『科学とモデル : シミュレーションの哲学入門』 マイケル・ワイスバーグ著

一応、科学者にも向けて書かれているようだが、実際は科学哲学に興味がある人しか面白くないと思う。その理由は、役者が解説しているように規範的な議論が弱いから。科学の現状分析が主なので、それを実践している人にとっては、自己反省の機会にはなるが、あまり自分たちのやり方を改善させることにはつながりにくい。特に4章の科学のがフィクションかどうかとかいう話は、分かりにくい上にどうでも良い気がしてならない。

ただ、科学哲学に興味がある人にとっては良い本だと思う。訳者が挙げている下記の特徴は望ましいものだと思う。

(1)広範な科学のモデル、モデリングがカバーされていること

(2)主要な哲学的議論との関係が明確に述べられていること

特に自分の様にファイヤアーベントの「何でもあり」で議論が止まっていた人間にとっては非常に勉強になった。

ただ、著者の立場に多少疑問も残る。確かに科学に対して安易に規範的な議論を持ち込むことは問題だが、それを止めてしまって良いものだろうか。もちろん、「実際に科学者が行っていること(科学者の認識)を哲学的に整理する」こともそれなりの重要性を持つのだろうが、現実の科学の側へのリターンがない。

◆目次

序 文

第1章 はじめに
    1 水をめぐる2つの難問
    2 モデリングのモデル

第2章 3つの種類のモデル
    1 具象モデル —— サンフランシスコ湾-デルタ地帯モデル
    2 数理モデル —— ロトカ-ヴォルテラモデル
    3 数値計算モデル —— シェリングの人種分離モデル
    4 これらのモデルに共通する特徴
    5 モデルは3種類だけか?
    6 モデルは3種類よりも少ないか?

第3章 モデルの構成
    1 構 造
    2 モデル記述
    3 解 釈
    4 構造の表現能力

第4章 フィクションと慣習的存在論
    1 数理構造中心説に反対して —— 個別化、因果、額面通りの実践、という問題
    2 シンプルなフィクション的説明
    3 シンプルな説を強化する
    4 なぜ私はフィクション主義者ではないのか
    5 慣習的存在論
    6 数学、解釈、および慣習的存在論

第5章 対象指向型モデリング
    1 モデルの作り上げ
    2 モデルの分析
    3 モデルと対象の比較

第6章 理想化
    1 3つの種類の理想化
    2 表現的理想と忠実度基準
    3 理想化と表現的理想
    4 理想化と対象指向型モデリング

第7章 特定の対象なしのモデリング
    1 汎化モデリング
    2 仮説的モデリング
    3 対象なしモデリング
    4 揺れ動く対象 —— 3つの性の生物学

第8章 類似性の説明
    1 モデル-世界間関係に必要なこと
    2 モデル理論的説明
    3 類似性
    4 トヴェルスキーの対照的説明
    5 属性とメカニズム
    6 特徴集合、解釈、対象システム
    7 モデリングの目的と重みづけのパラメータ
    8 重みづけ関数と背景理論
    9 必要事項を満たす

第9章 ロバスト分析と理想化
    1 ロバストネスに関する議論 —— レヴィンズとウィムサット
    2 ロバスト条件を見つける
    3 3種類のロバストネス
    4 ロバストネスと確証

第10章 終わりに —— モデリングという行為

 訳者解説
 参考文献
 注
 索 引

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