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多様な“つながり”戦略でまちづくりに取り組む「磐梯町」でスタディーツアーを開催 一般社団法人 熱意ある地方創生ベンチャー連合インタビュー

福島県会津地方北東部に位置する人口約3,400人の小さな町、福島県耶麻郡磐梯町。

日本百名山の一つである「磐梯山」や名水百選に選ばれた「磐梯西山麓湧水群」を有する自然豊かな土地である一方で、デジタル変革への積極的な取り組みは全国的にも注目を集めています。

さらに磐梯町をはじめとする会津地域では、地域のデジタル化も盛んです。磐梯町に隣接する会津若松市ではICT(情報通信情報)を活用する産業創出・人材育成を狙う「スマートシティ会津若松」を推進。地方創生のモデル都市としてICTを使った実証実験や課題解決に取り組んでいます。

そんな会津地域の取り組みに注目し、2021年11月に磐梯町をはじめ、会津地域でスタディーツアーを企画したのが一般社団法人「熱意ある地方創生ベンチャー連合 」の事務局長・土井隆さんです。

地方の課題解決を目指す会員企業・関係企業らと共に、新たな連携を生み出す「場」として開催した今回のスタディーツアー。現地のキーパーソンを講師にした勉強会や地域での体験を通して実感した会津地域や磐梯町の魅力をうかがいました。

スタディーツアー開催地に「磐梯町をはじめ、会津地域」を選んだ経緯とは?

今回「磐梯町をはじめ、会津地域」でスタディーツアーを開催した目的や経緯はどのようなものだったのでしょうか。

土井さん:そもそも我々の団体は、「自治体とベンチャー企業の架け橋になる」をミッションに地域課題を解決し、持続可能な地域経済への貢献を目的に設立されました。そのなかで60社以上もの会員企業様とともに、地域と連携を深められるような「場」としてスタディーツアーを企画しています。

この度磐梯町をはじめとする会津地域での開催となったのは、「教育」を起点に地方創生に取り組んでいらっしゃる方からのご紹介でした。
磐梯町を含む会津地域は産官学連携の先進的なまちづくりへの取り組みやDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進など、全国的にも先進事例を持つ地域です。企業と地域との関わりをつくる「受け皿」があるのではないかというアドバイスがきっかけとなり、スタディーツアー開催に動き出しました。それで2020年に視察として磐梯町を訪れてみたところ、私自身が非常に楽しかったんです。行政に民間企業の人材が参画していたり、それぞれ多彩な人材がフラットな立場でお仕事をされている「場」があり、非常に可能性を感じました。全国のフリーランスないし企業の方々がリモートワーク環境として活用されているケースも多く、さらにITの分野での先進的な動きも非常に学びが多かったですね。それでぜひとも会員企業様とともに磐梯町をはじめとする会津地域での取り組みを体験したいと思い、2021年11月に1泊2日のスタディーツアーを開催しました。今回参加されたのは総勢12名。地域でITの取り組みを行う大手ITベンチャーの方や自治体の広報を請け負う団体の方など多彩な顔ぶれでした。

今回はスタディーツアーの拠点として磐梯町にある(株)LIFULLが運営する宿泊施設付きコミュニティスペース「Living Anywhere Commons会津磐梯」(以下、LAC)に滞在されたとのこと。数ある企業研修施設や宿泊施設のなかでも、なぜLACだったのでしょうか。

土井さん:視察の段階で「LACに滞在することで地域の取り組みがわかるよ」とご紹介いただいたのがきっかけでした。近隣にコテージやホテルもあるのですが、やはり我々のような団体としては、地域の方たちとの交流や自治体の方との取り組みを考える上で、地域課題について語りあったり、地域について知らなかった情報を得られたりするLACのような場所は貴重な存在です。LACのコミュニティマネージャーが会員や利用者同士の関係、地域との交流をオーガナイズしてくれるので、関係性を築きやすいというのも大きいですね。さらに地域のクリエイターや活動家、会社経営者、自治体関係者など多様な方々が出入りする施設環境はつながりを生むという観点でも魅力の一つです。そのため今回のスタディーツアーでは「この施設こそ見に行かなきゃいけないよね」という思いで使わせていただきました。


