記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【推しの子】考察 父親は斉藤壱護

 推しの子もいよいよ終章が進行中です。いよいよ真相が明かされつつあり、ミステリで言えば解答編が幕を開けている最中かと思われますが、そこから得られた新事実も数多くあり…。すべての真相が明らかになる前ということで、滑り込みで考察していきたいと思います。


■終章前までの考察

・DNA鑑定は鏑木Pがシロで、姫川大輝がアクアと父親が同じ
 DNA鑑定は高額なため、確実に血縁であるルビーとは行っていない可能性が高い
 →アクアとルビーは父親が同じだと確定していない
  ・二卵性双生児は異父過妊娠という、双子の父親が異なる稀なケースが存在する
  ・アイはララライの実情からして妊娠時に複数の男性と同時期に関係を持った可能性が高い
⇒父親は二人いる、カミキと人物A

・人物Aについての推測
 ・人物Aはカミキと同様にリョースケと接触をもつ人物、カミキ以上にリョースケのコントロール権を持ち、カミキ自身がリョースケに下した命令と思わせて人物Aの意思に従って動かすことができる
 ・アイとも姫川愛梨とも、カミキと同様に関係を持っていた
 ・雨宮ゴローを殺す動機がある
  ゴローを殺す動機はあるが、双子を堕胎すようには強要しない父親
  アイとゴローが恋仲になった可能性がある、ゴローが双子の父親になることを申し出た場合、それは許容できない
  →子供の出産は許すが、父親を公表しないにもかかわらず、自分以外が父親になることを阻む

■154話 時系列の不協和

 153話に、姫川夫妻(上原)の葬式を受けて命の重みに耐えかねているカミキにアイが別れを切り出し、その理由が妊娠だということが154話で明かされます。
 姫川夫妻の心中時期は作中でも指摘されている通り、ドームライブの打ち合わせ中にその報道を見ており、時系列の確定している出来事です。
 この心中事件と妊娠の前後関係が噛み合わないのではないかと話題になっていました。
 一つは心中事件→双子の妊娠とするもの。
 ドームの打ち合わせは長期スパンで行われるため、双子の誕生前に心中事件があったとする説。この場合は姫川大輝の当時5歳ほどだったという証言とかみ合いません。
 もう一つは、双子の妊娠→心中事件→二度目の妊娠とするもの。
 こちらは年齢的にも矛盾が生じません。この場合、双子の父親はカミキ以外の人物になります。この場合のアイは双子の妊娠を隠し通せており、「妊娠した」とは言ったものの初産だとも言っていない、という嘘は言っていない意味に成します。
 二度目の妊娠という発想は意表を突きますが、こちらを採用すれば、アイの死期を悟ったような行動をとった意味も納得できます、なにせ妊娠という確固たる理由があるので。
 この場合、ゴロー殺しはカミキの手によるものではないということになります。また病院近くに現れた中学生がカミキだった場合も、何か他の理由付けが必要になります。しかし異父過妊娠を主張せずとも、カミキではない父親の可能性が浮上したことは私にとって収穫でした。これで人物Aについて確信をもって掘り下げることができます。

■父親の人物像

 人物Aに繋がる最大の糸口はゴロー殺しです。ゴローは殺すのに双子は生かしているという部分にホワイダニットが隠れています。
 関係を持った何よりの生きた証拠になるのが子供です。その子を害す目的で産科医を殺したのかと思えば、その産科医を殺したとしても別の医師が出産に立ち会うだけ。だとしたら純粋に産科医その人が殺害の目的だったと考えるしかない。
 ゴローはおそらくアイにさりなのことを話しています。そして飛躍した想像になりますが、さりなはおそらくアイと自分が血縁であると勘付いていました。でなければ、病室から一歩も出られなかった少女が自分のあり得たifとして具体的に親とアイドルを上げることはないでしょう。アイとさりなの父親は共通だった。さりながライブを見に行くにも血縁の誰かの手引きがあったはずです。でなければ宮崎の病室のさりながデビューまもない弱小アイドルグループを知る手立てがない。
 この背景を踏まえてゴローとアイを考えたときに、彼らが恋仲か、でなくとも深く信頼しあう仲になったことは本編の描写を踏まえても大外れではないはずです。そしてゴローのバックボーンを見るに、彼が双子の戸籍上の父を名乗り出るのも不思議ではないと思われます。

 人物Aは生きた証拠である子供は生かすのに、戸籍上の父親は許容できない。これはとても奇妙に思えます。
 父親は、アイがアイドルをする都合で出産の事実ごと秘匿されていますが、この奇妙な父親像を考えるに、そもそも普通の出産だった場合も公に父親を名乗れない人物なのではと考えました。

日本において婚姻届が受理されない近親婚は、以下の通りになります。

・本人
・直系血族
・三親等内の傍系血族(兄と妹、姉と弟、おじと姪、おばと甥)(養子と養方の傍系血族を除く)
・直系姻族(婚姻関係終了後も継続)
・養親とその直系尊属及び養子とその直系卑属(離縁後も適用)

Wikipedia 近親婚#日本(現在)

