのことができるという了解が一般化していません。これは本来ケアマネージャーがケアプランを通じて家族にみせていくということが重要だと思うのですが、そのへんをどう打開していくかという課題があると思うのです。

池田:民間事業者が訪問介護に参入して、結構争奪戦が起きているわけですが、基本的に黒字になっているところと赤字が続いているところのどこに違いがあるかというと、実は黒字になっているところはケアプラン作成をていねいにやっているのです。赤字になっているところというのは、基本的に顧客、その多くは家族ですが、家族の言うデマンドを聞いて、サービスを要求されたプランに落としていくだけなのです。だから非常に簡単にできる、この人たちに7,000円の介護報酬を払っていいのだろうかという気がするわけです。

ところがきちんとやっているところは、完全なアセスメントをやってきちんとケアプランをつくっています。本人の生活リズムをきちんと押さえてケアプランを作っていくと、これはいわゆるスポット型訪問介護中心になっていくわけです。プランをつくった後に、今度はそれぞれ個別のサービスについて、何をやっていくかという手順書をつくっているのです。これらを全部やりますと1人あたり8時間から10時間かかります。そんなものに7,000円しかもらえないわけですから、完全に赤字ですけれどもそこに大変力を入れている。そこに力をかけると何が起きるか。ずさんなケアプランだと、家事援助優先になって介護報酬は赤字になるのですが、きちんとしたケアプランをつくった場合は結構高い報酬につながっていくのです。これが結局高い報酬につながっていくのです。これが結局黒字の秘密なのです。そういった意味で、粗製濫造、多売方式の在宅サービスのケアプランをやっているところはあまりうまくいかない。難しいなと思うのは、ケアプランの作成プロセス、手順書の書き方などは事業者にとっては企業秘密なので、それを業界全体に標準化いくことができないのです。標準化を民間事業者の自発性だけに委ねるのはむりがあります。そこに行政の役割がでてきます。行政がケアプラン作成の過程をきちんと評価するだけでなく実践させていく、それが黒字につながっていくという流れをつくって運営していくことが求められるという感じがします。

高橋:・・・


・1930年代生まれの新規応介護高齢者がカギ

池田:現在要介護認定を受けておられる方は75歳以上が8割以上です。後期高齢者というのは1920年代生まれなのです。ということは敗戦時点で成人になっていて、戦争と敗戦後の窮乏生活を経験されている方です。それから国民皆年金になったのは1961(昭和36)年ですから、その時点で40歳近い。そうすると受給年齢まで20年、25年しかありませんから、特に自営業の方々は年金もそれほど高くない。したがって生活はつましい、率直にいうとケチです。それからバリアだらけの住宅をつくることにものすごく努力してきたわけですから、そこから離れられない。そういったさまざまな問題があるのです。ですからそういった意味では、かなり措置的な要素を入れて介護保険を適用していくということは残念ながら避けられないのです。

その次の世代というのは1930年代、これから新規参入してくる人たちです。この人たちは男性でいえば石原慎太郎、女性でいえば樋口恵子さんです。この世代は、年金水準はかなり成熟していますから、厚生年金なら20万円を超えます。預貯金は2,000万以上という人がざらになります。この世代の新規利用者がでてくると、ここでニーズぐっと上がってくるし本人のニーズが前に出てくる。それが1つ大きなことでしょう。それをどうやってうまくシステムに組み込んでいくかが重要だと思います。

もう1つは、痴呆性ケアにほとんど方法論がないということです。今のところデイサービスしかないのです。ある調査をみますと、痴呆性高齢者で在宅サービスを一番沢山利用しているのは要介護3の方です。要介護1、2、3の痴呆性高齢者はデイサービスの利用に集中しています。ホームヘルプサービスはほとんどありません要介護4、5になるとホームヘルプサービスが出てくるのですが、これはADLが落ちてきているということだろうと思うのです。ショートステイは2割ぐらいの人がミドルあるいはロングを使っているという構造になっています。したがって家族の負担をいかに和らげるかというところにしか目がいっていないのです。これを次にどのようにしていくか、、グループホームが出てきたのですが、それだけで済むわけではないし、痴呆性高齢者の在宅ケアとは何かということを早急に開発し、標準化していくということです。これが介護保険を大きく伸ばす重要なポイントになると思います。