先進的な地方創生の取り組みを学ぶ勉強会の内容とは

「会津と地方創生」をテーマに現地のキーパーソンを招いて行われた勉強会。具体的な内容を土井さんにうかがいしました。

土井さん:最初に訪れたのは、磐梯町をはじめとする会津地域の中心都市・会津若松市にある「スマートシティAiCT(アイクト)」です。アイクトとは、首都圏などのICT関連企業が機能移転できるICTオフィスとして2019年にオープンした施設です。

そこでは会津若松市スマートシティ推進室長の本島靖さんにスマートシティの取り組みについてお話をうかがい、施設を案内していただきました。会津若松という地域に首都圏の名だたる企業が拠点を作り、地域課題の取り組みをされているのがまず興味深かったですね。昔の街並みの中に近代的な建物という象徴的なものがあり、人々を集めるシンボル的存在になっているのを肌で感じました。

その後はLAC に場所を移し、磐梯町のまちづくりに欠かせない方々に登壇いただき、勉強会&ワークショップを行いました。

【ご登壇者】※登壇順
・会津若松市スマートシティ推進室長:本島 靖氏
 【スマートシティの取り組み】
・會津価値創造フォーラム:矢野睦氏、澤 尚幸氏
 【現地プレイヤーの取り組み】
・磐梯町長:佐藤 淳一氏
 【町経営を知る】
・株式会社LIFULL:小池 克典氏
 【地方創生の実践とこれから】

今回の勉強会では、我々のようなベンチャー企業が地域に入る際に、地域の特性を知ることの重要性やさらに知った上でどのように関係性を作るのか、またすでに地域で取り組みを行なっている方々がどのような動きをしているのかを凝縮して学習できたように思います。そもそも磐梯町の魅力とは、さまざまな肩書き、二足三足のわらじを持ってらっしゃる方が混じり合いながら地方創生の取り組みを行なっている点です。そのため磐梯町という場所に人材が集まるメカニズムやチームとしての動き方を知ることは、勉強会の大きな目的でもありました。


まっさらな自然がそこにある 磐梯町の「また来たくなる」体験

そして今回のスタディーツアーでは勉強会以外にも磐梯町周辺地域の魅力に触れる体験プログラムを盛り込んだという土井さん。磐梯町は観光という観点からも特別な魅力を感じたと言います。

土井さん:今回スタディーツアーのプログラムの一環として、エクストリーム温泉を訪れました。エクストリーム温泉とは、磐梯町と隣接する猪苗代町にそびえる安達太良山の中腹付近に湧く源泉「沼尻元湯」で、源泉と川が交わる天然の露天風呂です。源泉は登山道の道中にあるため、参加者たちとはトレッキングを楽しみました。

歩きながら参加者同士で「会津地域ではこんなことができるんじゃないか」と語り合ったりして、それもまた有意義な時間でもありましたね。険しい道の先には「まさに秘湯」という景色が広がっていて、これがまた観光地っぽくなりすぎていないのがいいんです。人の手が加えられていない自然な形がそのまま残っていて、自然豊かな会津地域ならではの魅力を感じました。


さまざまな人々が集い共鳴する場所——「磐梯町」だからこそ得られるリモートワークのメリット

現地のキーパーソンを招いての勉強会やエクストリーム温泉での体験プログラムなど、内容がぎっしり詰まった磐梯町をはじめとする会津地域でのスタディツアー。今回の体験を通して、勉強会やリモートワークを行う場所として、磐梯町はどのような魅力を秘めていると感じたのでしょうか。