 この最後の項目の養子縁組に纏わる条項が重要です。これは一度養子縁組をしたら、離縁した後も近親婚として婚姻届けが不受理になるわけです。
 斉藤壱護はアイの身元引受人ですが、131話のなかで「時が来たら正式に私がアイを引き取ります」というセリフが出てきます。これは身元保証人の件で名義貸しで良いと交渉を進めながら、それに続いて出てきたセリフです。
 この「正式な引き取り」を養子縁組と解釈できたなら(勇み足ですが)、人物Aの行動理由を説明できることになります。父親と公に戸籍にも記すことができない、それでも母と子供を愛しているのに、ぽっと出の戸籍上の父親が名乗り出てきたのなら、子供を生かして間男を殺す動機にはなるんじゃないでしょうか。不可解な動機もありきたりな愛情として理解することができます。

 斉藤壱護が父親なら、様々な全てに説明がつきます。
 ごく少数しか知らなかった宮崎の病院を探り当てられたのも、そもそも壱護も随伴していたから。ミヤコにも知らせなかった理由にも頷けます。
 いちごプロに内通者がいたのも、代表者本人。転居先の住所を知っていたのも手配に関わったその人。アイの死後、斎藤夫妻として双子を養子に迎え入れなかったのも、失踪したのも、アイとの関係を表沙汰にできなかったことを考えれば納得できます。
 アイがなぜDVDを託した相手がカントクだったのかも、アイにとって壱護が託すにたる信頼できる大人ではなくなっていたことを考えるとわかります。また、斉藤壱護も金髪なため、カミキが父親でなくても双子が金髪である理由付けにもなります。もしかしたらサングラスの奥は星の瞳かもしれません。
 そして何より、15年の嘘が復讐として機能する本当の理由がはっきりします。15年の嘘はカミキを父親として告発し、社会的制裁を受けさせることを目的としているように見えます。しかし裏腹にアイ自身がそれを許しているかのような追加カットも存在しています。
 ゴロー殺しの犯人にとって殺人を犯すほど許しがたいことは、双子の父親が自分以外の誰かだと公にされることです。必然カミキを父親だと告発する15年の嘘は、ゴロー殺しの犯人に対してもこれ以上ない復讐として機能するのです。

■「別れた男」

 しかし説明のつかないことも残っています。アイが別れた男にした電話です。
 子供たちに一度会ってみないかと持ち掛けており、これは斉藤壱護では成り立ちません。
 また、妊娠したからもう会えないと持ち掛けたカミキに対しても、別れ話と電話との時期がそう遠いとは思われず、奇妙に思えます。
 私はこの「別れた男」が誰でもないのではないかと考えています。

 8話の冒頭を読んで、この別れた男こそが双子の父親なのだと思っていました。子供の顔見せをしたい相手、子供が父親の存在に疑問を持った際に会わせたい相手となると血の繋がった父親以外考えられません。
 しかし、単純に昔付き合っていた相手にシングルマザーである自分の子供を顔見せする、という意味でも取れなくはないと思われます。当面の父親役として、幼い我が子が納得する手助けになってほしい、「賢い我が子なら」大きくなってから説明してもきっとわかってくれる…。

 アイは4話で給料が心許ないことに触れています。売れてきた時点でもそうなので、高額であるDNA鑑定などは出産時にも行っていないだろうことが推測できます。アイ自身にとっても双子の父親が誰か不明で、その上でなお産むと決めたのだと思います。

 正直ものすごく苦しい強弁だと自覚しています。「別れた男」と斉藤壱護説の両立をはかるにはどうしてもこのくらい苦しくなってしまいます。
 いってしまえば、争点は「父親は既に物語の中に登場しているのか否か」です。いるのであれば、私には斉藤壱護説しか見つけられなかったし、いないのであればいまだ未登場な似た条件を持つ「別れた男」が父親です。私は【推しの子】を絡新婦の理を踏襲したミステリとして読んでいるため、ノックスの十戒の1を踏まえて斉藤壱護説を推しています。

 これ以上に信憑性の高い考察や公式からの解答などが出たらすぐさま平伏する心持ちでいます。

■結び

 それにしても父親斉藤壱護説を取ると、「アイドルの妊娠タイミングで死ぬと推しの子に転生できる」のカウンターとしてもう一つの幻想「アイドルはどうせプロデューサーに食われてる」を地で行くようで痛快さを感じます。また、館ミステリでの使用人が犯人といったベタな手を、序盤の被害者のように心理的な疑いにくさで覆い隠したのが実に心ニクいミステリだと感嘆しました。絡新婦の理に加えてうみねこのなく頃にもフィクションへの姿勢として似ているなと感じながら読んできたので、ちょっぴり楽しくなっちゃいました。
 私も一期アニメの頃から最新話に追いついて、かれこれ今までじっくり頭を悩ますことができたので大変楽しく謎解きができました。152話を読んだ後とか、作中でDNA鑑定結果が既出だったのをすっかり忘れて鏑木P父親説で頭を悩ませていたりしました。
 宮崎方面の家系図や神の名前当てなど取り組めていない謎は山積みですが、また無粋の極みかもしれませんが、ひとまず枯れ木も山の賑わいの気持ちで投稿させていただきます。真相が明かされていくのが毎週楽しみです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?