【会津地域で活躍する人・団体レポート①】セイコーエプソン株式会社 DXイノベーションラボ会津
福島県会津地方北東部に位置する人口約3,400人の小さな町、福島県耶麻郡磐梯町。
日本百名山の一つである「磐梯山」や名水百選に選ばれた「磐梯西山麓湧水群」を有する自然豊かな土地である一方で、デジタル変革への積極的な取り組みは全国的にも注目を集めています。
さらに磐梯町をはじめとする会津地域では、地域のデジタル化も盛んです。「磐梯町テレワーク」noteでは、都市部企業等の実践レポートだけではなく、会津地域で活躍する人・団体等も紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、AiCTにサテライトオフィスを設け、LivingAnywhere Commons会津磐梯もイベント等でご利用いただいているセイコーエプソン株式会(以下、エプソン)のDXイノベーションラボ会津センター長の中見さんです。
エプソンは会津地域に拠点を設け、新しい商品の開発だけでなく、地域や異業種の企業等と連携したプロジェクトを実施しています。今回、会津地域に拠点を設け、地域と共創に力を入れている先輩企業としてお話を伺いました。
会津オフィスでやっていること
ーー具体的にはどのような取り組みを行っているのですか?
中見さん:エプソンの主な事業は「プリンティングソリューションズ(例:プリンター等)」、「ビジュアルコミュニケーション(プロジェクター等)」、「ウエアラブル・産業プロダクツ(時計、ロボット等)」になります。
市場は日本だけではありません。世界を欧・米・アジアパシフィック・日本に分けて、そのエリアに合わせた商品の開発等を行なっています。会津オフィスでは、会津発のサービスをグローバルネットワークで販売していく試みを行っています。
今、コロナによって働き方、学び方も大きく変わりつつあります。
サテライトオフィスや自宅でのテレワークなども増えている中で、エプソンでは、デジタルの技術で分散化に対応しながら、コミュニケーションやつながりを活性できるようなプロダクトの開発などを進めています。
プリンティングソリューションで言えば、遠隔でプリントやスキャンできるサービスを。
ビジュアルコミュニケーションでいえば、海外なども含めて遠隔地と臨場感を持ってオンラインで会議等ができるように、全身を使って等身大でコミュニケーションが伝わるようなプロダクト開発などに取り組んでいます。
セイコーエプソンが会津地域に設けたきっかけ
ーーセイコーエプソンがAiCTに拠点を設けたのは、2020年7月。コロナ禍のことのことですが、なぜこの時期にAiCTへの入居を決断されたのですか?
中見さん:エプソンでは、コロナ禍によって、「家・地域が」が「働く」「学ぶ」「遊ぶ」など様々な行動が起きる場所に変化すると考え、家が重要な活動の場になることを予測。家を起点として「15分生活圏」で自己完結性の高い地域をつくることを「リアル補強」「デジタル拡張」の組み合わせでリアルとバーチャルの両方でつないでいける未来を見据え、「スマートホーム」というコンセプトを打ち出しました。
2021年8月、会津のスマートシティ構想に、このスマートホーム領域も追加されました。今後、エプソンだけではなく他の企業等とも連携し、つながる暮らし、家まるごとIoTなど、日々の暮らしをスマートにしてアップデートしていくことにつなげられるようなことにもチャレンジしていきたいと考えています。AiCTは地域や他の入居企業との共創もできる場であると、先に入居していた企業の方に紹介いただいて入居を決めました。
地域との共創
ーー事業活動だけではなく、会津地域との共創プロジェクトも積極的に行なっていると伺っているのですが、具体的にはどのようなことに取り組んでいるのですか?