3つ目は、さっき言った施設型在宅あるいは在宅型施設の開発です。基本的に施設というのは、ホテルコストのほとんどを保険給付してくれますので安井あkらみんな行きたがるのは当たり前です。だけどホテルコストをきちんと取って在宅サービスができるケアつき住宅、これが次世代モデルになると思うのです。

これらをきちんと進めていってそこに1930年代生まれの人たちが乗ってくれば、すごく大きな伸び方をする。それができるかどうかでしょう。


・工夫している地域介護力の高い自治体

杉本:昨年から、この地域介護力をもとに上位の市町村をかなりいろいろ回ってきています。先ほど高橋先生のおっしゃっていた里村もそうですが、高いところは高いなりに、やはり自治体が工夫しているのです。財政的に厳しいなかで、地域というものの特徴を生かしながらその地域独特のケアを考えて、そういう仕組みをうまくつくっているというのが感じられます。もちろん日本には医療の強い地域、福祉の強い地域、それぞればらばらにありますから、今いきなり介護保険が導入されたから今までの地域の長所という意味での特徴を生かさずに、介護保険に合わせてガラッと変えてしまうということをやった地域はうまくいかないと思うのです。将来的には標準的な介護保険のパターンというのがあり、そこに近づけていくのでしょうが、しばらく今までの長所をうまく生かしながら、いきなりやるのではなく、今は少ない予算を効率的に活用するために、地域の良いところを生かしながら少しずつ介護保険の本来のかたちに近づけていくということが必要です。やはり時間をかけて長い眼でみということが大切です。


・ディスクロージャーと介護保険

・介護保険下での統計

池田:・・・

高橋:・・・

杉本:・・・

先ほどサファリパーク型といわれましたが、松山市でお話しを伺ったのですが、松山市は動物園型でやってきましたので民間事業者が参入しにくい地域です。行政はサファリパーク型にしていこうとして民間にどんどん来てくださいという姿勢で、民間と複合してやっていこうとしているのですが、結果的になかなかサービスが結びつかないというジレンマがあるようです。

それと措置の時代に非常に介護サービスが整備されたところは、逆に今度介護保険になってこの数字が落ちるのではないかという恐れをもっている地域がいくつかあります。私どもの地域介護力事態も、措置の時代が終わって新しく介護保険下でどういうデータをとったらいいかということを模索しています。おっしゃっているようにオープンにされる市町村別の統計データ、それに住民側からの満足度みたいなものがとれないだろうかということで、供給側、ニーズ側の両方からの合わせたデータで地域を評価するということが将来できたらいいのかなと考えている状況です。

高橋:ほかに補足があればご発言いただきたいと思います。


・難しい要介護者の満足度調査

・介護保険はIT革命

・大都市の問題点

最後に大都市問題ですが、これから大都市圏で高齢者が増えます。介護保険というのは兼ねてから大都市対策以外の何ものでもないと思っていたのですが、実際歩いてみると大都市ほど介護保険にセンシティブでないという印象があって、そのギャップをこれからどのように克服していくのかが問題です。「東京は特別だ」という議論もあるのですが、東京問題というものを考えざるを得ない。東京はやはりある種のモデルであり続けると思います。そこらへんの大都市問題としての介護問題を、これからどのように読んでいったらいいのかご意見をお願いします。

山崎:東京都とそれ以外では違うものではないすか。確かに「東京問題」というものがあるかもしれません。

高橋:東京問題ですが、実は東京が高齢者人口の1割を占めていますね。完全に東京がある意味では問題地域になってきています。私は東京都の審議会でいつもこのことについて発言をしているのですが。

山崎:大都市には、商店街などをもった、まだ人のつながりのある地域と、同じ年齢層が集まっているために一気に高齢化が進んでしまう人工的な団地のような地域があります。大都市の郊外、いわゆる団地が問題です。これは今からどう変化するかを考えるとそら恐ろしいような気がします。

高橋:その意味では、介護保険と地域づくりと高齢者ケアのための基盤整備を同時進行しなくてはいけないと思います。

山崎:私のイメージからいうと、国の政策というのは、国全体の人口ピラミッドに沿ってつくるわけです。そのときに、人口ピラミッドが歪んでいる市町村はどうしても話が合わないわけです。ですから平均的でないところは一体どうするか、というのは極めて重要な問題です。若い人間がいっぱいいるところも同じかもしれません。人口ピラミッドが外れたところをどうするかというのは国の政策でもありますが、やはり市町村が非常に問われるところでしょう。