土井さん:今回のスタディツアーを通して感じたのは、磐梯町という土地が多様な人々を自然とつなげ、次なる新しい展開を生み出すような可能性に満ちているという点です。例えば、ツアーの拠点として使わせていただいたLAC会津磐梯は、役場の職員の方々がサテライトオフィスとして利用されています。そのため日常的に行政職員と同じ環境で仕事ができるというのは、ほかの地域ではできない磐梯町ならではの体験だと言えます。それこそ磐梯町のきれいな空気を吸いながら、その地域で活動されている方々と自然と出会える場所でリモートワークができるというのは、非常に得がたい体験ですよね。

都心のオフィスにある自分のデスクと比較したときに、磐梯町はまさに対極にあたる環境。というのも、基本的には都市部で仕事をしていると、どうしても同質性の高い人しか集まらない傾向にあると思います。一方、LAC会津磐梯の場合は、子ども連れのお母さんが来たり、行政職員が来たり、町長が来たりするような環境。“当たり前が当たり前じゃなくなる”環境でリモートワークできるわけです。普段の仕事をしつつも、多様な人々と交われるような環境に身を置くという経験は、磐梯町だからこそ実現するリモートワークのあり方でもあります。こういったほかにない体験を通して、あらたなビジネスにつながるような機会を磐梯町には感じました。


ワーケーションの新たな可能性を提案——今後磐梯町でやりたいこと

今回のスタディーツアーを振り返り、磐梯町には地域内外の人々がともに取り組める「受け皿」があるとあらためて実感したという土井さん。新たな事業展開という観点からも可能性に満ちた磐梯町という土地で、今後展開してみたい事業や構想についてうかがいました。

土井さん:現在、内閣府の事業の中で、ワーケーション事業を展開しています。なかでも「ワーケーション×スキルアップ」という新しいワーケーション事業を本年度の取り組みとしています。具体的なスキルアップというのは、例えば船舶免許や狩猟免許をワーケーション期間中に取得するという内容です。これは私自身の経験でもあるのですが、新しいスキルを持つと今まで見えなかった世界が見えることがあります。学びを通して、地域の魅力がさらに味わえたり、スキルアップによって得た経験や能力が仕事の幅を広げてくれたり、さまざまな体験が期待できます。この「ワーケーション×スキルアップ」の事業を来年度は磐梯町でも展開をしたいなと考えています。

もう1点は、我々の活動を通して、地域の方たちに還元できるような取り組みを検討しているところです。ベンチャー企業約60社の中には、地域にはないような仕事をされている方々も多くいらっしゃいます。そういった方々を通して、地域の子どもたちに新たな働き方や仕事観について伝えていきたいです。さらに就職先の選択肢の一つとして、雇用創出という観点からも地域に還元したいと考えています。こういった取り組みによって、人材が地域にも根付き、都市と地域の人口循環のようなものを我々ベンチャー企業がプラットフォームになりながら進めていきたいです。


土井さんのみならず、参加者の多くにとって大いなる学びの時間となった今回のスタディーツアー。参加者からは「地方にも元気なプレーヤーがたくさんいることが分かりました」「我々が知らないだけで、地方は進んでいることがたくさんあった!」という意外性を含んだ声も。これまで知らなかった磐梯町の取り組みを学び、多くの刺激を受けたようです。さらに参加者同士も寝食をともにすることで横のつながりを強化できたと言います。すでに「磐梯町で何かをやりたい」というアイデアを相談し合うメンバーもいるのだとか。それは都市部のデスクの上では決して味わえない、身体性を伴った体験ができる磐梯町だからこそ紡ぎ出せる産物なのかもしれません。

人と人、地域と企業とのつながりにより新たな化学反応を生み出すまち・磐梯町。チームビルディングや勉強会の場としてもぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?


プロフィール

土井隆(どい・たかし)
神奈川県座間市出身。楽天株式会社を経て、株式会社ルクサにてEC事業に従事。2017年より鹿児島県⻑島町の地方創生統括監として地方創生事業に取り組む。2020年より熱意ある地方創生ベンチャー連合に参画し、事務局長としてベンチャー企業と地域による地方創生を推進している。


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