中見さん:
① DXイノベーションラボ会津のオフィスづくり
会津短期大学産業情報科デザイン情報コースと連携し、AiCTのエプソンオフィス「DXイノベーションラボ」のデザインを手掛けました。スマートシティ、スーパーシティ構想のもと、地元の大学等とも連携し、エプソンのプロジェクターなども活用して分散したオフィス環境においても、バーチャルながら臨場感溢れる一つのチームとして仕事ができる環境を整備しました。
②デジタルとリアルを組み合わせた社会学習・交流学習
コロナ禍は、働き方だけでなく、子供たちの学び方も大きく変えました。
これまでは地域の企業への職業体験なども当たり前のようにありましたが、それらも自粛。
そこで、学校間交流とバーチャルAiCT企業訪問を掛け合わせた企画を、会津5市町村の中学生250名を対象に実施しました。オフィス見学や企業の働き方などの紹介、生徒とのインタラクティブな交流も生まれました。会津地域と言ってもAiCTまで車で1時間以上かかる中学校もあるため、新たな形でキャリア教育の支援をしていければと思っています。
この取組は、AiCTや学校との連携だけでなく、企業間の交流・共創も生み出しています。エプソンはプロジェクター=映像の出力に関するプロダクトを持っていますが、映像を映し出すには「入力」も重要です。 そこでカメラは磐梯町にカメラレンズ工場を持っているSIGMA社に協力いただき、臨場感溢れる映像を子どもたちに届けました。
③首都圏とつなぎ、文化・暮らしの魅力を発信
会津若松市だけではなく、会津地域内の市町村とも連携を進めています。例えば、2021年10月には、JR東日本が手がけるフードラボKDCに西会津町の食材や料理の出展支援をおこないました。
KDCにプロジェクターを設置し、西会津町と東京を空間接続し、等身大かつリアルコミュニケーションで会津の風景や暮らしを東京で体験できる演出をおこないました。
磐梯町にも2021年6月にオープンしたスーパーのコミュニティスペースに、プロジェクターとスクリーンを導入いただいたので、今後一緒に活用を考えていきたいですね。
地域と共創を実現させる2つの秘訣
ーー自治体、学校、地元企業等、地域の様々な方と共創プロジェクトを行なっていらっしゃいますが、地域とのプロジェクトを実現させ秘訣をお教えいただけないでしょうか?
① インサイダー=地域の人になる
中見さん:私は2020年に会津若松市に単身移住し、翌年の2021年6月には家族も会津若松に移住しました。他にもセイコーエプソンから2名、エプソン販売から2名が会津若松市に移住し、会津の地域に密着しながら事業を行なっています。
AiCTに入居したばかりのころは、会津地域になんのコネクションもなく、最初の頃はAiCTのアドバイザーだった藤井靖史さん(現西会津町CDO兼磐梯町のばんだい振興公社専務理事)や、会津大学の卒業生でありIT企業を立ち上げAiCTに入居する株式会社デザイニウムの代表の前田諭志さんなどのつながりのなかで、地域とのつながりをつくっていきました。
セイコーエプソンは長野県に本社があり、その地域に根差すことの重要性を感じていました。出張で来ている方もいるけれど、移住して生活の拠点を移すことで本気度が伝わります。なので、実際に住んで地域の人になることが大事だと思い移住しました。今では地域の方のコーディネートなしに地域のみなさんとつながり、直接プロジェクトの共創を行なうことができています。
②基本は断らない
中見さん:また、企業としては事業を行うために拠点を設けているので、売り上げを意識はしなくてはいけないのですが、まずは関係ないなと思っていても、話をしてみることは大事です。来るもの拒まず、繋がっていことが大切です。「インサイダー=地域の人になる」にもにも関連しますが、実際の地域で生活している以上、単純にできませんと区切ることは難しいです。企業としてではなく、自分として何かできることが小さくてもあるので、基本は断らないようにしています。そこからビジネスにつながっていくこともあります。
地域で拠点を設けて共創することで生まれた価値
ーー会津地域に拠点を設けて良かったと思う点を教えてください。
中見さん:メーカーはプロダクトをつくるところまでなので、これまでユーザー(消費者)とダイレクトに、リアルでつながるようなことはありませんでした。 今回、会津地域の子どもたちや働く人などとつながることで、自社のプロダクトがどんなふうに使われているかを知ることができています。これは非常に大きな価値です。実際に、長野県の本社の人が会津にきて、一緒に学校等に訪問すると、それを感じてもらうことができます。ユーザーとつながり、ともに取り組めることができる環境が会津にはある。そこに大きな価値を感じています。
スマートホームの構想・実証実験なども含めて、住民、学校、自治体、そして新たな関係人口のみなさんともつながっていきたいと語る中見さん。
ぜひ磐梯町でも引き続き共創につなげていければと思います!
プロフィール
中見 至宏さん
セイコーエプソン株式会社
P事業戦略推進部 DXイノベーションラボ会津 センター長
神戸大院修了後、セイコーエプソン入社。デジタル画像処理エンジニアとしてデジタルカメラ、フォトプリンターの開発に従事。2005年、カナダ・ヨーク大シューリック経営大学院(MBA)修了後、電子ペーパーやコマーシャル・インダストリアル用インクジェットの新規事業開発を経て、2020年、新設された会津若松AiCTセンター長に就任。教育やビジネス、健康などの分野において、デジタル技術で毎日の暮らしを便利で快適にするサービス、ソリューションの開発に取り組んでいる。
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