『ミサイルの科学:現代戦に不可欠な誘導弾の秘密に迫る』かのよしのり著、サイエンス・アイ新書、2016
はじめに
「ミサイル戦争の時代」ということが言われます。実際はミサイル撃ち合いだけで戦争の勝敗が決まるようことありませが、しかし近代戦に不可欠の要素ではあります。
さて、軍事政治重要な一部であり軍事知識なしに国際政治、国家の生存戦略も語れるものではありません。ところが日本には、この不可欠の知識が欠落ています。1980年代、冷戦時代のことですが、ヨーロの首脳日本首相が会談たとき「SS-20」と言わて、SS-20が何のことわからなかっ、ということがありた。SS-20はソ連中距離弾道ミサイル(IRBM)です。政治失格です、20世紀後半の日本の政治家は政治家と呼ぶ値しないよう者ばかりでした。しかし、政治家がそうであったというの、それを選ぶ国民が平和ボケし、また主権者としての自覚もなかったからでしょう。
民主主義国家の国民は、国家の主権者です。例えていうなら、国民ひとりひとが王様か大統領のようなものです。自分が国のあるじ、「朕は国家なり」です。自分が政治を行う主体なのです。しかし現実において、国民全員が大統領になり、一般産業分野で働く人がいなかったら社会は成り立ちませんから、それぞれ分業して経済活動をしています。国民全員で国会に行くわけにもいきませんから、誰かを代わりに国会へ送り、誰かを代わりに首相にしています。ですが、それは自分の代わりにやらせているのであって、主体は自分なのです。
そこで国民は、「この国をどう運営していくか」ということを考えなければなりませんが、国の政治を考えるとき、軍事は政治と不可分一体の重要な一部です。軍事知識なくして首相も大統領も務まりません。ということは、軍事知識がなくては有権者失格です。国民は軍事知識を持たねばなりません。とはいうものの、多くの人は「軍事知識を持たねばなりません」と言われても困ってしまうでしょう。どんな本を読んで勉強すればいいのか? 世間でよく見かける、いわゆる「兵器マニア」の知識は必要ありません。国家の主権者として心得ておくべき軍事知識は、兵器のメカやカタログスペックなどではなく、戦略レベルの、なかば政治の話です。世間の軽薄な「軍事オタク」と呼ばれている人たちの多くは、実はそうした国家の主権者として必要な戦略レベルの知識は持っていません。
そうはいうものの、現実の軍事行動には兵器が決定的役割を果たすのも事実です。マニアっぽく兵器のメカを知る必要もありませんが、80年代の日本の某首相が「SS-20」と聞いて何のことかわからなかったように、「DF-21」とか「弾頭はMIRV」と聞いて何のことかわからないのでは困ります。ハードウェアの知識もある程度なければ、国の防衛について語るとき、とんちんかんなことを発言してしまいかねません。そこで筆者は、国民の皆さんに国家の主権者として必要な軍事知識を解説する、やさしい軍事図書を書いていこうと思います。この「ミサイルの科学」もその一部です。
とはいえこの本を読んで、「では、試験をします。75点以上取れなかった人は選挙権を持つ資格はありませんよ」などと言うことはありません。それほど覚えていなくても、一度読んで、なんとなく頭の片隅にあり、必要に応じて「そういえば、あの本に書いてあったな」と本書を開いてみる、という程度でよいのです。
さて、この本はミサイルの基礎知識について解説しますが、ミサイルでない自由ロケットや誘導爆弾、誘導砲弾といったミサイルの「親戚」のようなものについても言及します。ミサイル(Missile)という英語は、ラテン語の「投射物」から来ています。つまり、もともとの意味は矢、石つぶて、銃砲弾など、誘導装置を持たないものでも、とにかく敵に向かって飛ばすものは何でもミサイルだったわけです。誘導装置の付いたものは「Guided missile (GM)」と呼ばれていました。しかし現在では、広く投射物全般を意味する英単語としては「projectile」が使われ、ミサイルといえば推進力を持った誘導弾のことになっています。
とはいえ、例えばロシアのフロッグミサイルのように、実は誘導弾ではない自由ロケットもミサイルと呼ばれることがあります。また、砲弾や航空機から投下される爆弾に誘導装置を付けたものもあります。推進力を持たないので狭義にはミサイルではありませんが、戦術的用法としてはミサイルと同じです。ですから、ミサイル関連の軍事知識として、そうしたものも含めて幅広く解説することにしました。2016年3月かのよしのり
著者プロフィール
かのよしのり
1950年生まれ。自衛隊霞ヶ浦航空学校出身。北部方面隊勤務後、武器補給処技術課研究班勤務。2004年、定年退官。著書に「拳銃の科学」「重火器の科学』『狙撃の科学』『銃の科学」(サイエンス・アイ新書)、『鉄砲撃って100!」「スナイパー入門』(光人社)、『自衛隊vs中国軍」(宝島社)、『自衛隊89式小銃」「中国軍vs自衛隊」(並木書房)などがある。
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