高橋:・・・

山崎:・・・


・施設の少ないことをメリットに

池田:皮肉にも大都市では、施設があまりないということが結果的に財産になると思うのです。そこに特別養護老人ホーム、介護老人保健施設を立てるという戦略をとるのは、コスト的にはQOLからも望ましいものではない。したがって重要なのは、先ほども言ったように在宅型施設、施設型在宅というものに着目するということ、その場合やはり民間の力を十分に借りるべきだと思うのです。

50歳代、60歳代の人たちに聞くと、食事代を含めてホてえるコストが14万~17万ぐらいだったらそちらへ行くという人がほとんどです。そのくらいの設計といったものも大都市でするのが非常に重要だろうと思います。

もう1つは、ひょっとしたらコミュニティというものが大都市で甦るかもしれないということです。デイサービスを拠点にしたコミュニティづくりのようなものを行政としてどう仕掛け、進めていけるか、特に大都市ではデイサービスをする場所(ハード)がないですから、このハードについて公設民営化を含めて考える必要があります

高橋:現にグループホームのかなりの部分は社員寮だとか今までの若者向け施設の転用です。怪しげなものもありますが、大都市高齢化の行く末を十分読みながら、遊休資産を活用できるような仕組みで介護サービスを整備していく必要があります。そういう意味では、東京はおっしゃったとおり施設がないことをメリットに戦略を考えることと、もう1つは小規模化したケアハウスというようなことが現実になれば、大都市のケアの切り札になるかもしれないという感じがします。

杉本:大都市問題については、施設をむやみにつくるというのは今後無理があります。一時的に確かに高齢者は増えますが、さらに先の将来にはその箱モノが残っていって今度は高齢者が減ってくる時期が来るわけで、そのときに、建設した施設の箱モノが残っていて余るような状況が発生します。その意味で、介護保険の在宅主導というのはやはり正しい将来像なんだろうと思っています。

もちろん東京のような地域では、今後もある程度の施設は新設は必要です。大都市の場合、一時的に施設が足りなくなると思います。実は私の母がアルツハイマーで現在有料老人ホームに入っているのですが、在宅での介護が難しくなって、2年前に江戸川区役所に相談に行ったときに、特別養護老人ホームの入所まで3年待ちという状況がありました。そういうなかで探したのが有料老人ホームです。現実に有料老人ホームで毎月のコストはかなり高くつきます。けれども、もう父が亡くなっているものですから遺族年金・国民年金プラス少しの持ち出しでなんとかいけている。なおかつそこが介護保険の指定介護老人福祉施設に認定されていますので、介護に関する費用負担は月に数万円で済んでいることを考えると、今後先ほどおっしゃっていたケアハウスやグループホーム、有料老人ホームその他いろいろな施設サービスを複合的にうまく活用して、地域の資源を有効に活かすというやり方が大都市では求められるのだろうと思います。


・大都市もユニット化できめ細かいケアを

杉本:それから、先ほどのコミュニティに話については、今全国を回ってみると、大体3万~5万人くらいのユニットでうまくいっている地域が多いのです。そうすると大都市もやはりそのくらいか、多くても10万人以下の地域で、顔の見える範囲にユニット化したかたちでのケア提供というのが求められるのではないかと思います。こうした事例が大都市での地域ケアをうまく活かせるためのスタンダード化した事例としていけるのではないかという気がしています。

高橋:そうですね。先ほどの話ではないですが、先駆的事例というのは、典型的には長期ケアの特質に理解のあるお医者さんが主導して町長を動かして、国保直営診療所と連携し、福祉と統合して一体的に地域ケアを進めていくというモデルがありました。今起こり始めているのは3万人ぐらいのところでユニット化し、保健・医療・福祉の多元的なサービスを入れていってそこでコーディネートしていくというモデルがある。その次にさまざまな地域のインフラというか、そういうものを見通しながらそれを機能的に活用していくという段階が続くように思います。先ほどの痴呆性の高齢者問題をどうブレイクスルーするかというのは恐らく一番大きな最後に残る問題だと思います。スウェーデンもデンマークもあれだけコストをかけて解決していないのですから。逆にいうとそのことはこれからの大きなチャレンジといったテーマということになりますが、それも施設での対応だけでは、恐らく量的にも、コスト的にもオーバーブローするわけだから、どれだけ在宅ケアの仕組みを開発していくかということが最重要の課題になります。それを主導するのは先ほどの議論は役場丸抱えでもない、民間丸投げでもない地域ケアマネジメントの体制をどうつくっていくかという課題です。

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